第2話 親友と喧嘩しました

 俺はそんな驚愕な放課後があった次の日、俺はいつも通り親友と話していた。


 いつも通りのさわやか笑顔。これで何人もの女性を落としている。学年一の美少女までも落としている。


 俺はでも、少し緊張していた。今日からあの作戦が始まるのだから。


 いつも通りの日常、それが変わってしまうような気がする。


 そんな心配事をよそに宮野さんがやってきた。


「おはようございます、にし、大樹君。西谷君」


 宮野さんがそう挨拶した瞬間。クラスの雰囲気がぐっと変わった。少しピリピリしている空気になった。


 宮野さんは昨日と打って変わって、恥ずかしがることなく挨拶をした。ちょっと間違えそうになったけどな。


「おはよう、明日香さん」


 俺は周りの視線を完全無視して挨拶をする。


 何も言い出さないので親友の顔を覗いてみると、顔に驚愕を表していた。いつもは張り切って挨拶しているのに。でも、そんな顔でもカッコいいからイケメンはずるい。


「おーい、和樹。どうしたんだ?」


 俺は一言も発しない和樹の目の前で手を振る。少ししたら反応した。


「お、おはよう、宮野さん」


「どうしたんですか?今ボーっとしてたようですが?」


「あ、ああ。考え事をしてただけだから」


「そうですか、良かったです」


 そう言ってほほ笑む宮野さん。それに対して和樹はちょっと頬が赤くなっている。


「と、突然だけど、聞いてもいいかな、二人とも?」


 そう、少し震えながら聞いてくる。


「二人って下の名前で呼びあってたっけ?」


 あ、その設定を話すの忘れてたな。俺は視線で宮野さんに黙っているように指示する。彼女はそれに了解したようだ。


 彼女が何か言うと大変なことになりそうだ。


 今から、即席で考えた理由を言おうとしたら、宮野さんが話始めた。


「昨日の放課後にですね」


「えっ!」


 俺は思わず声に出してしまった。


 全然わかってなかった。


「どうかしましたか?大樹君」


「いやなんでもない」


「それでですね、昨日の放課後にですね、悪い男の人たちに」


「ちょいちょいちょい!」


「ど、どうしたんだ!大樹いきなり叫んで」


「そ、そうですよ。びっくりしたじゃないですか」


 和樹は本当に驚いて言う。宮野さんは呆れた風に言う。


 いやいやいや!今の話はなんだ?俺がその悪い男に絡まれてた宮野さんを助けたってストーリーか?俺にそんなこと出来るはずがないだろ!でも、ここで話を変えても逆に怪しまれる。このままでいいか。良くなさそうだけど。


「悪い男の人たちに絡まれているのを、大樹君に助けてもらったんですよ」


 分かってたけど。分ってたけど、そんなこと俺が出来るはずないだろう!和樹は信じるのか?


「へ、へぇ。大樹よくやったな。お前がそんなこと出来るなんて」


 し、信じちゃったよ!信じちゃったよこの子!俺がそんなこと出来るはずないだろ!色々衝撃過ぎて頭がおかしくなったか?それとも宮野さんが言うことが絶対なのか?それはまぁ、宮野さんの今までの実績っていうのもあるだろうけど。俺だったら信じねえよ!ここは乗るしかないのか!


「す、すごいだろ!」


「ああ。で、それでどうして下の名前で呼び合ってるの?」


「それはですね、お礼に何か差し上げようと思ったのですが、その時に大樹君が私のことをしたの名前で呼びたいと言いまして」


 部屋の空気がさらに悪くなった。俺に憎悪の視線が突き刺さる。


 何故、そうなった!俺が完全に悪ものじゃねえか!なんでそんなストーリーしか思い浮かばねえんだよ!こいつ、意外にポンコツか!いや、ポンコツだったな!ポンコツじゃないとまず俺を偽彼氏に仕立て上げるはずがない!


「おい!」


 俺は反射的に叫ぶ。そうしないと俺が大変なことになる!


「なんですか?大樹君?」


「なぜ、そうなった?」


「事実じゃないですか?」


 宮野さんが首を横に傾ける。


「事実じゃねえ!」


「事実ですよ。だってほら、互いに下の名前で呼び合えって言いましたよね」


 遠巻きに聞いていた女子から「うわー。最低」などのヒソヒソ声が聞こえる。


 俺は言ってない!言ったけど!言ったよ!言ったけど!そうゆう事じゃない!しかも事実だからこいつの場合は訂正はしてくれないだろう。


 ここで俺は暴挙に出る。


「だ、だって宮野さんを下の名前呼びすることなんて一生ないじゃないか!この学年の男子の憧れだろ!」


 そう俺はみんなに聞こえるように主張する。


 これは一応事実。誰かが話していたのを聞いた。そしてその話を聞いていた和樹がその男子をすごい目で睨んでいたことも。


 そうすると男子からの目線は柔らかくなった。


 やっぱり、夢なんだろうか?


「でも、そもそも付き合ってもないのに下の名前呼びはちょっとダメなんじゃないか?」


「良いだろ別に。俺は宮野さんと仲良くなりたかったの」


「そうなのか?」


 和樹が俺の下手な言い訳に少しいつもより低い声で言った。俺の背中に冷や汗が走る。


「そ、そうだ。親友のお前だからだと言っても、俺が仲良くなりたい人まで言う必要ないだろ」


 この言葉でもう、みんな俺が宮野さんのことが好きだと思っているのだろう。


「俺としては言って欲しかったな」


 そう、落ち込んだ感じの声で言う。


 でも、お前は頑なに言わなかったよな。俺が小学生の時好きだった女の子を教えたのに、お前の好きな人は。しかも、お前がその子と俺をくっつけようと近づいたせいでその子、お前のことが好きになったし。しかも、俺がその子のこと好きだって本人にバラしたしな。今はもう何も思ってないけど、お前に言われるとムカつく。


 だから俺は言い返した。


「お前も昔から言わなかっただろ」


「それはだな」


「いつもいつも俺だけ。なんでお前はいつもそうなんだ?」


 ここで言わなくても良いことが次から次へと出てくる。


「俺が誰にも言わないと約束しているのにお前は俺に教えなかった。逆に俺はお前が誰にも言わないと言って、信用していたから言ったんだぞ。でも、お前はそれを破った。しかもその本人にばらした。その時俺がどんだけ惨めな思いしていたと思うんだ?お前にはそれが分るのか?信用していた親友から一度裏切られる気持ちが!だから、俺は今回言わなかった!その理由が分からないお前じゃないよな!」


 もう、大丈夫だと思っていたけど、そんなことはなかったみたいだな。


「俺はお前にその言葉を言われる筋合いはない!」


 俺はそう捨て台詞を放ち、有無を言わせることなく教室を出ていった。

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