第10章 二学期はじめ

第88話 俺たちは引っ越しをした(前編)

 引っ越しが決まってから2週間経った。もう2学期は始まっていて、2学期の講義は始まっているが、それはともかく引っ越しだ。


しゅんさん、カズさん、ありがとうございます」


 俺たちは揃って頭を下げる。というのも、今日の引っ越しでは、俊さんが軽トラを借りてきてくれて、俺たちの引っ越しを手伝ってくれることになったのだ。今の住所と引越し先の住所は、徒歩で10分もかからない。


 筑派大学つくはだいがく生の間では、引っ越しの時に友達同士が引っ越しを手伝っている光景を見かけるので、俊さんに聞いてみたら、あっさり了承してくれたのだった。そして、カズさんも「今日は暇だし」ということで、力作業を引き受けてくれたのだった。


 アパートの2階から、俺とミユがそれぞれ荷物を運び出して、力自慢のカズさんがそれを俊さんの借りた軽トラに乗っけてという流れ作業を繰り返す。


「先輩たちには感謝だよな」

「うんうん。カズさんも手伝ってくれたのはちょっと意外だったけどね」

「一緒にゲームしたり飯行くけど、カズさんはまだちょっとよくわからないよな」

「カズさんも結構後輩思いだったのかな」


 カズさんこと山田和人やまだかずとさんは、180cmを超す長身にムキムキの筋肉が特徴な、スポーツマンな人だが、俺たちとの接点は、もっぱら一緒にゲームをしたり、ご飯を食べに行くことで、いつもお世話になっている俊さんに比べるとまだ色々よくわかっていない。


「カズさんは、なんで今日手伝いに来てくれたんですか?」


 荷物を受け渡す時に、ふと、聞いてみる。


「これでも、一応先輩だからな。暇だったし、ついでだついで」

「そうですか。ありがとうございます」


 珍しく照れたように言うカズさん。サバサバとしていると思っていたが、意外と気を遣ってくれていたのだとわかって、少し、印象が変わった気がする。


 そうやって、積み込み作業を始めること1時間。無事、俺たちの荷物を積み込んだ軽トラは、すぐ近くの新居に走り去っていった。


 俺たちもあわてて後を追って、今度は逆に、俊さんからカズさん、カズさんから俺たちへと荷物を受け渡して、新居に搬入していく。


「なんか、入学のために引っ越した時を思い出すな」


 つい半年くらい前のことを振り返る。あの時も、こうやって、何もない部屋に荷物が運び込まれて行ったっけ。


「うん。半年しか経ってないのに、だいぶ前のことみたい」


 ミユもこの様子に何か思うところがあったのだろうか。


「おーい。この荷物、どうすればいい?」


 一際大きい段ボール箱を持ってきたカズさん。話し込んでいて、すっかり忘れていた。慌てて作業を再開する。


 そして、また1時間ほどかかって、無事搬入作業を終えたのだった。引っ越し屋さんはもっと手際が良かったが、さすがはプロというところか。


「にしても、いい所だなー。キッチンも広いし、個室も広いし」


 荷物が搬入された新居を見渡して、カズさんが言う。


「これで大体6万円くらいですね」

「ま、2人暮らしならそんなものか。俺も引っ越すかな」


 俊さんがそんな事を言う。


「俊さんって今、どこ住んでるんですか?」

佐倉さくら1丁目の1Kだな。悪くはないんだが、ちょいボロい」

「それ、家賃いくらですか?」

「2万円ちょうどだな」

「めちゃ安じゃないですか!?」


 俺たちが住んでいたところが、同じような条件で3万円近くだった事を考えると、破格の安さだ。


「築年数の差だな。最近は、もっと広い部屋でもいいかと思ってるが」

「どうしてまた急に?」

「彼女を泊めるのにあそこだとちょっと悪い気がしてな」


 ポリポリと髪をかく俊さん。やっぱり、都に対しては、ちゃんと向き合っているというか、予想以上に色々考えているらしい。


(都ちゃんも幸せものだね)

(ああ)


 そんなことを囁き合う。


「じゃ、また来週」

「仲良くやれよー」


 などと言って、2人は去って行った。さて、残るは、新居に荷解きの済んでいない段ボール箱の山。とりあえず、今日寝られるようにしないとな。


「よし、続きやるか」

「うん!」


 そして、俺たちは荷解きの作業を始めたのだった。

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