第90話 筋肉痛になった俺の情けない1日
朝。窓から入ってくる日差しで目が覚めた俺は、トイレに行こうと起き上がろうとしたのだが。
「痛!」
腰を曲げようとした瞬間、鈍い痛みが走る。なんとか立ち上がってトイレに向かうが、両足のふくらはぎや手首の筋肉が軋みをあげる。
「いたたたた……」
痛みをこらえながら、なんとか用を足してトイレを出ると、ミユが心配そうな顔をして立っていた。
「凄い声聞こえたけど、大丈夫?」
「すまん。どうも、昨日の引っ越しで筋肉痛になったみたいだ」
「リュウ君、やっぱり運動不足だね」
「面目ない」
たかだか引っ越しのちょっとした力仕事で全身筋肉痛になるとは。
「とりあえず、今日はゆっくりしてて?荷解きは後で私がしておくから」
「ごめんな。よろしく頼む」
意地を張っても仕方がないので、ミユの言葉に甘える。
そして、布団にうつ伏せになる。この姿勢が一番楽なのだ。
「マッサージ、してあげようか?」
後ろからミユの声がする。
「してくれると助かる」
「わかったよ」
その言葉とともに、背中を指圧される。
「う、あ。気持ち、いい」
ミユはどこで学んだのか、マッサージがとても上手い。
「ほんと、プロでもやってけてると思うぞ」
前も言ったような台詞を繰り返す。
「だから、褒め過ぎだってば」
会話をしつつ、腰の方にも力を入れてくる。
「この辺り、大丈夫?」
「なんか、痛気持ちいいっていうか……」
筋肉痛のせいか、少し痛いのだが、それがまた気持ちいい。
「じゃあ、弱めるね」
腰にかかる力が弱まる。さっきまでの痛気持ちいい感がなくて少し物足りない。
「ちょっと弱くし過ぎじゃないか?」
「痛気持ちいいっていうのは、あんまり良くないんだよ。筋肉を痛めちゃう」
「そうなのか」
そんな事を話している内に、今度は太もものマッサージ。程々の力でほぐされていくのがとても気持ちいい。なんて幸せものなのだろう、と思ってしまう。
「これ、で、どう?」
指圧しながら、問いかけられる。
「ちょうど、いい、ぞ。ほんと、よく効く」
その後も、肩、手首、指、ともみほぐされていく。そして、たっぷり1時間程マッサージしてもらったのだった。
「サンキュな。だいぶ楽になった」
「どういたしまして。でも、運動しないと駄目だよ?」
言い聞かされるような声。
「今度からちゃんと運動するよ」
「よろしい。じゃ、お昼の準備するから」
ぱたぱたと台所に駆けていくミユ。そして俺はといえば、うつ伏せになりながら電子書籍を読む。今読んでいるのは、『わかる!TCP/IP』という本で、今のネットワークの基本であるTCP/IPについて網羅的に解説した本だ。TCP/IPの知識が中途半端なので、この機会に深めておきたかったのだ。
そうこうしている内に、お昼の準備が出来たらしく、ミユが呼びに来る。寝室とリビング、ダイニングが別の部屋なので、いつもとちょっと感覚が違って新鮮だ。
「今日はさっぱり、お素麺にしてみたよ」
器に盛られたお素麺に、キュウリ、トマトなどの野菜。それに、素麺のつゆ。食欲をそそる。
「うん。美味い!さすがミユ」
「褒めても何もでないよ?」
そういいつつもどこか嬉しそうだ。
「いや、正直な感想だって」
何の変哲もない素麺といえばそれまでかもしれないが、めんつゆの濃さや茹で加減もきっちりしている。
「しかし、引っ越しって普段と違う筋肉使うよなあ」
「筋肉痛のこと?」
「ああ。腰もだし、指の筋肉もこんなに普段使わないし」
食事をしている間も、指を動かすと微妙に痛い。
「午後はゆっくりしてて?」
「色々情けないが、頼むわ」
午後も、ベッドにうつ伏せになりながら、時折ストレッチをしてみたりしたが、やっぱり痛い。今日は休養するのが無難そうだ。
そうしている間も、隣の部屋の方では何やら作業をしている様子のミユ。ほんとにありがたいやら申し訳ないやら。
結局、その日は1日中、筋肉痛で思うように動けなかったので、普段よりミユに色々お世話されてしまったのだった。とほほ。
そして、明日からちゃんとトレーニングするぞ、と心に誓ったのだった。
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