第31話 幼馴染が肉食系過ぎる件について

 最近の俺には、一つの悩みがある。いや、悩みと言うには贅沢なんだが。それは、最近のミユの行動だ。


 ある時は、


「ん。リュウ君の、いい匂い」


 そんなことを言いながら、俺の首筋を舐めて来たり。


 またある時は、


「ねえ、リュウ君。一緒に入ろうよー」


 そんなことを言って、風呂に引きずり込もうとしたり(引きずり込まれた)。


 またある時は、


「ふふ。大きくなってるね」


 そんなことを言って、ズボン越しにこすり始めたり。


 最近は、ミユが、お誘いというか積極的に押し倒しに来る事が週に4日もある。


 とはいえ、可愛いミユにそんなお誘いを受けて、平常心で居られるはずもなく、俺も応じてしまっているのだが。


(さすがに、ちょっとエロに寄り過ぎだろ)


 もちろん、全然嫌じゃないのだが、このままだと肉体関係ばっかりになりそうで少し怖い。


 というわけで、ミユを呼び出して話し合いをすることにしたのだった。


「あのさ。その……もう少し控えめにできないか?」

「控えめにって?」

「エッチのお誘いというか、そういうのをさ」


 断らないでおいて、こういう物言いは少し卑怯だと思うが、仕方がない。


「……ひょっとして、ほんとは嫌だった?」


 少し不安そうな目をするミユ。


「いや、そうじゃないんだ。ミユとエッチするのは気持ちいいし、幸せだ」

「良かったー。嫌われたのかなって思いそうになっちゃった」


 本気で胸をなでおろしている彼女。やっぱり、好きな気持ちも本当なんだよな。


「せめて、週に1度とか、そのくらいにしてくれるといいんだが」


 男としてはなんとも情けないお願いをしている自覚はあるが、可愛い恋人に迫られては断れるわけもないのだ。


「ひょっとして、疲れちゃった?だったら、ごめんね」

 

 情事の最中のことを気遣ってか、謝ってくるミユ。いや、そうじゃないんだ。


「そうじゃなくてだな。もうちょっと健全にというかだな……」


 控えめにして欲しい根拠が自分の中でも明確に出てこないので、どうにも言いづらい。


「恋人同士がエッチするのは健全じゃないかな?」


 そういう正論を言われると弱い。


「いやそれはそうだけど。最近、2日に1回くらいしてるよな」

「えーと。それくらいかな?」

「でだ。あんまりそういうのばっかりだと、肉体関係ばっかりになりそうで怖いんだ」


 なんとも情けない言葉だ。


「それが理由?」


 その言葉を聞いたミユの瞳が真剣なものになった。


「ああ。情けないけど」


 ミユは少しの間、考え込んで言った。


「リュウ君の気持ちもわかるよ。そういうところ、真面目だし」


 でもね、と続ける。


「私たち、そんなにエッチばっかりだったかな?」


 その問いかけにはっとなる。


「そんなことはないな」


 毎日、和やかに食卓を囲んでいるし、まったりと二人でゲームもするし、編集部室で他愛ない雑談に興じることもある。


「でしょ?だったら、心配しないで。それに、リュウ君は私の身体が目当て?」

「そんなことはない。断言してもいい」

「だったら、リュウ君の気分が乗ったときはいつでもしたいな。終わった後、すごい幸せだし」


 表情は至って真剣で、からかっている様子もない。


「それに、手をつないだり、ぎゅってしたりするのも同じじゃない?」

「それは少し違う気がするが。言いたいことはわかる」

「でしょ?だから、リュウ君もいつでもぶつけて来て欲しいな」


 懇願するようなその言葉に、そういえば、俺から迫ったことがほとんど無い事に今更ながら気づいた。これは、怖気づいていた俺が悪いな。


「いや、すまん。俺が悪かった」

 

 要は、爛れた関係とか、肉体関係ばっかりとか、どこかの雑誌で見たような文句を真に受けて、普通の恋人同士のスキンシップと別の方向に位置づけて、勝手に自分を押さえつけていただけだった。


「謝らなくて大丈夫。リュウ君が真剣に考えてくれてるのはよく知ってるし。私が高校で傷ついた時に、ずっと寄り添ってくれたのはリュウ君だけなんだよ?ほんとに感謝してるんだから」


 裏も表もなく、純粋に感謝の言葉をかけてくれるミユに、改めて、俺はこいつが好きなんだな、と実感する。そして、こんな可愛い彼女を前にして、改めて欲求が出てきてしまった。


「あのさ、こんな話の最中でなんだけどさ。今、凄くミユを抱きたい」

「うん。いつでもどうぞ♪」


 そんな事を言うミユはとても嬉しそうで、最近の肉食系なミユとはまた違って見える。


「あ、今日はリュウ君に脱がせて欲しいな」

「善処するよ」


 そう言って、ミユの瑞々しい唇に口付ける。


「いつもより、興奮するかも」

「俺も」


 そうして、少しずつ彼女の服を脱がせていくー


ーー


「はー。なんだか、とっても幸せだよ」


 事が終わった後、寝っ転がりながら、お互いを見つめ合う。


「いつもより、おまえ、凄い可愛かったよな」


 ここのところ、そういうことをいっつもしていた割に、途中で急に恥ずかしがったりする様子がとても可愛くて、初めてしたときのような気分だ。


「だって、リュウ君に求められたの、久しぶりだったもん」


 頬を赤く染めて、少し拗ねたように言うミユ。


「じゃあ、これからは遠慮しないからな」

「うん。そうしてくれると嬉しいな」


 はにかみながらミユはそう言う。


「あ、もちろん、生理の日はダメだからね」

「いや、それはさすがにねえよ」


 そんな変なオチはつけなくていいから。

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