第100話 わんわんランドでデート

「ね、ね。週末、デート行こうよ」


 夕食を終えて、寛いでいると、ミユがそんなことを言ってきた。


「どこか行きたいところでもあるのか?」


「うん。つくなみわんわんランドって言うんだけど……」


 「つくなみわんわんランド」のページが表示される。


「確かにつくなみだけど、割と遠いな。沼太ぬまたなんて初めて聞いたぞ。駅からシャトルバスが出てるのか。筑派山つくはさん口下車、と」


 もう少しアクセスがいいところだと楽なんだけど。


「わかった。行こうぜ。わんわんランド。にしても、ミユがこういうところへ行きたがるなんて珍しいな」


「私だって、ちゃんと人並みに犬とか猫ちゃんが好きなんだけどな。犬動画とか猫動画とかよく見るし」


「そういえば、ミユはどっちかというと犬派だったっけ」


「猫ちゃんも可愛いんだけど、なんていうか気ままな感じがするっていうか。犬の方が情が深いって思わない?」


「言われてみれば。ミユも猫か犬かといわれると、犬っぽいところあるよな」


「犬っぽい?私が?」


「凄い尽くしてくれるところとか。あと、撫でると喜ぶところとか?」


 言いながら、ミユの頭を撫でてみる。


「むー。褒めてくれるのは嬉しいけど、ペットみたいに言われるのはちょっと……」


 微妙な視線が飛んでくる。


「いや、冗談だって。とにかく、週末はわんわんランドな」


 というわけで、週末はわんわんランドでデートする事が決まったのだった。


◇◇◇◇


 そして、時は流れて週末。つくなみ駅からシャトルバスで約40分揺られて、筑派山口前まで。


「なんか、周囲、ほんとなんにもないね……」


「つくなみって田舎だってのを実感するよな。バスの本数も少ないし」


 やっぱり、車の免許が要るよなあ。


「でも、空気が綺麗だよ?」


「物は言いようだよな。わかるけどさ」


 そんな事を言いながら歩くこと約10分。目的地の「つくなみわんわんランド」が見えてきた。


「なんだか、こじんまりとしてるね」


「ああ。結構広いはずなんだけど」


 到着した俺たちが目にしたのは「つくなみわんわんランド」という看板がかかったこじんまりとした入り口。少し建物も古めかしい気がする。


 入り口で一人1500円の利用料金を払って入場。


「で、どこ行く?」


「じゃ、まずはわんわん広場に行きたいな」


「ああ、あの、大きな犬の置物があるとこな。了解」


 というわけで、わんわん広場に移動。


「わあ。おっきい!これ、作るの大変だったんだろうね」


 下から高さ11mという木造犬の展望台を見上げて感嘆のため息を漏らすミユ。


「可愛いじゃなくて、作る側の視点がまず出てくる辺りがミユだよな」


 わんちゃん可愛いーじゃない辺りがやっぱりこいつだなと思う。


「むー。それって、私が女の子っぽくないって言ってる?」


「言ってないって。可愛い可愛い」


 髪を撫でたくなってくるのだけど、今はデート中なので我慢我慢。


「取って付けたみたいなのが気になるけど。ま、いっか。でも、これ、ほんとどうやって作ったんだろうね?」


 やっぱりそっちの方向に興味が向いているミユ。少し微笑ましい。


 そして、次に訪れたのが子犬展示館。子犬たちを間近で見られるらしい。


「あー。やっぱり子犬は癒やされるよねー」


 ぽややーんとした表情で、色々な犬種の子犬を見つめるミユ。


「わかるわかる。なんで、こんな癒やされるんだろうな」


 俺も見ていると、心が浄化されていくようだ。

 動画を見ているのとはまた違った良さがある。


「皆でおっぱい飲んでるのも可愛い。でも、お母さんも大変なんだろうなあ」


 1、2、3……6匹もの子犬がお母さん犬からおっぱいを吸っている。犬種はウェルシュ・コーギーというらしい。


「じっとしてないといけないだろうしな。それに、もっとこいつらがおっきくなったどうするんだろうな」


「ね。やんちゃになる年頃は、お母さん大変そう。私もいつか赤ちゃん産んだら大変なんだろうなあ」


「ちょ。おまえ、なにげにかなり恥ずかしいこと言ってるぞ」


