第39話決戦Ⅳ

『ウルフ…?な…んで…』

離さず手を繋いでいたはずのウルフが意識を無くして横たわっている。ずっと繋いでいる感触はあったはずなのに…。

思わずウルフと繋いでいた手を見る。

『エリちゃん?なんでウルフは気を失っているんだ?』

しゅうさんが起きあがって私の隣に立った。

『なんでウルフまで意識がないのよ!』

ノエルが男の妖怪に向かって叫んだ。

『自分の身の心配よりも仲間の心配するんだねぇ』

相手は私達に対して馬鹿にしたような笑顔を見せた。

『お前は誰なんだ?ここはどこでいなりとウルフはなんで意識がないんだ?全部ちゃんと答えろよ?』

柊さんは顔は怒っているけれど、話し方は相手を挑発した話し方だ。

『正体は最後に言おうと思っていたけど、やっぱ気になるよねぇ。俺は酒呑童子しゅてんどうじ。よろしく~』

酒呑童子って聞いたことがある。確かお酒が大好きな妖怪で日本三大妖怪って言われていたような…。

『は?なんでそんな妖怪が俺達の前にいるんだよ?』

柊さんも聞いたことがあるみたいでかなり驚いている。

『俺の事、知ってんの?嬉しいねぇ。

ここは俺の隠れ家のひとつさ。この二匹の意識がないのは妖怪だから、ここに連れてくる時に俺の結界にやられちゃったんだろうね~。だからちょっと気を失っちゃたんだよ』

妖怪のはずなのに弱いよねぇと笑い出した。

人をからかったような話し方はイライラする…。

『あれが酒呑童子だって言うなら、あの女の妖怪は尻尾が九本あるから九尾の狐だよな』

柊さんが耳元で聞いてきた。

『そうだと思うよ。でも縛られてるってことは酒呑童子が黒幕かな?』

私と柊さんが小声で話していたら、いまいち理解出来ずにいるノエルが

『ねぇ、あの妖怪達を知ってるの?』と聞いてきた。

『俺達の世界では、特に住んでた国ではどっちも凄い有名な妖怪なんだよ。日本三大妖怪って呼ばれてるうちの二人だ』

『え?そんな妖怪がどうしてわざわざ違う国に呼んでまで力つけさせようとしたんだろう?』

ノエルの言う通りだ。

私と柊さんをわざわざ異世界に飛ばして力をつけさす意味がわからない…。


ガチャガチャッ!


九尾と思われる妖怪が鎖を外そうと鎖を引っ張ったりして頑張っていた。

『もう~、さっきから五月蠅いんだよね。そろそろ諦めたら?』

酒呑童子はちょっとうんざりした顔になった。

『おのれ!妾は言うことなぞ聞かぬぞ!お前こそさっさと諦めたらどうじゃ!』

『あ!あの捕まっている間抜けはお察しの通り九尾の狐ちゃんね~。そう言えば君達の仲間にも狐ちゃんいたね~』

やっぱり酒呑童子に捕まって縛られているのか。

私はゆっくりと酒呑童子に近づいていった。

幸い左手にいるいなりちゃんの体の陰になって見えていないようだった。

さらに、酒呑童子はグビグビとお酒を飲んでいたから近づいていることに気付いていない。途中にあった棒を拾い、飲んでいる時にいなりちゃんを避けるように思いっきり棒を左手首に振り下ろした。


ガツッ


と音がして酒呑童子は咄嗟に左手を開いていなりちゃんを落とした。

私も気付かないうちに後ろから柊さんも来ていて、落ちてきたいなりちゃんを抱き留めた。

その瞬間、私と柊さんは酒呑童子から素早く離れた。

『おやおや、やるじゃないか。いつの時代も人間は騙し討ちが好きだよねぇ。本当、嫌んなっちゃうよ』

顔は笑顔なのに空気は一気にピリピリとして怒気が伝わってきた。

私達はいいようのない恐怖に包まれた。

『小僧!さっさと目を覚まさぬか!小娘へのお前の思いはそんな物だったのか!』

九尾は自分の尻尾でウルフの体を揺さぶっている。

小娘?まぁ、妖怪側からしたら皆小僧か小娘にはなってしまうけれど…。実際に言われると嫌な気分。

それにしても何故、九尾はウルフとの関係を知っているの?

『も~う、邪魔してほしくないから鎖で縛ってあげたのに。尻尾を縛るの忘れてたよね~』

相変わらず周りには怒気が満ちているのに、酒呑童子の顔はずっと笑顔だ。

逆にそれは怖い…。

『お話する為に呼んだ訳でもないから、俺が二匹の目を覚ましてやるよ』

酒呑童子は椅子から立ち上がり私達とウルフの中間に立った。

何をされるか分からないから逃げようとしたけれど、怒気で動くことが出来ない。

気だけで、こんなに凄いのに…。

本当に勝てるんだろうか…。

酒呑童子はウルフといなりちゃんに手を向けて妖気を分けているようだ。

『う~ん…』

ウルフの体が動いた。

『ウルフ!大丈夫?』

私はウルフに声をかけたけれど、まだ返事はない。ちゃんと目が覚めていないのだろうか?

いなりちゃんの方は、まだ目を覚ます気配がない。

『あれ?狐ちゃんの方は全然起きなさそうだねぇ。そっちは無理そうだから諦めちゃおうか』

そう言って酒呑童子はさっきよりも強い気をいなりちゃんと柊さんに向けて放った。

『うわっ!』

柊さんはいなりちゃんを抱っこしたまま後ろに吹き飛ばされた…。

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