第13話 幼馴染が先輩に謝罪した件について

第13話 幼馴染が先輩に謝罪した件について

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 部屋の片隅に丸まっているミユ。


「やっちゃった。あの人は、ほんとに親切で言ってくれただけなのに。あんなにひどいことを言って……!」


 その涙声からは悲痛な叫びが伝わって来る。そういえば、高校の頃も、ひどいこと言ったときは、こうして丸まっていたか。

 

 ミユの隣に体育座りになって、いつもとは違う、慰めるように優しく髪をなでる。


「あの先輩。岩崎先輩にはさ、俺から謝っといたよ。すいませんって」

「リュウ君は悪くないでしょ。私がひどいことを言っただけなのに」

「だけどさ。俺はミユの事情も知ってるしな。誤解されたままなのは良くないと思ったし」


 優しく伝える。


「……いつもごめんね。私のフォローしてもらって」


 どよんと落ち込んだ声。


「少しずつ治していけばいいから」


 すぐにどうにかなることじゃないから。


「先輩は何て?」 

「自分も可愛い子が居たからって部分があったって。落ち込んでたよ」

「やっぱりそうだよね。どうしたらいいのかな……」


 壁をぼんやりみながら涙で頬をぬらしながら、ぽつりと溢すミユ。


「それだけどな。一度、謝ろう。岩崎先輩に」


 正直、それしかないと思う。


「でも、それで許してくれるわけ……」

「許してくれるかはわからないけどさ。謝らないと」


 今までは、そもそも謝罪をする機会すら無かったが、幸い、あの先輩なら謝罪の機会くらいは与えてくれそうだ。


「ミユも謝れないわけじゃないでしょ?」


 咄嗟に出た言葉がもう撤回しようがなくなっちゃうだけで。


「うん。ありがと。先輩に謝ってみる」


――


 翌日。岩崎先輩を捕まえて、ミユから話がある旨を伝える。そして―


「昨日は、ほんとにすいませんでした!あんなこといっちゃって。許してもらえるかわかりませんけど……」


 ミユが腰を深く折って謝罪をしたのだった。


「いや。そこの彼から事情は聞いてるし。僕もまあ、可愛い子が居たってのは少しあったからね。反省してる」

「そんな。別に、私が可愛い、ていうのはおいといて、そういう事を期待するのは普通だと思いますし」

「そう言ってくれて助かるよ。ちょっとグサっと来たからね」


 そう苦笑いする岩崎先輩。


「許してくれますか?」

「別に怒ってはいないよ。それとは別にグサっと来たことはあるけど、僕の問題だから気にしないで」

「その。会ったときに、普通に話しても大丈夫ですか?」

「むしろそれなら大歓迎だよ。勉強を教えるのは好きだしね。あ、オンラインでもいいから」


 そう言って、メールアドレスを書き込んだ紙をミユに渡して去って行った。


――


「良かったな。ミユ」


 そう肩を叩く。


「良かったのかな。結局、傷つけちゃったし」

「ちゃんと謝罪できて、許してくれたじゃないか」

「そうだね。少しは、頑張れたのかな」


 まだ元気はなさそうだったけど、少しは悩みは晴れたようだ。


「さっき、気づいたんだけどね」

「どした」

「可愛い子がいるから、とか、かっこいい人から、って別に悪いことじゃないんだよね」

「まあ、そうだな。安井君だっけか。ああいうのは勘弁だが」


 異性に近づくことしか考えてない奴らはともかく、可愛い子やかっこいい人と、あわよくばお近づきに、くらいは

 誰でも考えることだろう。


「そんな単純なことも忘れてたんだなって気づいたよ」

「事情が事情だしな。ま、それに気が付けたなら、だいぶ進歩じゃないか?」


 毒舌癖を発揮することになったきっかけを考えると、そこを自覚できれば変われるんじゃないか。


「そうだね。もうちょっと頑張ってみる」


 目に生気が戻って、やるぞーって顔になっている。


「その意気だ」


 ようやく元気が出たようで、ほっと一安心だ。やっぱりミユは明るく元気なのがいい。


「あのさ」


 と思ったら、何やら恥ずかしそうに顔を急に赤らめだした。どうしたんだ。


「リュウ君がここまでしてくれるのって。幼馴染だから?それとも……」


 その問いは考えまいとしていたものだったので、答えに窮する。


「ああ。ええとだな。どういえばいいのかな……」


 自分の中で想いを整理する。


「まずだ。幼馴染だからってだけでここまではしない。それは断言してもいい」


 それは、確かな想いだ。幼馴染だから、なんて言葉で表せる何かでずっと側にいようとしたわけじゃない。


「それに、ミユは可愛いし、俺のために料理作ってくれるのも嬉しいし、髪はふわふわだし……」


 思わず、しどろもどろになってしまう。


「とにかく!彼女にしたいとか恋人になりたいとかはわからないけど。女として意識してるし、おまえは可愛い」

「そ、そうなんだ。リュウ君は可愛いとか気にしてないと思ってた」

「そこまで聖人君子じゃないぞ。ただ、色々……整理させてくれると助かる」


 言ってて、俺は相当のヘタレなのではと思った。しかしー


「うん。じゃあ、待ってるよ」


 そう言ったミユは満面の笑みなのだった。


「なんか、ヘタレでごめんな」


 ミユはこうして健気に待ってくれているというのに。


「ううん。リュウ君はリュウ君だし。それにー」


 と頬に冷たい感触。見れば、ミユの顔が少し赤い。


「これくらいなら、いいよね?」


 小悪魔めいた微笑みを浮かべるミユ。これが俺とミユの関係の変化につながっていくことを、後になって思い知ったのだった。

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