第48話 幼馴染と同棲する事になった件について
強い日差しが照りつけて来て、ふと目が覚める。
(もう朝か……)
横を向くと、すやすやと安らかな寝息を立てているミユの姿。昨日のこいつは初々しくて、色々新鮮だったなあと思いながら、しばらく寝顔を見るのを楽しむ。
「ゴム、つけようよ。妊娠、しちゃう……」
そんな寝言が聞こえてくるが、一体どんな夢を見ているんだ。俺は必ずゴムをつけているぞ!?そんなツッコミを心の中で入れている内に、徐々に意識が覚醒して来たらしい。
「あ、リュウ君。おはよ」
「おはよう。ミユ」
ふわあと伸びをするミユ。そんな姿がまた小動物っぽいなと思う。そういえば、ふと、思い出したんだが―
「なあ、ミユ。お願いって何にするつもりだ?」
「お願い?」
「そう。こないだ、お泊りかどうかで賭けただろ。俺は負けたけど、何をお願いしたいんだ?」
「……」
何気なく聞いた一言だったが、反応は無言だった。
「何か言いにくいことでもあるのか?」
「うう。そうじゃないんだけどー」
なんだか珍しく煮えきらない様子のミユ。
「昨日までだったら普通に言えたけど、今は凄く恥ずかしいの……」
様子を見る限り、ほんとに恥ずかしがっているようだが、昨日今日で変わったことと言ったら―
「やっぱり、なんかのプレイを要求するつもりだった?それで、昨日の件で色々恥ずかしくなったとか」
「リュウ君、私がエッチな事ばっかり考えてると思ってる!?」
「いや、そうじゃないけど、昨日までだったら、言いかねないなと」
もちろん、ミユがそういうことばっかり考えているわけじゃないことは知っているけど、どんどんエッチを楽しもうって感じに最近なっていたしな。
「そういうのじゃなくて、もうちょっと真面目な話!」
「そ、そうか。悪かった。で、そこまで渋る事なのか?」
「同棲」
ぽつりとつぶやいた一言の意味が一瞬わからなかった。
「どうせい?」
「一緒に男女が住むこと、だよ」
「いや、意味はわかってるって。そんな所でボケないから」
一呼吸おいて、
「なんで同棲なんだ?来たかったらいつでも来ていいんだぞ?」
「それと同棲は違うんだよー。毎日一緒に寝て、一緒に起きて。それで、朝ご飯と夕ご飯は一緒に食べる、みたいな……」
真剣な表情で言うミユ。どうも本気らしい。
「うーん。布団はいいとして、家具とか、二人分置けないぞ?」
「そういう時は部屋に戻って、取ってくるよ」
「あとは、ノートPCとゲーム機とかなら置けるか」
「そうそう。だから、行けると思わない?」
「同棲ってより、半同棲って感じか。行けるとは思うけど……」
「けど?」
「どうして同棲なんだ?いや、それは嬉しいんだが」
俺は、お隣同士でお互いすぐに行き来できる今で満足している。でも、ミユがそうじゃないなら、理由を知っておきたかった。
「笑わないで聞いてね?」
「真剣な話を笑う訳ないだろ」
「うん。リュウ君、私達、付き合い始めて2ヶ月以上になるよね」
「ああ。そうだな。体感的にはもっと長かった気がするけど」
「このまま行ったら、いずれは、私達、結婚、するのかなって考えたんだ」
「大学生の時に付き合ってた彼女と結婚ってのも多いらしいな」
それに。
「ミユとは長い付き合いだし、別れるなんて事もないだろうな」
実際、付き合ってから、ミユと喧嘩らしい喧嘩をした覚えがない。というか、付き合う以前もほとんど喧嘩をした覚えがない。これでうまく行かないんだったら、俺は他の誰と付き合ってもうまく行かないだろう。
「リュウ君もそう思ってくれてたんだ。良かった」
ふにゃっと幸せそうな微笑みを向けられて、照れくさくなる。
「そりゃまあ、な」
「すぐに結婚は無理だけど、同棲ならすぐ出来るよね」
「うーん。要は結婚前提のお付き合いで、同棲したいって事か?」
「う。そう言われると、凄く重い話みたいだけど、そういうこと」
言われて少し考える。大学に4年間通ったとして、その後、就職して結婚するとして。その相手はきっとミユだろう。他人に言ったら、付き合い立てのカップルが、と言われそうだけど。ま、同棲くらい別に問題ないな。
「ま、いいか。じゃあ、今日から一緒に住むか」
「いいの?そんなにあっさり」
自分で提案したくせに、あっさり
「お隣が、一緒の部屋になるだけだろ。それくらいなんてことないって」
「そ、そっか。ありがと」
なんだか拍子抜けした様子のミユ。
「でも、毎晩、昨日の夜みたいに恥ずかしがってたら、大変な気がするが」
昨日、都の話を聞いて、エッチが恥ずかしくなったと言っていたこいつ。
「リュウ君は、毎日エッチしたいの?」
「いや、そうじゃないけど。一緒に寝るなら、寝る前に軽く触れ合うくらいは」
「うう。まだ、ちょっと恥ずかしいけど、たぶん、大丈夫」
「今のも一過性で、そのうち、エッチ大好きなミユに戻るかもしれないしな」
「エッチ大好きな、とか恥ずかしいから止めてってば」
胸板をどんどんと叩かれる。と言っても、つい先日まではそうとしか言いようがなかったしなあ。
「でも、そっかー。今日からここで一緒に住めるんだね」
「そんなに変わらないと思うけどな」
「きっと、変わるよ」
「なんで?」
「だって、一緒に寝られない日はずっと寂しかったんだよ」
口から出てきたのは、とても意外な言葉だった。いつも押しかけて来ていたから、てっきり満足していたと思っていたけど、そんな一面があったとは。
「そうか。なら、変わるかもな」
「うん。だから、楽しみ」
そう言うミユは、これから少しだけ変わる生活に思いを馳せているようだった。
※
次から、新章になります。同棲編、みたいな感じの予定です。引き続き、お楽しみください。この機会に応援コメントなどいただけると、より励みになります。
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