第40話誤算Ⅰ
いなりちゃんは
『柊!』
ノエルが駆け寄ろうとしたら、後ろから誰かに腕を掴まられて走りだせなかった。
『ウルフ?目が覚めたの?』腕を掴んでいたのはウルフだった。いつの間に側に来ていたの?何の気配もなかった…。
『ウルフ、良かった。目が覚めたのね』
私はウルフに声をかけた。
『いたっ!ウル…フ…腕…痛い…』
ノエルの表情が強ばっていく。
『ウルフ!腕を離して!』私はウルフの腕を強めに掴んだ。でも、なかなか腕を離してくれない。ノエルは腕の痛さで汗をかきだし、気を失いそうになっていた。
『ウルフ!どうしちゃったの?腕を離してってば!』
その瞬間、私に耳と尻尾が生えた。ウルフは腕の痛さでノエルの腕を離した。
私はノエルの体を抱き留めた。
『ノエル?大丈夫?』
ノエルの袖を捲り腕を見ると、くっきりとウルフの両手の跡が付いていた。
どのくらい強く握っていたのか…。
『大丈夫よ…。このくらい柊に比べたらマシよ』
柊さんはまだ気を失っている。いなりちゃんも結局、目を覚ます気配がない。
『エリ…一人で覚醒したら暴走…しちゃうわよ?』
『一人じゃないわよ?柊さんだっていなりちゃんだって、ノエルもいるじゃない。それにウルフもいるわ』
ウルフの目は光りが無く、明らかに操られているだろう表情になっていたけれど…。。
『ふ~ん。諦め悪いんだね~。それにしても女の子に耳と尻尾ってやっぱりなんかいいよねぇ』
そう言いながら、
このノエルの状態では、走って逃げることは出来ない。私は酒呑童子を睨みつけながらノエルの体を覆い隠すように抱き締めた。
ブッチ~ン!
突然、物凄い音がした。
何が起きたのかと酒呑童子も驚いていたら、九尾が鎖を引きちぎっていた。
『さっきからお前はいい気になりおって…。そんな小娘が可愛いだと?許さんぞ…』
さっきの酒呑童子の怒気の比にならないくらいの怒りを九尾が放ってきた。
怒りが混ざっているだけにさっきよりも押し潰されそうになる。
『仕方ないから、そろそろやりますかぁ』
こんな状態の中でも酒呑童子は暢気だ。
『ただ戦うだけなのも面白くないからさぁ。丁度いいしウルフくんだっけ?代わりに戦っておいで』
そう言ってさらに、ウルフに自分の気を送っていた。
『お前がその気なら…。すまぬが小娘。妾に力を貸せ』
九尾は強引に私に自分の気を送ってきた。
『うっ…ぅ…』
さすがは三大妖怪の一人。
気が濃くて凄い…。苦しい…。
下手をしたら、ウルフのように完全に操られてしまいそうになる…。
気の濃さで気を失いかけてしたら、急に体が軽くなり体が勝手に動きだした。
でも自分の意識はちゃんとある。
この前、一人で覚醒した時と同じ状態だった。私はさっきの棒を持ち、ウルフ目掛けて走りだした…。
ゴスッ!
ウルフは左腕で攻撃を受け止めた。
『止めて!二人を戦わせないでよ!』
ノエルの叫び声が遠くの方から聞こえてきた。それでも私の体は止まらずにウルフを攻撃し続けている。
ウルフも攻撃を仕掛けてはくるけれど、私と違って意識がないから手加減が全くない。
勝手に体が動いているとはいえ、気をつけなければ倒されてしまうだろう…。
ドスッ!
『うっ!』
私の体がくの字に曲がる
ウルフの拳が私の鳩尾に入った。
物凄く痛くて気が遠くなりそうだった。
よろけて倒れそうにはなったけれど、それでも耐えてなんとか立ち止まっていた。
『頑張るねぇ。でも頑張れば頑張るだけ痛い思いは増えるんだよ~』
酒呑童子は私達の戦いを座って見て楽しんでいる。たまにウルフに自分の気を送っているようだ。
九尾は鎖で繋がられていたからなのか、私に気を送ったことで立っているのでやっとな感じだった。
殴られた拍子に棒を落としていたらしい。
ウルフがその棒を拾っていた。そしてその棒を踏みつけて折り先端を尖らせた。
まさか…その棒をどうするつもり…?
ウルフはゆっくりと私に近づいてきて胸ぐらを掴み私を引き寄せた。
『オレを信じろ』
私の耳元でウルフが囁いた。
ウルフの意識が戻っている。
ウルフの声を聞いて私の体も自由に動かせるようになった。
でも、ウルフはその一言だけを言い私を酒呑童子めがけて投げつけた。
『うわっ!俺を巻き込んじゃ駄目だよ~』
酒呑童子は気にしてはいないようだ。
でもその次の瞬間、ウルフが棒の先端をこっちに向けて私の心臓ごと酒呑童子の心臓を貫いた。
『ぐはっ…』
私は血を吐いた…。
遠退く意識のなかでノエルの悲鳴と耳と尻尾の生えたウルフを見た…。
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