活動報告:読了作品を語っていく⑭

 このコーナーも14作品目。

 筆致企画ということで、やはり企画主である私が「どんな目線で見ているか」を知ってもらうことは重要だと考えます。それが一番、企画に参加されている方々と志しを同じにできると思いますし、その方が結局の所円滑な運営に繋がると思っています。


 そんな所から本日語らせて頂くのは、以下の作品です。


 ■あかいかわ 様

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054897530608



 さて、まずこの作品で筆致上、一番の注目ポイントは、【会話文に一切のカギカッコが存在しない】点です。

 これは昨今のスタイルの中ではかなり珍しいと言えます。


 時代はWEB小説。如何にスピーディーで読みやすいかどうか。昨今の小説では「言い回しの妙」よりも、「読者負担が少なくストーリーを伝えられるか」が重要視されがちです。

 その中でライトノベルはその極地とも言えます。会話文を大量に用意し、キャラクターとの掛け合いを楽しむ。リズムを崩す地の文を削減し、楽しんでもらうための工夫が盛り込まれている。

 ですから会話文は重要度が高く、そこにフォーカスするために、横組みでは会話文の前後に空行を挿入してまで、そこにポイントを持ってきている訳ですね。


 そんな中で、本作は、そういったことをしません。

 一転して、それは「読みにくいのでは?」と思われがちです。

 しかしこれが、不思議なことにとても読みやすいのです。


 本作の世界は未来。SFです。争いが耐えない未来、優秀な人材を育成するための機関に所属する教官、それが葉太です。歳が近い生徒である桜子は、そんな彼の優秀な教え子でもあります。

 しかし桜子には疑問があります。この戦いが中心となっている世界に、どんな意味を見出すのか。そんな桜子が行動したのは、物語を書くことでした。


 物語を書く。我々が当たり前のように取り組んでいるこの作業ですが、ことこの世界においては、すでに風化してしまったもの。理由は簡単。戦いには不必要だったからです。


 それでも、そんな物書き達が他にいるということを知った桜子は、どう行動を起こしていくのか……

 そしてその物書き達が集う「カクヨム」とはいったい……


 そんなストーリーです。


 まずこの設定が大変ユニークですよね。物書き達がどういう思いでそこに集っているのかを、客観的に描写しています。それを実際のカクヨムと結びつけている所が、また見事。


 そして作中、葉太が生徒に語る内容がまた素晴らしい。私は彼の言葉に痛く共感しました。素晴らしいものを素晴らしいと感じるために、必ずしも理解は必要ない。そのことが、作家たちにどれほどのエネルギーをもたらせてくれるでしょうか。


 本作は筆致の独自性もさることながら、しっかりとしたメッセージも含んでおり、それを効果的に活かすためのSFという舞台設定までもが作り込まれています。その硬く殺伐とした世界観を、作者様のやわらかな筆致で温かみをもたせている。


 そんな素敵な作品だと、私は感じました。

 作家なら、参考になる所が多いのでは? と感じた次第です。



 それでは、また。

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