第56話 俺と幼馴染が帰省することになった件(3)

 母さんと近況を話し終えた後は、シャワーを浴びて汗を流して、部屋でのんびりとしている俺。そういえば、ミユは今頃どうしてるだろうな。などと思っていると、


 ぴーんぽーん、ぴーんぽーん。


 電子音が響き渡る。あれ?通販でも頼んでたのかな。そう思って玄関に行くと、


「さっきぶり。遊びに来たよー」


 ミユもシャワーを浴びた後なのか、ほのかにシャンプーの香りがする。服もタンクトップにハーフパンツというラフな格好だ。


「家族団らんはいいのか?」

「うちもお父さん帰ってくるの夜だし。リュウ君と仲良くしてらっしゃい、だって」


 ぽりぽりと頬をかいて、少し恥ずかしそうにそう言う。


「おまえんとこもか……」

「って、リュウ君のところも?」

「ああ。うっかり同棲の事話したら、母さん、婚約がどうとか言い出したんだよ」

「こ、婚約!?」


 ミユは目を真ん丸にして驚いている。


「ああ、別に大したことじゃない。とりあえず、あがれよ」

「うん。お邪魔しまーす」


 と通いなれたる我が家に入ってくるミユ。大学までの俺たちは、こんな風にお互いの家になんとなく遊びに行くことがよくあった。


「それで、婚約って?」

「いや、その……」


 なんとなく照れくさくていいづらい。


「そんなに言いづらいことなの?」

「いや、そうじゃないんだ。母さんがさ、ミユ程いい子は居ないから捕まえておきなさいって。それで、婚約でもしたら?って話になったんだ。ちょっと話飛びすぎだろ?」

「それで、リュウ君は?」


 笑い飛ばしてくれるかと思ったが、意外にもミユは真剣な目で問いかけてきた。


「そりゃ、いずれは、と思うが、同棲し始めたばっかりだし」

「まだ決められないってこと?」

「決められないってこともないが」

「私は……婚約、ありだと思う。あ、もちろん、お父さんとお母さん、おばさんとおじさんの許可がいるけど」


 ミユの口から出たのは意外な言葉だった。


「いきなり結婚だと、色々準備できてないけど。私たちも、もう大学生なんだし」

「そっか。正直言うとな、俺は迷ってる」

「迷ってる?」

「ああ。もちろん、おまえ以外の相手と結婚するとか想像できないけど、もうちょっと同棲してみて、それから機会をみてちゃんとプロポーズしたいと思ってる」


 このまま勢いで婚約ってのも悪くないかもしれないが、もっと真剣に考えて、あらためてちゃんとしたプロポーズをしたいと思う。


「それで、だめか?」

「ううん、駄目じゃない」

 

 と続けて、

 

「私も、このまま勢いでしちゃうと後悔しちゃうかもしれないって思ってたから」

「そっか。良かったよ」


 さすがに、俺としても、プロポーズはまた機会を改めてちゃんとした形でしたい。


「ね。リュウ君、ゲームしない?」

「ゲーム?まあ、こっちに残してきたのがあるけど、古くないか?」


 最新世代のゲーム機はつくなみに引っ越すときに持っていってしまったし、ここに残っているのは、型落ちのゲーム機ばかりだ。


「せっかく帰ってきたんだし、ちょっとノス……ノスタルジーに浸りたい」

「一瞬、ノスタルジーって出てこなかっただろ」

「ど忘れくらいいいでしょ?それで、幕末無双ばくまつむそうとかどうかな」


 幕末無双とは、歴史上の人物をプレイヤーキャラとしてステージを縦横無尽に走り回り、敵をばったばった斬る、某歴史ゲームメーカーが出した無双シリーズの一つで、幕末時代を舞台にしている。


 埃をかぶりかけたゲーム機を起動して、ディスクを挿入する。


「じゃ、俺は、坂本竜馬さかもとりょうまな」


 坂本竜馬は、幕末時代に、薩長同盟さっちょうどうめいなどを成立させた立役者として知られている。刀と銃の二手持ちという変わったスタイルで戦う。


「私は、沖田総司おきたそうじでいくね」


 沖田総司は、幕末時代の新選組の隊士として有名で、若くして亡くなったことでも知られる。それ故か、ゲームでも素早い動きと斬撃で敵を翻弄するものの、体力ゲージが異常に少ないというハンデがある。それ故に、玄人好みというか、使う人を選ぶ。


 今回は協力プレイなので、幸いミユにえげつない手を使われることもない。安心して、二人で協力してバッタバッタと敵をなぎ倒す。しかし―


「よく、敵に当たらないよな」

「ちゃんと読めば回避できるよー。よっと」


 割り込んできた敵の雑魚をうまく回避している。沖田総司は、体力ゲージが低い故に、いかに敵の攻撃を避けるかが重要なキャラで、かなり技術が要求される。


「いや、読めるのがすごいんだが」


 ましてや、このゲームを最後にプレイしたのは一年前以上だ。それなりにブランクがあってもおかしくないのに、すいすいとやってのける。

 

 その後も気が済むまで幕末無双で遊び倒した。のだが、改めてミユのプレイヤースキルの凄さを見せつけられるのだった。


「んー。楽しかった。また、やろうね」

「ああ。そうだな」


 しかし、こうして、二人で実家にいると、まるで高校生の時に戻ったような気分になるな。と考えて、ふと思いついたことがある。


「なあ、ミユ。アルバムでも見ないか?」

「うん。賛成!見ようよー」


 というわけで、ゲームを遊び倒した後はアルバム鑑賞となったのだった。


※次に続く

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