第101話 新入部員との雑談

 二学期編入生であり、関西出身の木橋きばしが部員に加わってからのある昼のこと。


「なあ、ちょっと突っ込んだ質問になるんだけどさ。前に、大阪が嫌で……って話してただろ。あれって、そんなにひどいのか?」


 学食を食べながら、前々から少し引っかかっていた事を聞いてみることにした。


「別にひどいっちゅうわけやないんやけどな。良く言えば情に厚いともいえるし、俺の好みもあるんやけど」


「東京なんかに比べると、助け合いの精神が残っているってのは聞くよな」


 実際には行ったことがないので、イメージだけど。


「うんうん。道端にいる人もなんか気さくなイメージがあるよ」


 ミユも同意する。


「なんちゅーか、ボケツッコミが出来て当たり前、そういうノリに乗っかかれんやつはおもろいない、みたいな話があったり。あとは、悪気はないんやろけど、ナチュラルに人が気にしてる部分弄ったりする奴も多いな。それでもって、弄くられた方もそれでキャラが立つんやから、我慢せんと、みたいな」


 そう言う木橋は苦々しそうな顔で、色々苦労していたんだろうなと思う。


「そういえば、木橋はそんなにボケツッコミをするってイメージじゃないな。関西弁だけど、あんまり標準語でしゃべってるのと変わらないっていうか」


「せやろ。まあ、仲間内では割と無理にボケツッコミとかはしてたんやけどな。どうにも、そのノリが俺には合わんかったんやろな。で、進学先は関東ってことで色々探してたんや」


「そっか。まあ、大阪がどうかは俺にはわからないけど、にしても、なんで筑派選んだんだ?東京にも色々あると思うが」


 少し考えるだけでも、いい大学はいくらでも思い浮かぶ。


「んー。まあ、東京でも良かったんやけど、こっちはAC入試って制度があるやろ?」


「あー、AC入試か。俺たちは一般で入ったけど、木橋みたいに凄い特技がある奴だと有利そうだな」


 AC(Admission Center)入試とは、他大学で言うAO(Admission Office)入試のようなものだが、うちのAC入試はとりわけ一芸入試に近いと聞いている。


「別にそんなに凄い特技やないけどな。自己推薦書に作って来たプログラミング言語のこと色々書いて、あとは面接だけやったから、楽なもんや」


 なんでもない風に言うが、ACで入ったやつには尖った人間が多いと聞くし、こいつも相当尖っているように見える。


「自己推薦書っていうのは?なんとなく、自分を推薦するって意味はわかるんだが」


「読んで字の如くや。ACは「問題解決能力」を重視する。授業の成績は問わんってことやったから、A4用紙100枚くらいに、これまでやってきた事色々書きまくったなあ」


「ひゃ、ひゃくまい。それって、相当凄いよ!?」


 ビックリしているミユだが、こいつも相当だと思うんだけどな。


「で、面接だとどんな事聞かれるんだ?やっぱり、難しい問題を出されたりするのか?」


 普段接点がないだけに、色々気になる。


「あー、どうなんやろ。最初に、自己推薦書に書いた内容を5分くらいで説明してくださいって言われたんで、淡々と説明したんやけど。残り25分はひたすら雑談しとったな。大学に入った後は単位落とさないように、とか。俺の作った言語の仕様を詳しく聞いて来た先生もおったなあ。確か、南橋みなみはし先生やったかな」


南橋みなみはし先生って、確か、プログラミング言語の専門家だったと思うよ。講義のシラバスみたら、『プログラミング言語論』って科目担当してたし」


「道理で。南橋先生、やたらマニアックな質問してくると思ったんや。作った言語の型システムはどんな感じだとか、構文とか、インタプリタかコンパイラか、最適化のためにどんな工夫をしたかとか。さすがに大学の先生っちゅうのは違うんやなと感心したで」


「俺の個人的な意見だけどさ。それって、自己推薦書見た時点で落とすつもりなくて、あとは先生が個人的な興味で色々聞いてたんじゃないか?合否にそんなマニアックな話関係ないと思うし」



「あー、言われてみれば。明らかに合格前提みたいな話色々あったなあ。寮に入るつもりかとか、AC合格者は数学をおろそかにしがちだから注意しなさいとか。納得や」


 その時の事を思い出したのか、少し愉快そうな木橋。


「でも、木橋君。本当に凄いんだね。将来は、世界中で使われるプログラミング言語の作者になってそう」


 素直に感嘆した様子でミユが言う。


「それはさすがに褒めすぎやて。たとえ、言語が作れてもそれだけでユーザーさんはついてくるわけやないからな。今使われてる言語やって、多くは企業がバックについとる」


 それに対して、木橋はあくまで冷静だ。


「じゃあ、木橋はプログラミング言語作りはあくまで趣味って感じか?少し勿体ないように思うけどさ」


「どうやろね。俺も、もし一発当てられるなら当てたいって気持ちはあるんよ。世界的なプログラミング言語の作者になれたら、とも思うし。ただまあ、運もあるからなあて……」


 そう言う木橋は達観していて、俺たちよりもだいぶ大人なように見えた。

 同学年でこれだけ出来る奴がいるんだから、俺も負けていられないな。


「なあ、木橋。お前のプログラミング言語作りの話、今度じっくり聞かせてくれよ」


「お。高遠たかとおもプログラミング言語作りに興味湧いたか?ええで。夜通し語ろうや」


「じゃあ、今度の週末にでもな」


 大学に入ってきて、今までなんとなく講義を受けてきたけど、これからは何かもっと目標を持って行きたい。


「リュウ君、いい友達が出来て良かったね」


 俺たちの話を横でじっと聞いていたミユがそっと耳打ちしてくる。


「そうかもな。俺も、「やりたいこと」決めなきゃ、って思ったんだ」


「そっか。「やりたいこと」かあ。私もまだなんだよね」


 ミユが最後につぶやいたその言葉が印象に残った。

 なんでもできるこいつは、今、何を思っているのだろうか。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆


 第9章はこれで終わりになります。


 コメントやレビューなどいただければ励みになります。m(__)m


 第10章では、二学期半ば以降の生活をお届けします。いよいよ、秋本番

 なので、秋らしい話が増えるかもです。

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