第3章 恋人始めました

第19話 幼馴染と付き合い始めた件について

「朝か……」


 太陽が登ってきて、自然に目が覚める。時刻はまだ午前9:00。昨日の今日で告白して、晴れてミユと付き合うことになった俺達だが、昨日はなかなか眠れなかった。もう少し寝るか。そう思った時。


 ぴんぽーん。インターフォンの音が鳴る。こんな朝に誰だろう。


「リュウ君、おはよ♪」


 俺の胸に幼馴染のミユ、いや、今は俺の彼女が飛び込んで来たのだった。ふわふわの髪からはシャンプーのいい香りがするし、頭を胸板にこすりつけられるし、ぎゅっと抱きしめられるしで朝からくらくら来そうだ。


「いい匂いがするけど、お風呂でも入ってきたのか?」

「うん。ちょっと朝シャンをね」

「おまえ、朝シャンなんてしてたっけ」

「彼女としては、やっぱり彼氏の前では気にしたくなるよ」


 改めて、こいつと恋人になったのだと実感する。というか、会うためだけに朝シャンをして来てくれたとは少し……いや、凄い嬉しい。


「で、朝からどした?」

「朝ご飯つくろうと思って」


 朝から何かと思ったら、そんなことだったとは。


「そりゃ、ありがたいけど……」

「じゃ、台所借りるね」


 勝手知ったる幼馴染の家ということで、冷蔵庫を開けていそいそと朝食の準備を始めるミユ。フライパンにじゅーと卵と落とす音が聞こえる。目玉焼きでも作っているのだろうか。


「ま、ここは任せるか」


 部屋に戻って、朝食ができるのを待ったのだった。


 朝食は目玉焼きにチーズを載せたトースト、牛乳といったところ。一人だと朝を抜くことが多いから、ことさら豪華に思える。


「お。このトースト美味いな。何か工夫してるのか?」

「ちょっといいチーズと食パン買って来たの」


 いつの間にかすっかり冷蔵庫を占拠されている我が家だ。


「えらいなー。ミユは」


 朝シャンしたばかりなのに、ちゃんとドライヤーをかけたのか髪がふわふわになっている。そんなミユの髪をなでなでしていると、「えへへー」とだらしない声が聞こえてくる。こんなひとときでも、凄くミユのことが愛しく思えるのだから、不思議なものだ。


 で、朝食後の我が家にて。すっかり定位置になった俺の膝に頭をのせながら、ゲームプレイを見物するミユである。しかし、眼下にミユが気になって全然集中できない。


「リュウ君、コマンドミスってるよ」

「あ、すまん」


 ボス戦にもかかわらず、コマンド選択をミスってしまう。しかも、たて続けにミスるものだから、敗北してしまいゲームオーバー。


「リュウ君、今日、ミス多くない?」

「そ、それはだな……」


 ミユが俺を枕にするなんて今に始まったわけじゃないのに、言うのは照れくさい。


「笑うなよ?」

「うんうん」

「おまえが俺の膝を枕にしてるから、集中できないんだよ」

「ふえ?前から、よくこうしてたと思うけど」


 未だ理解していない様子の我が彼女。恥を偲んで言うしかないのか。


「そのさ。彼女になってからは初めてで、ドキドキするんだってば」

「ふーん。そっかそっか」


 理解したのかしてないのか、にへらとした笑みを浮かべるミユ。


「じゃあさ」


 がばっと起き上がって来て、唇を奪われる。


「ぷはぁ」


 うっとりとした表情のミユ。


「お、おまえなあ」

「付き合ってるんだし、いいでしょ?」

「なんかおまえ別人みたいだぞ」


 甘えようが昨日までと全然違う。


「言ったでしょ。遠慮しないよって」

「そうだった……」


 しかし、朝っぱらからこんなにされて、興奮しない男が居るだろうか。いや、居ない。


「じゃ、俺の方からも行くぞ」


 ミユの方から攻められっぱなしというのもシャクだ。首筋に吸い付く。


「ふわ」


 甘い声が上がる。このままだと、俺も止まれそうにない。


「その。初めてなのに、朝からだけど、いいか?」


 女の子にとっては、そういうのはどうなのだろうか。


「うん。優しくしてね♪」

「怖くないのか?」


 初めてだと怖い女性が多いというのはよく聞く。


「リュウ君だもん。むしろ、気遣いすぎる方が心配」

「わかった。じゃあ、行くぞ」


ーー


「その、俺だけすぐに。ごめん!」


 行為の後、ミユに平謝りしていた。


「大丈夫だってば。ゆっくり慣らしてくれたから、あまり痛くなかったし」


 行為の最中、俺だけすぐに達してしまったのを、気遣ってくれる。


「それに、これから気持ち良くしてくれれば大丈夫だから、ね?」

「そうだな。ちゃんと勉強しないと」

「リュウ君が勉強しだすと凄いことになりそうだから、ほどほどにね」


 しかし、男のプライドとしてはこれからはもっとミユを気持ち良くさせたい。そう誓ったのだった。


ーー


 朝食の後、ゲームをして、その後、初めての行為をして、二人で寝て、夕食を食べて、と、気がつけば夜の9時になっていた。


「なんか、今日はあっという間だったな」

「リュウ君に処女もあげられたし♪」


 幸せそうな顔をして、なんてことを言うんだ、こいつは。それもまた可愛く見えるのが憎らしい。


「その。そういうはしたないことはだな……」

「別に、女子は普通にそういう話好きだよ?」


 そういうものか?


「ま、とにかく今日は良かったよ」

「今度はもっと気持ち良くしてね♪」

「何故、すぐそっちの方向に行く。つーか、そんなにエッチが好きか?」

「好きだよ?リュウ君をいっぱい感じられるし。毎日でもしたいくらい」


 無邪気な顔をしてそんなことをいわれると、俺の方が情けなくなってくる。


「とりあえず、3日に1回くらいにしてくれ」

「ふうん。そういうものなんだね」


 なんとか、納得してくれたらしい。いや、俺も今日は求めてしまったけど、さすがに毎日だと保たない気がする。


「そういえば、今日は一緒に寝るか?あ、もちろんエッチはなしな」

「別にそういうとこでまで考えないよ。女心がわかってないなー」


 ダメ出しされてしまった。ともあれ、付き合い始めたミユは以前の愛らしさに加えて、小悪魔的な魅力さえ感じてしまう。


(これは俺、尻にしかれるな)

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