第15話 幼馴染とジョギングに行く件について


 5月15日水曜日。気温も高くなってきて、昼間もやや暑くなってきた。


「ちゃんと準備運動をしようね」

「了解」


 アパートの下で俺とミユはストレッチをしていた。きっかけは昨夜に遡る-


◆◆◆◆


「リュウ君、ちょっと太った?」


「ええ。マジか……」


 ミユが脇腹をぐいぐいとつまみ出す。


「うん。やっぱり、少しだけど太ってるよ」


「太ってないはずなんだけどなあ」


 70kg前後で維持できているはず。


「体重は増えてなくても、少しお肉がついてるのかも」


「ちょっとダイエットした方がいいか」


「じゃ、明日からジョギングしよ!」


 ここ、筑派大学には、体育専門の学部が存在している。

 それくらい、体育に対する力の入れようは凄い。

 大学内に、ジョギング専用のコースがあるくらいだ。


「じゃ、やってみるか」


◇◇◇◇


 というわけで、今に至る。

 思えば、週1の体育の授業以外、あんまり運動をしていない。


「よし。準備運動終わり!」


「俺も終わったぞ」


 二人揃って準備運動を終える。


「それじゃ、行くよー」


 ミユの元気な掛け声でジョギングが始まった。

 俺達のアパートがある甘久保あまくぼ三丁目は、ジョギングコースの途中。

 ジョギングをしている学生に鉢合わせすることもしばしばだ。


 朝のんだ空気を吸い込みながら、ゆっくりと走る。


「ジョギングは、久しぶり、だけど」


「意外と、気持ちが、いい、な」


「自然が豊かだよね」


 ミユは涼しい様子だ。息一つ切らしていない。


 しばらく、お互い無言で一緒に走る。

 ジョギングコースは全長5.3kmだ。

 一周走れば結構な運動になるだろう。


「はっ、はっ、はっ」


 少し、息が苦しくなってくる。


「大丈夫?」


 気遣うような声。


「まだまだ平気」


 まだ1/2も走り切っていないのに情けない。だから、少し強がる。


「しんどかったら言ってね?」

「ああ」


 心配そうだったが、何も言わないことに決めたらしい。


 続いて、さらに10分程走る。


「はぁ。はぁ。はぁ」


 さすがに、少し堪える。


「ちょっと休憩しようか」


「助かる」


 立ち止まって呼吸を整える。

 ミユも大学に入ってから、そこまで運動していないように見える。

 なのに、息一つ切らしていないのはどういうことか。


「ミユはなんで平気なんだ?」


「身体の動かし方にコツがあるんだよ」


 身体の上下動を抑えることや、歩幅の意識など。

 いくつかのコツを教えてくれた。


「実践するのは難しそうだ」


「すぐには難しいよ。1ヶ月くらいやってみれば慣れるかな」


「いつの間にそんなことを」


 高校の頃、ミユがジョギングをやっていたとは初耳だ。


「昔、ちょっとダイエットをしたときにね」


「太ってたことあったか?」


「あの出来事があった後、あんまり外出歩かなかったでしょ」


 確かに、あれから皆で外で遊ぶことは減った。

 それでも体型を維持していた裏に、そんな努力があったとは。


「ミユは凄いな」


 あの出来事は、ミユに相当なダメージを与えたに違いないのに。


「そんな褒めることじゃないよ。普通だよ、普通」


 照れくさいようで、表情がふにゃけている。


「しっかし。だったら、俺も頑張らないとな」


 肩をぐるんと回して、息を大きく吸い込む。


「よし。そろそろ、再開しようぜ」


「うん!」


 そうして、俺達はジョギングを再開。

 すぐにテクニックの差を埋めきれるわけもなく、

 何度か休憩を挟んでもらったのだが。

 

 そして、約40分後。


「着いたー!」


 ようやく、一周のジョギングを終えて、ミユとハイタッチ。


「あー。いい運動になった」


 ストレッチをしながらつぶやく。


「でも、定期的に続けないと駄目だよ?」


「頑張るよ」


 こうやって、二人で一緒に走るのも、デートのようで悪くない。

 それに、走っている時の彼女はとれも綺麗だ。


 その言葉は口に出さなかったけど。

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