第111話 バグ慰霊祭の準備(1)
「
11月上旬のある日。バグ慰霊祭実行委員として淡々と準備を進めている俺たちだが、参加者募集の告知を送る段になって、少し心配な点がある事に気づいてしまった。
「ん?聞きたいこと?なんだ?」
ゲームをプレイしていた俊さんが椅子をくるんと回転させて振り向いてくる。
「これって、参加者は基本的に限定しないんですよね」
「ああ、そうだが?
「ですよね。それはいいんですが、普通の学部生が参加することって、あります?」
「年によるな。0人って事もあるし、5人来た事もある」
その答えに少し考え込んでしまう俺。
「前に、ミユが男子に対して、反応が過敏気味になる事は言いましたよね」
「ここに入るきっかけの一つだったしな。しかし、それが……ああ、なるほど」
話している途中で、俊さんも気づいたようだ。
「最近は、俺もそのこと忘れてたんですが、ちょっと心配なんですよ」
「とはいえ、編集部員や先生方のみ参加OKとは行かないぞ?」
「ですよね。だから、当日は気配りが必要かなと考えてました」
現在の暫定プログラムでは、
18:30
18:40~19:00 バグ慰霊の儀
19:00~ バーベキュー&飲み会
という感じになっているが、雰囲気に酔って、ミユに変な絡み方をする学生が居たらと思うと、少し心配にもなる。
「リュウ君、ちょっと心配しすぎだよ」
トイレに行っていたミユがいつの間にか戻って来ていたらしく、口を挟む。
「いや、しかしなあ……」
「リュウ君も、私が普通に話せるようになってるの見てると思うけど?」
「まあ、木橋もそうだし、他の連中も軽く雑談はするようになってるな」
特に2学期になってから、ミユもだいぶ他の連中にも普通に接する事が出来るようになったように見える。1学期は最初にトラブったせいで、こっちから話しかけづらかったのに比べると格段の進歩だ。
「そういうこと。だから、心配しないで?」
「わかった。でも、辛かったら言えよ」
確かに、心配し過ぎるよりここはミユを信じるべき場面かもしれない。
「ところで、バグ慰霊の儀って、例年何やってるんですか?」
適当でいいとは言われているが、実際問題どうやっていたのか気になる。
「去年の話になるが……まず、1000枚の紙を調達しておいた」
「1000枚って新品の紙ですか?もったいないような」
「バグを慰霊するという趣旨を忘れたか?プログラムを印刷したものだ」
「どこから調達……ああ、計算機室だったらいっぱいありそうですね」
計算機学部棟にある計算機室は、うちの学部生がレポート課題のためなどによく使っていて、印刷したプログラムが大量に廃棄されている。
「そういうことだ。あとは、焚き火の上に紙を投下して、どんどん燃やしていく」
「様子を想像すると、いっそ不気味ですね」
何やら怪しげな事の証拠を隠滅しているようにすらみえるかもしれない。
「で、巫女役が「祓い給え、清め給え~」と言いながら踊る」
「踊り?初めて聞きましたよ」
「うう。ちょっと踊りは恥ずかしいなあ」
巫女服を来て、参加者一同の前でミユが踊っている様子を想像する。
「結構、いいかもしれないな」
「リュウ君?」
ジト目で睨まれてしまい、慌てて咳払い。
「ま、踊りは適当でいいさ。盆踊りだろうが舞だろうが」
「そのいい加減具合が
実際、神社の巫女らしくしっかりとした儀式をやれと言われても困るが。
「そして、最後に「バグ退散!」と唱えて儀式は終了だったな」
「バグを慰霊するというお題目だったはずでは。なのに、バグ退散とは……」
「それっぽい儀式をするだけでいいんだ。お題目はなんでもいいさ」
「ぶっちゃけましたね」
儀式の流れがかなりテキトーな事がわかっただけでも収穫か。
「あ、そういえば、リュウ君も神主だから、儀式に協力してもらわないと」
「神主さんのコスプレだけで十分だろ。儀式はミユ単独の方がいいって」
「私にだけ、恥ずかしい思いをさせるつもりなの?」
瞳をウルウルとさせて俺を見つめてくるミユだが、さすがに演技……だよな。
「わかった、わかったってば。でも、先生方も見に来る……ですよね」
一体、何しに来るのかとは思うが。
「ああ。
「両方ともかなりの変人ですね」
「ま、お堅い先生はわざわざそんなイベントには参加しないさ」
「それは言えてますね」
その後も、先生方が参加した場合に、誰かに軽くしゃべってもらった事や、バグ慰霊祭にちなんだイベントとして、バグ慰霊祭特別ビンゴ大会などもやったらしい。
「内容は参考程度に。適当でいいからな」
と言われて、その場は解散。そして、家への帰り道にて。
「でも、やるからには、面白い集まりにしたいよね」
見るからにやる気になっているミユ。
「そうだな。プログラム関連でいいネタないか考えてみよう」
「じゃあ、帰ったら
「了解。そういえば、都も巫女装束着るんだよな」
大和撫子といった外見の都が巫女装束を来ている場面を思い浮かべる。
「都ちゃんは髪も染めてないし、ロングだし、すっごくハマり役かも」
クスっと笑いながら、そんな事を口にするミユ。
「俊さんがどんな顔して見てるのか、ちょっと気になるな」
「きっと、すっごくだらしのない顔をしてると思うよ?」
「前も聞いた気がするけど、あの俊さんに限って……て思うんだよな」
あの人が、女子の話をする事は滅多にないし、付き合い始めてからも、あまり都との事は深く話そうとしない。
「ま、とにかく、楽しい催しにするのが仕事か」
当日の買い出しなど、まだまだやることは山程ある。
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