第47話 幼馴染が急に初々しくなった件について
ミユが部屋に戻ってしばらくした後のこと。
【ね。今日、泊まりに行っていい?】
ラインにそんなメッセージが届いていた。こんな風なメッセージが届くのも、もう珍しくなくなっていた。なんとなく一緒に寝たいというだけの事もあれば、気分が盛り上がってエッチな事をすることもある。ともあれ。
【いつでもどうぞ】
と素っ気ないメッセージを返す。いつもだと、それからシャワーを浴びて、お泊りセットと共にやってくるので、30分くらいはかかるだろう。そう思っていたのだが―
ガチャ。返事をしてから1分もしない内に、ドアが開く音がした。
「お邪魔しまーす」
こっちが返事をする間もなく、部屋に上がりこんでくるミユ。
「今日はやけに早いな。シャワー浴びたのか?」
プリントTシャツにハーフパンツというラフな格好だが、ほんのりと汗の香りがする。それに、なんだか顔だけじゃなくて、耳も赤くて、火照っているような―
「それなんだけど。シャワー借りていい?」
「あ、ああ。いいけど。急にどうしたんだ」
「その。後で説明するから。シャワー借りるね」
「わかった。ごゆっくり」
そそくさと着ていた衣服を脱ぎ捨てて、お風呂に引っ込むミユ。どうにも様子がおかしい。さっき、
(ま、出てくればわかるか)
そんな事を考えながら、ベッドで寝っ転がりながら、スマホを眺めること約20分。いつもより長めだなと思っていると、お風呂上がりのミユが部屋に入ってきた。
「その。どうかな。似合ってる?」
いつもと違う、桃色のネグリジェに着替えたミユがそこに居た。最近は、こういう姿を見せるときも堂々としたものだったが、どことなく緊張している気がする。
「ああ。似合ってるぞ。でも、そういうの珍しいな」
「そのうち使おうかなって思ってたんだけど、機会がなくて」
「そ、そうか」
ミユに当てられたのか、俺まで緊張してしまう。そうこうしている内に、ミユはつたつたと近寄ってくる。
「ね。ベッド、入っていい?」
「いつものことだろ?もちろんいいぞ」
「あ、ありがと」
お礼の言葉とともに、ぎこちない動作でベッドに入ってくる。
「で、どうしたんだ?ちょっと変だぞ」
「やっぱり、そう見えるよね……」
向かい合っているミユは、やっぱり顔が赤いし、視線もキョロキョロとどこか落ち着きがなくて、まるで―
「別に悪くないけどさ。やたら初々しいというかさ」
そう。最近のミユと来たら、もうすっかりと慣れたもので、こういう時にごろんとベッドに転がり込んで、抱きついてくるのも珍しくないのに、ベッドに入るのにいちいち許可を取るとか、非常に初々しい。
「うう。
「都が?なんでだ。そういえば、
数時間前の出来事を思い出す。
「もう、その話は思い出させないでー」
「おいおい。さっきまで、凄いノリノリだったろ」
「そのつもりだった、けど。私達、あんな恥ずかしいことしてたなんて……!」
布団の中で手足をばたつかせながら悶えるミユ。ほんと、一体何があったんだ。
「とにかく、話してみろよ」
「最近の私はね、エッチは好きになった人がする自然な行為で、別に恥ずかしがることじゃない。思ってたの」
「思い返すとそんな感じだな」
もちろん、肌を見せることに恥じらいが無いというわけじゃないけど。
「でも、実はすっごく恥ずかしい事してるんだって、わかっちゃった……」
「それと都の話が関係あるのか?」
「ありありだよー。都ちゃんの話って凄く生々しいの。細かい事は言えないけど」
あー、もう、と、再びジタバタとするミユ。そんな様子が微笑ましくて、気がつくと自然に頭を撫でていた。
「今のお前、すっごく可愛いぞ」
「そ、そうかな……」
頭を撫でられて嬉しそうにする様もなんだか、一回りこいつが幼くなったような気がして、新鮮だ。
「積極的に迫ってくるのもいいけど、恥じらってくれるのも嬉しいんだよ」
「ううー。もう、私、どうしちゃったんだろ」
自分に何が起きているのかわからない、という様子のミユ。
「別にどうもしてないだろ。都の話聞かされて、色々考えちゃっただけでさ」
「そうかな……」
「そうだって。で、お前はどうしたいんだ?」
恥ずかしいからもうそういう事はしたくない、ってわけでもなさそうだし。
「恥ずかしいけど。やっぱり、したい」
茹で上がりそうな程顔を真っ赤にしながら、潤んだ瞳でミユが答える。
「話してる時の都ちゃん、すっごく幸せそうだったし」
それに、と続けて
「私も、幸せだなあって気持ちになるから。だから、抱いて欲しい」
その声はとても真剣で、こないだみたいな演技でもなんでもないことがわかる。だから、
「任せとけ」
そう言って、口づけて、服を脱がせていく。いつもと違ってチグハグだな、なんて内心で苦笑いしながら。
◇◆◇◆
「はあ……」
行為の後、向かい合って見つめ合う俺たち。
「で、感想はどうだった?」
「う。そんなこと聞かないでよ。意地悪」
「いつもだったら平然と答えるだろ」
「だから、いつもと違うんだってば」
一時的なものかと思いきや、どうやら、まだ影響が尾を引いているらしい。
「嫌ならいいけど」
「……初めての時みたいだった」
ぽつりとつぶやくミユ。
「初めての?」
「全然初めてじゃないはずなのに、なんだか初めてみたいな。そんな感じ」
「そっか」
「あ、痛かったって事じゃなくて、凄く幸せだったって意味だからね!」
「わかってる、わかってるって」
こんなやり取りも、いつもと違って、ちょっと新鮮だった。
「うう。昨日までの私、なんであんなに平然としてたんだろ……!」
しかし、こうまで強烈な影響を与えるとは、よほど都から聞いた話はこいつには刺激的だったらしい。
「どっちでも、お前だし、いいんじゃないか?」
「今日みたいなのでも、失望しない?」
「今のも可愛いし、積極的に求めてくれるお前も可愛いし、どっちも好きだよ」
「立場が逆転した気がして、悔しい」
そんな事を言いながらも、悔しいというより嬉しそうな、幸せそうな顔のこいつをみて、これはこれでいいかも、と思う俺だった。
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