第51話 俺と幼馴染がAIに振り回された件

 同棲どうせいが始まって今日で3日目。無事、ダブルベッドも設置できて、二人で住む体制は完璧だ。なのだが-


「♪♪~~」


 鼻歌を歌いながら、ミユは相変わらず俺の膝枕で寝転んでいる。


「なあ、窮屈きゅうくつじゃないか?」

「そうでもないよ?リュウ君の膝枕ひざまくら、気持ちいいし」

「せっかくダブルベッドなんだしさ」

「嫌。リュウ君の膝の方が気持ちいいもん」


 せっかく広々としたダブルベッドがあるのに、俺の幼馴染はどうも膝枕がお好きなようで、せっかく買ったダブルベッドは夜寝るときにしか生かされそうにない。


「ねえ、リュウ君。明日、晴れるかな?」

「そんなの天気予報」


 と言おうとした矢先に、


「明日の天気は晴れでしょう。最低気温は~」


 という人工音声が聞こえてきた。一体なんだと思ってみると、ミユのスマホのGoggle Homeごっぐるほーむが、勝手に反応したらしい。


「時々あるよな、こういうの。にしても、なんで勘違いしたんだろ。「ねえ、Goggle」って言ってないよな」


 確か、「ねえ、Goggle」にしないと反応しないはず。そんな事を考えていると、ミユが幾分気まずそうにしているのに気がついた。


「なあ、どうしたんだ?様子が変だぞ」

「ねえ、リュウ君。怒らないで聞いてくれる?」

「そりゃ、いいけど」


 俺が怒るようなことでもしたのだろうか。


「実は、ニックネームを変えてみたの」


 恥ずかしい事がばれたというように白状するミユ。


「ニックネームって?」

「ねえ、「Goggle」の「Goggle」の部分だよ」

「あれ、変えられたのか……」


 てっきり固定だとばっかり思っていた。


「ううん。実は無理なの。将来はできるようになるかもって言ってるけど」

「じゃあ、なんでミユは出来てるんだ?」

「実は、入れると、名前を変えられるアプリがあるんだ」

「おいおい。そんなの初耳だぞ」


 あの、「ねえ、Goggle」を好きな呼び名にしたいという人は多いはずだ。


「実は公式ストアには置いてなくて、誰か凄い人が作ったらしいんだけど」


 ミユが嘘を言っているようには見えない。しかし、


「別にアプリ入れて名前変えるくらいいいんじゃないか?」


 細かい所を考えると利用規約とか色々あるのかもしれないが。


「思い出してみて?さっき、私がなんて言ったか」


 と言われて、さっき天気のことをGoggle Homeが返して来た時の事を思い出す。確か「ねえ、リュウ君」だったか。


「まさか、俺の名前を」

「お願いだから、それ以上言わないでー」


 手足をじたばたさせて、羞恥にもだえるミユ。しかし、


「お前、俺の名前をつけるまでするとは……」

「ほんと、ごめんってば」

「別に謝らなくていいだろ。むしろ、嬉しいぞ」


 そう言いながら、ジタバタしてるミユを後ろから抱きしめる。


「リュ、リュウ君?」

「なんか、最近のお前、凄い可愛いぞ」


 急に初々しくなったり、スマートスピーカーに俺の名前付けたり。なんつーか、こんなに可愛い生きものが居たのかって感じだ。


「可愛い、かなあ?私は恥ずかしいんだけど」


 抱きしめながら、後ろから顔をみると耳まで真っ赤になっていて、確かに恥ずかしいらしい。


「で、なんで俺の名前付けたんだ?」

「言わなきゃ駄目?」

「駄目じゃないけど、知りたいな」


 しばらく考えた後、ミユが語りだした。


「同棲する前だけど、一人で寝ることもよくあったよね」

「まあ、そうだな。結構、泊まりに来てた気もするが」


 やたら押しかけて来ていた日々を思い返す。って言っても、そんなに遠い昔じゃないが。


「それで、寂しくなって。Goggle Homeに「リュウ君」って呼びかけたくなったの」

「おまえが、そんなことまでしているとは……」


 同棲を持ちかけた時点で、色々わかっていたつもりだったが、想像以上だ。そこまで想われている事が嬉しくなって、体勢を入れ替えて深い口づけを交わす。


「んう。はあ」


 舌を入れて何度もさらに口づけを繰り返す。唇を離すと、そこには興奮した様子のミユ。そのまま、胸に触れていくが-


「あ、ちょっと止めて」


 突然の静止の声にびっくりしてしまう。


「す、すまん。なんか嫌だったか?」

「そうじゃなくて。そろそろ生理来そうだから。ごめんね」

「そうだな。聞かずにごめん」


 雰囲気的に嫌がっていなかったので、つい迫ってしまったが、女の子には生理というものがあるのだ。


「ううん。いいの。生理じゃなかったら、私も受け入れてたと思うし……」


 なんとも嬉しい事を言ってくれる。しかし、


「こないだのみやこの話、まだ引きずってるのか?」

「引きずっているっていうか。話聞いて「私達、こんな恥ずかしいことしてるんだ」って自覚しちゃって、戻せそうにないの」

「そっか」


 ちょっと前まで肉食系だったミユがここまで変わるとは、都、恐るべし。


「リュウ君は、前の調子に戻った方がいい?」


 幾分弱気にそんなことを聞いてくるミユ。声にも張りが無い。そういう所が俺のツボにはまっているのを理解しているのだろうか。


「いや。今のも可愛いし。そのままでいいぞ」

「うん。ありがと」


 微笑む姿も、恥じらいがあって、もう色々と刺激されてしまう。正直、前の積極的に迫ってくるミユも悪くなかったが、こうやって思いっきり恥じらってくれるのはそれ以上にいい。なんにしても、


「Goggle様様だな」

「私は黒歴史を見つけられた気分だよ」


 そんな風に、すこしいじけたミユが見られた午後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る