「う。で、でも。結婚するってことは、いずれは赤ちゃん産むってことでしょ?」


 少し顔を赤くしつつも否定しない。しかし、色々むず痒いのも確かで。


「そういう未来の話はまた今度な。とりあえず、今は子犬を愛でようぜ」


 ミユはまだなんだか言いたそうだったけど、結婚すらしていないのに、子どもの話なんて手に余る。


 しばらく、そうして子犬たちを見て癒やされたのだった。


 次に訪れたのがわんわんパーク。直に色々な犬たちと触れ合える場所だ。


「あー。よしよしよし」


 ミユは一匹の柴犬が気に入ったらしく、頭を撫でたり背中を撫でたりしている。さすがに、人馴れしているのか、その柴犬も大人しく撫でられるままになっている。


「はぁ。ずっとこうしてたくなっちゃう。実家でも、犬飼いたかったなー」


「俺らのマンションペット禁止だったもんな。でも、一時期、ミユの部屋に野良犬が迷い込んでた事があったよな」


「うんうん。あの子、とっても人懐っこくて可愛かったなあ。できれば、ずっと面倒見てあげたかった」


 当時小学校だった俺たちだけど、どうやって侵入したのか、俺達の住む部屋の近くまで、雑種らしき中型の野良犬が入り込んできたことがあった。その野良犬が大層人懐っこかったものだから、一晩だけミユの家で世話したことがあったのだ。


「ま、俺達が結婚した時にはペットOKのところでも探そうぜ」


「もう。リュウ君も十分気が早いと思うけど?」


「赤ちゃんよりは気が早くないって」


 その柴犬が気に入ったのか、猫可愛がりじゃなかった、犬可愛がりするミユを微笑ましく見ながら、そんな少し未来のことを語り合ったのだった。


 その次に訪れたのはねこハウス。わんわんランドとは言うけど、ここはねこがいるらしい。


「なんか、自由って感じだな」


 少し狭い、ねこハウスを訪れて素直に思ったのはそれだった。ねこ用の遊具などがあって、色々な種類の猫たちが、だらーんと昼寝をしていたり、遊具によじ登ってみたりと好き勝手に過ごしている。


「なんだか、すっごい性格がわかるよね。あの猫ちゃんとか、私達の方、一瞬見たけど、すぐ目線逸して、興味なさそうにだらーんとしてるし」


 地べたで寝っ転がっている、少し大きな猫を指してミユが言う。


「そういうところ、やっぱりミユはよく見てるな。気づかなかったよ」


「そういうときはね。目を見るの。ほら、あの子とか、なんだか上に登りたそうにしてる」


 言われてみれば、なんだか上をじーっと見ている一匹の猫がいるかと思ったら、ジャンプして、台に乗っかった。


「おー。さすがミユ、見事な観察眼だな」


「それほどでもないけど。でも、猫動画見てると、何やりたいかが結構目に出てるんだよね」


「へー。今度からは、俺も目に注意してみるかな。でも、こいつら退屈しないのかな。だらーんとしてる奴ら多いけど」


「どうなんだろ。猫ちゃんの気持ちはわからないし。でも、元々猫は夜行性だからね。昼間にだらーんとしてる子が多いのも自然だよ」


「そういえば、そうだったな。なんか、昼間に動いてる映像ばっかり見るから、つい忘れそうになるんだよな」


 猫の生態について思いを馳せながら、しばしねこハウスを楽しんだのだった。


 その後もドッグランで犬が走る様子を見たり、わんわんレンタルで、やっぱり柴犬を少しの間レンタルして楽しんだりしたのだった。


「今日はありがとね、付き合ってくれて」


 わんわんランドを出た後のことだった。


「別に今更お礼言うことでもないだろ。俺も癒やされたし」


「もう。お礼くらい素直に受け取ってほしいな?」


 そう言いながら、ぎゅっと腕を絡めてくる。

 俺を見上げる視線がどことなく犬っぽく感じて、つい髪を撫でてしまう。


「ちょっと。髪型崩れちゃうんだけど。まだデート中なのに……」


「もうわんわんランドは出たからいいだろ?」


「帰るまでがデートなんだってば」


 そんな事を言い合いながら、和気あいあいと帰路についたのだった。

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