第8話 幼馴染とらんらんに行く件について

 4月24日の水曜日。

 大学に入ってもうすぐ1か月が経とうとしている。

 大学生活にも慣れてきたところだ。

 そんなある日のByte編集部室にて。


「夕飯はらんらんに行くぞ」


 唐突に、俊さんが呼びかけた。


「らんらんって、丼ものの店でしたっけ」


 確か、入学のときに読んだByteに書いてあった気がする。


「丼ものとかじゃないんだな。らんらんはらんらんという食べ物だ」


 わけのわからない宗教染みたことを俊さんがのたまう。


「それ、何か面白そうですね!」


 わけのわからないことを言うからミユが……目を輝かせている?


「らんらんの深淵は行ってみないとわからないぞ?」


 ずいっと俺たちに顔を近づけて、そんなことをつぶやく俊さん。


「私は行きたいです!」


「じゃあ、俺も」


 ミユ一人でついていかせるのは心配だ。


「なら決定だな」


 ということで、らんらん行きが決定。

 大学から離れたところにあるので、俊さんが車を出してくれることになった。


「俊さん、運転免許持ってたんですね。少し意外です」


 初めて会ったときから浮世離れした印象があった。

 だから、車なんてものを持っているとは思わなかった。


「つくなみ市は田舎だから、車がないと色々不便だぞ」


 てっきり、自転車だけで大丈夫かと思ってた。

 ミユも色々連れて行ってやりたいし……。

 免許を取ることを考えた方がいいのかもしれない。


「ミユは免許取るか?」


「うん。取りたいな」


「じゃ、一緒に取りに行くか」


「うん!」


 しかし、付き合ってもいないのに、それでいいのだろうかとも思う。


「仲がいいのは結構だな……」


 車に揺られること約20分。

 俺たちは無事、らんらんにたどり着いたのだった。


「とんでもない店かと思いましたけど、普通ですね」


 遠くに見えるらんらんは、簡単な外装がある一軒家風の建物。

 2階の前に【らんらん】という看板がかかっている。

 外装だけでは何の店かさっぱりわからないのが少し変わっている。


「リュウ君、リュウ君。凄い行列ができてるよ」


 目をこらすと、入り口から行列ができている。同じ学生客のようだ。


「人気店なんですか?」


「筑派生でらんらんを知らない奴が居たらモグリだ」


「そんなに凄いんですね」


「言っておくのを忘れてたが、最初は小盛りをお勧めしておく」


「というと?」


 その言葉にそこはかとなく不安を感じる。


「並盛りでもかなり多くいんだ。小盛りで、普通の店の大盛レベルだぞ」


「不安になってきました」


「私も、そんなに食べないかな」


 ミユも完食できるか不安になっているようだ。


「小盛でも不安ならミニというのもあるから、大丈夫だ」


「それなら安心です。小盛の下があるのも珍しいですね」


「それがらんらんクオリティというやつだ」


 次第に行列が前に進んでいき、俺たちが列の先頭になった。


「メニューはBIG丼ただ一つだ」

「「えええ?」」


 俺とミユの声がハモった。


「不安になるのはわかるが、味は保証する」


 こうなっては腹をくくるしかない。

 入り口を近くの券売機でBIG丼小盛の食券を買う。

 俊さんはBIG丼並盛、ミユはBIG丼ミニだ。

 テーブル席で待つこと約10分。「それ」が俺たちの前に運ばれてきた。


「これ、丼ものといって良いんですかね」


「洗面器じゃないかな」


 俺たちは絶句していた。それもそのはず。

 BIG丼は洗面器のような大きな器に入れられていたのだ。

 炒めた野菜やもやし、肉、唐揚げが所狭しと並べられている。

 ご飯の部分がほとんど見えていない。

 美味しそうだけど、これは丼ものなのだろうか。


 「いただきます」を言ってから、スプーンで食べ始めた。


「……美味しい」


 一口食べたミユがつぶやく。


「ほんとだ。何故かわからないけど、食が進みそう」


 何故かわからないが、美味しい。


「いつものらんらんだな」


 三者三様の感想。気が付くと、あっという間に完食してしまった。

 店の外で待っている人がいるので、さっさと席を立つことにした。


 帰りの車中にて。


「一度らんらんで食べたら、多くの人は病みつきになると言われている」


「はい!理由がわかった気がします」


「まあ、美味しいですけど」


 そんな会話を交わしたのだった。


 免許の事、そのうち考えておかないといけないな。

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