第9話 幼馴染と東京にお出かけする件について(1)
ゴールデンウィーク初日の4月29日の昼下がり。
俺とミユは、黙々とキーボードを叩きながら作業をしていた。
先日の牛丼を計量した結果などを記事にまとめるためだ。
編集部では空いている机がいくつもあるけど、ミユは俺の隣をいつも選ぶ。
日差しが窓から差し込む中で、キーボードとエアコンの音だけが響く。
「リュウ君、これでどうかな?」
ミユ記事の下書きができたようだ。
「どれどれ……」
ミユのディスプレイに表示されている下書きを読み上げる。
「結論として、牛丼ハーフ2個の方が牛丼並盛よりもお得であることを確かめることができた。皆さんも、すみ屋でお腹いっぱい食べたいときは、牛丼ハーフ2個を頼んでみてはどうだろうか」
悪くはない、悪くは無いんだけど……。
「ダメ、かなあ」
俺の微妙そうな表情を読み取ったのか、ミユは不安そうだ。
「いや、ダメじゃないんだ。ちょっと記事の文体が堅い気がしないか?もうちょっと、ネタっぽい感じでさ」
「ネタっぽいって、それが難しいよ。ネットのそういう記事ってほんと上手だよね」
もう少し良い文案はないものか。
「ちょっと、文章のノリを変えてみたらどうかな」
ミユに代わって文章を打ち込む。
「というわけで、我々取材班2名の尊い犠牲の元、牛丼ハーフ2個の重量が牛丼並盛の重量より重いことを確かめることができた。読者の皆さんには、この尊い実験結果を学生生活に役立てることを期待したい」
より理系ぽいノリのネタにしてみた。
「私のより堅くない?」
「Byteのノリは理系視点で観察するとこだから、これくらい堅い方がいいと思う」
「確かに、そうかも。後は俊さんに意見聞いてみようか」
「それがいい」
一作業終えたところで、肩が少し凝っていることに気が付いた。
肩をぐるぐる回していると、後ろから手の柔らかい感触が。
ああ……気持ちいい。
「ミユ、マッサージ上手だな。それで商売やってけるぞ」
少し大げさに褒めてみる。
プロには及ばないが、人に肩を揉んでもらうのは心地よい。
それがミユともなればなおさらだ。
「さすがにそれは大げさだよ。お客さん、こちらもどうですか?」
今度は、こめかみのあたりをゆっくりと揉みほぐしてくれる。
「あれ?なんかすごく肩が軽くなったぞ。どういうことだ?」
こめかみと肩とのつながりがわからない。
「ふふ。実はね。顔の神経って、首から肩につながってることが多いんだって」
知り合いの整体師さんの受け売りだけどね、とミユは付け加える。
「ミユはどうやってそんな技覚えたんだ」
「ずっと座ってると肩が凝るでしょ?だから、勉強したんだよ」
ふふん、と得意そうだ。
しかし、ほんと、物事を吸収するのが上手い。
あとは男の前での毒舌癖さえなくなれば完璧なんだけど。
ゆっくり見守るしかないか。
「ああ。ミユは偉いよ」
わさわさとミユの髪を撫でてやる。ミユは目を閉じて心地よさそうにする。
こんなことをしてても動じないByte編集部の面々はほんとに凄い。
最初こそびっくりしたように視線を向けて来たけど、最近は全スルーだ。
画面の前に戻ってツイッターを眺める。
ゴールデンウィーク初日だけあって、観光名所関係のニュースが目立つ。
その中で「スカイツリー混雑状況」というのが目に留まった。
「なあ、ミユ」
「なあに、リュウ君?」
彼女もちょうど休憩していたようだ。
「明日だけど、スカイツリーでも行かないか?」
東京スカイツリーは、東京にある電波塔だ。
巨大商業施設ソラマチがあり、水族館、飲食店、書店、など色々な店がある。
ソラマチだけで一日が潰せるくらいらしい。
一度スカイツリーに登ってみたいと以前に聞いたことがある。
「それって、デ、デート?」
顔を赤らめてミユに聞き返される。
東京までは時間がかかるわけで、なんとなく遊びに行くという場所ではない。
でも、デートかと言われると少し言葉に困る。
「前に行ってみたいって言ってただろ?それを思い出しただけだ」
少し苦しい言い方だろうか。
「そっか。うん。私も行って見たいし、行こ!」
OKの返事をもらえたのだった。
「よし。じゃあ、結構混んでるし、計画的に動かなきゃ。二人分予約取っとくから」
そうと決まれば話は早いと、チケットの予約を取る。
「リュウ君はこういうとき、手際がいいよね」
「ミユは直感で動くからなあ」
せっかくならより楽しいものにしたいので、色々プランを練っておこう。
この大切な幼馴染のために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます