第38話決戦Ⅲ
なんだか皆、色んなことに疑心暗鬼になり始めていた。
本当に戦いは必要なのか?
本当に世界が壊れてしまう未来が視えていたのか?
疑いだしたらきりがないけれど、私にとってはこの戦いがなければウルフと出会えなかったし、ノエルにも会えなかった。
私は信じて戦いたい。
『何が本当で何が嘘かも分からなくなってきちゃったけれど、この国がなければウルフやノエル、
何か文句ある?と思わせるくらいの勢いでまくしたてた。やっぱり一人で覚醒した時の性格は元々あったのかもしれない。
『そうか…。そうかもしれないな。エリさん、ありがとう。何の関係もないこの国にいきなり連れて来られて戦えって言われて、素直に戦えなくなってもおかしくはないんだよ。だから、そう思ってくれてありがとう』王様は私に頭を下げてお礼を言った。
『俺も今更、何が理由だろうと戦いを投げ出すことはしない。予知夢の内容がなんであれ間違いなく俺達をこの世界に呼んだ奴はいる。そいつに一発、食らわせてやらなきゃ気が済まない。この国を守るのはついでだ』柊さんらしいな。
『オレはエリを守る為に一緒に行動するだけや』
『私だって自分の国なんだから守る為に戦うわよ』
皆が前向きになりだした。
でも、いなりちゃんだけさっきから大人しくなっている。
『いなりちゃん?』
声をかけたけれど返事がない…。
『いなり?どうした?』
柊さんも声をかけたけどやっぱり返事がない。
なんだかいつもと様子が違う。
突然、いなりちゃんの体が淡く光り出してゆっくりと宙に浮き出した。いなりちゃんは意識がないようだった。
『いなり!』
柊さんが慌てて立ち上がりいなりちゃんの体を掴もうとした時、周りが真っ暗になった。
『うわっ!』
『きゃっ~』
『エリ!』
『ウルフ?』
辛うじてウルフの手を掴むことが出来た。
全てが真っ暗なのでどっちが上で下なのか全く分からない状態だ。
ウルフの手の感触しか分からない。
どうなっているのか全く分からず、ただ空間を暫く彷徨っていたように感じた。
どうしたらいいのか考えていたらおもむろに明るくなって、どこかの場所に出たようだ。
急に体が浮いたのかと思ったらウルフとの手も離れてしまい
『いたっ!』
出たのはいいけれど、空中に出たようでちょっと落ちたみたい。
『うげっ!!』
凄い声が聞こえた。
『皆、大丈夫?』
私は慌てて皆を探した。
『イテテ…。ちょっと落ちたけど私は大丈夫よ』
『大丈夫なのは当たり前だろ?俺の上に落ちたんだから』
よく見たらノエルの下に柊さんがいた。
どうやらノエルは柊さんの上に落ちてしまっていたようだった。
『いなりちゃんは?』
いなりちゃんだけ私達の近くにはいない…。
どこにいるんだろう?
辺りを見回していると
『いなりはここだ。ようやく来たようだな。待っていだぞ』
聞いたことのない声が聞こえてきた。
まさか私達の他に誰かがいるとも思わなかったから、皆して恐る恐る声のした方に振り向いた。
よく見たら、ここは洞窟の中っぽかった。
振り向いた正面には椅子があり、そこに一人の男の人が足を組んで座っていた。
『良く来たな』
そう言った男の人の右手には酒壺が握られていた。
左手にはいなりちゃんがいた…。
まだ意識は無いらしい。
その人の左側には鎖で両手を縛り上げられ腰にも鎖をつけられ壁に繋がれた状態の女の妖怪がいた。
耳と沢山の尻尾の付いた狐の妖怪のようだ。
更に驚いたことに、その女の妖怪の前には意識を失っているウルフが横たわっていた…。
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