活動報告:読了作品を語っていく⑬
どうも、ゆあんでございます。
企画も残す所数日となってしまいました。過ぎ去ってみれば、早いものです。
さて、そんな中で本日は最近に追加された作品について、語ってみたいと思います。
■夢月七海 様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054897517128
以前にも紹介さしあげた通り、夢月七海様は「同題異話」の初代企画主様です。素晴らしい運営と企画により、多くのカクヨム作家の心を鷲掴みにし、本企画にご参加の皆様にもそのご経験があるのではないでしょうか。私もその一人です。
この企画では毎月、タイトルだけが示されます。そのタイトルに合わせて他作者が執筆する訳ですから、当然タイトルは重要になってきます。
「そのタイトルをどのように設定するのか」をご自身のエッセイで語られておりました。非常にロジカル、クールに、かつ真摯に取り組まれており、私は思わず唸りました。こういう作品への向き合い方があるのだと、当時の私は驚愕すると共に、尊敬の念を抱いたのであります。
そんな夢月七海様、やはり本企画作品に取り組まれるにあたり、要項を良くご検討されたのでしょう。レギュレーションを完璧に、かつ自然な形で作品に落とし込まれておりました。
本作を語る上で重要な作品があります。
それは太宰治の「葉桜と魔笛」。
私は自身で「葉桜の君に」というタイトルを上げ、かつ純文学を意識して取り組んで起きながらも、「葉桜と魔笛」については読んだことはおろか、名前すら存じ上げませんでした。いやぁ、お恥ずかしい。
それはさておき、本作の中で、この「葉桜と魔笛」がどんなお話なのかが簡単に語られています。
葉太がこの作品を引用したのは、自身が国語の先生であり、教科書に載っているから。
しかし解釈が分かれる作品ゆえ、少しでも授業を楽しんでもらいたいという想いから、その資料集めとして葉桜の写真を撮影しにでかけた先で、桜子と出会います。
そこで桜子から相談される内容が、中々の衝撃的事実。
これにどう答えるべきか、人として何をするべきか、葉太は自身の経験から真剣に考えます。
そしてこれに答える前、葉太はこんな事を桜子に伝えます。
――物語の外側にも、人生がある――
これが、実に素晴らしいと私は思ったのです。
まずこの言葉は、葉太の「教師として」の言葉であります。国語教師として物語を解釈する・楽しむ上で、持ち合わせていなければならないことを、教師として桜子に伝えているのです。
しかし一方で、これは「一人の人間として」も伝えている言葉でもあります。葉太には桜子に話していない過去がある。そして葉太が知り得ない人生もまたある。
この、葉太がもつ「二つの立場」から「同じ事を言わせる」ことが、とてもむずかしいのですよね。
(私の作品では、「男としての葉太と教師としての葉太では意見が真逆になる。だからこそどっちを伝えるか悩む」という方向で進めたので、これは驚きでした)
そしてこの言葉の真の意味は、物語が進行するにあたってどんどん明らかになっていきます。
この言葉を桜子は自身の人生観にそれをすっと落とし込むことで、後に受け止めなけばならない事実をうまく昇華し、自身の気持ちのコントロールにも成功しています。
しっかりと、レギュレーションの核心を押さえています。
上手く「葉桜と魔笛」を引用し、物語に圧倒的な深みを与えています。
一番素晴らしいことは、この言葉の持つ意味を、読者の心にも染み込ませることに成功しているということです。
この物語の中で、葉太は読者に対して訴えません。共感も押し付けず、「気づき」としてただ桜子に諭しているだけ。
しかし読者は、まるで自身がその授業を受けたかのように、「なるほど、そうだよね。うんうん」と頷く訳です。この感覚は、きっとお読みになられた方なら共感頂けると思います。
葉桜というワードから「葉桜と魔笛」を引用し、物語に落とし込み、そして物語の愉しみ方を教師として諭し、それが人を育て、読者に深い共感を(それも押し付けない)与えていく。ロジカルに構築された破綻のない設定が、リアルな人間を描き、読者に学びを与えている。とてもレベルの高いことをやっていると思います。
筆致も非常に端正でわかりやすく、落ち着きがあり、とにかく読みやすかったです。読みやすいということは大切なことです。お陰で読者はストーリーに集中できるのですよね。物語としてもとても面白い。さすがでした。
まさに正統派の模範的な作品だと思いました。
(これはあくまでもプロットや条件に基づき敢えて言及しているだけで、繰り返しになりますが本企画は一番を選定する意図はありませんし、これをもってこれが大正解だと述べている訳ではないことをご理解頂きたく存じます)
本作はストレートにテーマに真摯に取り組まれ、一つの作品として個性を発揮するに至った、とても丁寧で美しい作品でした。
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