第57話 俺と幼馴染が帰省することになった件(4)
「ね、ね。この頃のリュウ君、可愛くない?」
「可愛い、ねえ……」
今見ているのは、小学校の入学式の時の記念写真だ。既にミユと知り合っていたので、一緒に写っているものもある。しかし、可愛いというか単にちんちくりんにしか見えない。むしろ―
「ミユの方が可愛いだろ」
黒髪を長く伸ばしているのが新鮮だし、ニカっと子どもらしく笑っている顔は今と違って、これはこれでいい。
「リュウ君、ロリコン?」
「それなら、ミユはショタコンってことになるぞ」
「……やめようか。不毛だね」
「ああ」
続いて出てきたのは、遠足の時の写真だ。仲良く俺とミユが手をつないでいる。どこかの観光地っぽいが、名前を思い出せない。
「この時から、結構一緒にいたんだなあ」
「この頃のリュウ君はもっと体力あったのにね」
なんてことを、笑いながら言われる。
「どうせ、今は体力ありませんよ」
「拗ねない、拗ねない」
続いてページをめくる。今度は、球技大会の時か。
「この頃からお前、勝負事好きだったのな」
「ドッジボールは、うまく弱い人から叩いていくのが鉄則だったよね」
「先生に、「ドッジボールはみんなで楽しむものです」って注意されてたけどな」
小学校の、特に低学年の球技大会なんて、勝ち負けよりもわいわいやって楽しむものだったから、本気過ぎるミユは先生から時々注意されていた。
「うう。それは、私も若かったもん」
「今も若いだろ」
苦笑いしながら、ツッコミを入れる。さらに、ページをめくる。
「そういえば、授業参観なんてのもあったなあ」
「高校だとほとんど名目だけだったよね」
俺たちの親やその他のクラスメイトの親から見た、俺たちの姿が写されている。しかし、こうやって、親に見られながら授業とかよく平気だったものだ。
「この頃は水泳が楽しみだったよね」
「小学校、冷房とかなかったもんなあ」
プールで泳いでいる写真だ。俺たちの通っていた小学校には冷房などというものはなかったから、夏のプール授業がとても楽しみだったのを覚えている。しかし、一体誰が撮ったのだろう。
「この頃の女子って当たり前だけど、胸ないよな」
「あったらびっくりだよ」
ミユや他の女子が水着を着ている写真を見て、思わずつぶやいてしまった。さらにページをめくる。
「あ。雪合戦だ……!」
「都内だとあんまり積もらないもんな」
そんなものだから、ごくたまに雪が積もったときは皆で大はしゃぎして、雪だるまを作ったり、雪玉を投げ合ったりしていた。しかし、
「またミユがいるな。男子グループに交じってるし」
「確か、女の子グループが微妙だった気がするんだよね」
その頃の記憶というのはほんとうっすらとしか覚えていないが、小学校低学年から、異性を意識とはいかないまでも、男子と女子である程度グループができていた気がする。
その他にも、小学校の頃のアルバムを色々見てみたわけだが。海水浴に夏祭り、大晦日に初詣やバレンタインデー、などなど。色々なイベントには大体俺と一緒にミユが写っていた。
「昔から、こんなにミユと一緒に居たっけ?」
もちろん、その頃から交流があって一緒に遊んだのも覚えているが、予想以上に一緒の写真が多くてびっくりだ。
「ふふ。リュウ君は忘れてるのかもね」
「忘れてる?なんか、大事な約束を忘れてるとかそんなお約束-」
「そういうのじゃなくて、仲良くなったきっかけ」
楽しそうにそんなことを言うミユ。
「んん?きっかけ?」
そんなものあったっけ。気が付いたら仲良く一緒に遊んでいたと思うんだが。
「わからん。
「教えてもいいんだけど……秘密」
「なんでだよ」
「そっちの方が楽しそうだから、かな」
「ひょっとして、俺の黒歴史じゃないだろうな」
疑いの視線でミユを見る。
「そんなんじゃないってば。むしろ、カッコよかったよ」
「カッコよかった、ねえ。小1の頃にそんな覚えないんだが」
別に特にいじめられていたとか、逆にいじめっ子を助ける正義の味方のようなキャラでもなかった。友達はそこそこいたが、特別不得意も得意もなかったと思う。
「とにかく、ちょっと思い出してみて。わからなかったら、教えてあげるよ」
「小1の頃の思い出なんて、うろ覚えだから、期待しないでくれよ」
ミユは楽しそうだから、きっといい思い出だったんだろうが、俺が覚えてないのはどこかもやもやが残る。
しかし、そういえば。
「俺も、ミユに助けられた思い出があったなあ」
確か、小4くらいだっただろうか。
「え、なになに?そんなのあった?」
「じゃあ、これは秘密ということで」
「意地悪」
「お前がさっきの話教えてくれたら、教えてやるよ」
「むー。なんとか思い出してみる」
負けん気の強さか、自力で思い出すつもりらしい。ま、きっと助けたつもりなんてないから思い出せないだろう。そう思いながら、心の中で笑う。
さらに、アルバムを開いていく。学年が上がるごとに、徐々に記憶にある出来事が多くなっていく。中学高校ともなればなおさらだ。
「そういえばさ、ミユって毎年バレンタインデーにチョコくれたよな」
最初にくれたのは小学校1年の時だったか。
「うん。そうだけど?」
「いや、あれっていつから
今更どっちでもいいことだけど、ふと聞いてみたくなったのだが、答えはいかに。
「あれ?いつからだっけ」
「おいおい。覚えてないのかよ」
「だって、小学校の時なんて、本命も義理も関係なかったもん」
「そういわれればそうかもしれんが」
確かに、小1から毎年毎年チョコをあげてれば、いつが境目かなんてわからなくなるのかもしれない。
「むむ。これは思い出さないと!」
「いや、別に覚えてなくてもいいだろ、そんなん」
「私にとっては重要なの!」
「まあ、別に止めるわけじゃないが」
そのあと、ミユはうんうん唸っていたが、結局、いつから本命になったのかは覚えていないらしい。
「中2の時は、本命だったんだよね。だから、その前だと思うんだけど」
「そういえば、都がその頃からだって言ってたっけ」
思えば、都が俺たちと仲良くなった後、男女のイベントごとのたびに何かしら遠慮していたのは、ミユの事を配慮してだったのかもしれない。
しかし、我ながら、中学校の頃から想われていて気づかないとは、朴念仁にもほどがある。
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