第109話 閑話 -入浴剤を使ってみよう

「ね、ね。みやこちゃんに、誕生日プレゼントでもらった入浴剤あったよね。使ってみない?」


 10月27日の土曜日。そろそろ11月も近づいてきて、少しずつ肌寒い日も増えて来たある日の夜。食卓でミユがそんな事を言い放った。


「ん?別に使えばいいんじゃないか?」


 なんで俺にわざわざ言う必要があるんだろう……と考えて、自分の失言に気づく。


「そ、その。1人じゃなくて、2人で入ろうって話なんだけど」


 ミユは少し顔を赤くしている。


「ああ、悪い悪い。ちょっといきなりだったもんだからさ。じゃあ、入るか」


 こういう時の機微には未だに少し疎いことを反省。


 というわけで、夕食の後、お湯を張って入浴剤を入れたのだが……


「な、なんか泡がすっごいね……」

「あ、ああ。俺も予想外だ」


 入浴剤を入れると泡がブクブクと出てきて、浴槽一面に泡が広がっていく。偏ったイメージだが、洋画のワンシーンでグラマーなキャラがこういうのに浸かっていそうなイメージ。


 お互いに身体を洗ってから、浴槽に向かい合わせで浸かってみると、泡で下半身が見えないのだが、逆にそれが妙に色っぽく見える。


「そ、その。なんだかドキドキしてこない?」


 ミユも同じことを感じていたらしい。


「あ、ああ。それに、お湯がネットリしてるし」


 入浴剤のいい香りもあって、否が応でも変な気分になってきてしまう。


「私は、その、別に、いいよ?」


 雰囲気に当てられたのか、ミユもなんだか赤くなりながらもOKの返事。


「それじゃあ……」


 浴槽の中で身体をくっつけて、口づけを交わす。普段と浴槽の状態が違うせいか、やっぱりなんだかいかがわしいことをしている気分になってくる。


「お湯がネトっとして、なんか変な気分……」


 キスをしながら、そんな感想をつぶやくミユ。よくわかるぞ。


 そのまま、結局、たっぷり30分程一緒に楽しんでしまったわけだが-


◇◇◇◇


「かんっぜんにのぼせたな……」

「うん……」


 お風呂から出た俺たちは、寝室でダウン。さすがに30分も浴槽の中で、あんなことやこんなことをすれば当然か。にしても-


「あの入浴剤なんだったんだろうな」

「美肌効果って都ちゃんは言ってたけど……なんか違う気がしたよ」

「ちょっと検索してみる」


 入浴剤のパッケージは英語だから、特に読まずに適当に1回分を入れてしまったが、そもそもどういうものだったのか。そして、検索して出てきたのは-


「これって、セクシーバスローションって奴らしい」

「そ、それってひょっとして……」


 語感から意味を想像したのだろう。顔を赤くしている。


「ああ、エッチの時に使う用、らしい。都の奴、何が美肌効果だ……!」


 あいつがこんなイタズラをして来るとは思いも寄らなかった。思えば、香りとかも含めて、カップルでの雰囲気を盛り上げるためのものだったのだろう。


「都ちゃんらしくないよね。でも……」

「でも、なんだ?」

「こ、これはこれで良かったし。リュウ君はどう?」

「あ、ああ。俺もちょっと色々新鮮だったけど……」


 シャクではあるが、つい致してしまいたくなる雰囲気が出たのは事実だ。


「しっかし。都らしくはないよな」

「でも、しゅん先輩と付き合ってから、色々変わったなって思わない?」

「それは確かにな。恋は人を変えるって事かね……」


 しかし、美肌のための入浴剤と偽ってイタズラを仕掛けられたわけだが。こんな顛末になってしまって、抗議したものか感謝したものか悩ましい。

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