第37話決戦Ⅱ
『王様、皆様をお連れ致しました』
侍従長は声を掛けてからドアを開け部屋の中に入って行った。
『おはようございます、王様。昨日は飲ませ過ぎてしまったみたいで申し訳御座いません』
『おはよう。多少二日酔いではあるが、騒ぐ程ではない。昨日は一緒に飲めて楽しかったから気にするな』
やっぱりちょっと元気はないよなぁ。
『朝からありがとうございます』私はお辞儀をした。
『敵のことについて話があるとか。今はそのことが最優先事項だから良い。まずは皆、座ってくれ』
とりあえず話のある私が王様の近くに座った。
『何があった?』
急に王様の顔になった。いつも切り替えが早くて流石としか言いようがない。
『実は今朝、何かの気配を感じて目が覚めたんです。そしたらぼんやりとした何かが部屋の中にいて…。はっきりした形ではなかったのですが、微かに声も聞こえてきて。話し方から女性のようでした』
『も、もしかしておばけ?』
いなりちゃんがビクッとなった。
いなりちゃんは妖怪だから同じではないのか?たぶん皆、内心では同じことを思ったんじゃないだろうか。
どう考えても本気になったいなりちゃんの方が怖いと思う。
柊さんは横を向いて必死に笑いを抑えていた。
『おばけは見たことないから、おばけだったのかは分からないわ…』
ウルフも下を向いているけれど、たぶん必死で笑いを堪えているんだろう。
『声は何と言っていたのか聞こえたのか?』
王様はちょっと笑ってしまっていた。
『途切れ途切れだったのでちゃんと聞こえたわけでもないんですが…。たしか…
お前達を巻き込んですまないって』
『お前達ってことはエリや柊のことよね?巻き込んでってことはその声の人も戦っていたのかな?』
やっぱりノエルは頭の回転が早い。
『たぶんそうね。その人は自分のことを
一瞬にして部屋に緊張が走ったのがわかる。
『奴が動き出すってことはそいつは、誰のせいで俺達が飛ばされて来たのか知っているってことだな』
柊さんの顔が怖い…。
『必ず止めて欲しいって。最後は消えかかっていてよく聞こえなかったんだけど、愛しい我が…までしか聞こえなかった。何て言いたかったのかな?』
かなり衝撃的な内容だったので、皆静かになっていた。
『内容からするに、その人は我々の敵と戦ったけど駄目だったから異世界の人に託した…と言うことか?そして敵が動き出すから代わりに止めてほしいと』
たぶんそんな感じなんだろう。
『なんだか自分勝手よね。自分が駄目だったからって全く違う場所の異世界の者に頼むなんて』
王様もノエルもあまり納得いっていないようだ。
『現れたのはその誰かの思念体みたいな物ってことか?下手したらそいつはもう生きていない可能性もあるよな』
『なんでそう思うの?』
ノエルの顔が青ざめている。やっぱりノエルもおばけは怖いのかな?
『なんとも言えないけど、俺とエリのいた世界では死んだ時に心残りが強いとおばけになって出てくるって言われてるんだ。だから、もしかしたらそうかもしれないし、仮に生きていたとしても捕まって身動きがとれなくて思念だけ飛ばしてきたか…思念だとしたら相当力がないと飛ばして更に話すなんて出来ないと思うけどね』
どっちにしろわざわざ自分の力を振り絞って忠告してくれたことになる。
『なぁ、柊。この戦いの結末て予言者で視えた奴はおらんのか?普通、そうなってほしないから結末を変える為に戦ったりするんよな?どんな未来を変える為にオレ達は戦いをせなあかんのか?一度もそこを聞いたことあらへんよ』
ウルフの言う通りだ。
何を変えたいから私達は戦いに行かないといけないの?
本当に戦う必要はあるの?
『俺が聞いていたのは、このままだと全ての世界が壊れてしまうから壊そうとしている奴を止めて欲しいって。どの世界の予言者もそんな感じの事を言っていたな』
柊さんもこの戦いに疑問を持ち始めた。
『お父様は少し視ているのよね?どういう世界になるとかは視たの?』
『すまんな、ノエル。お父さんの力じゃそんなに遠くの未来まで視える訳じゃないんだ…。それに柊君と同じで他の世界の予言者に全ての世界が壊されてしまうって話ししか聞いたことがない』
なんだかちょっと怪しい雰囲気になってきた。
どの世界の予言者もあいまいな話ししかしていないっぽい。
予知夢と少しずつ変わってきているから、色んなところでも小さな変化が出てきているのか?
色んな事が嘘だったんじゃないかって思えてしまう…。このまま戦いが起きても本当に大丈夫なのか?
『もし世界自体が嘘だったとしてもオレの気持ちは嘘やないで』
ウルフが耳元で囁いてきた。ビックリしたけど凄く嬉しかった。
私の気持ちも嘘じゃない。
戦う理由が何で、誰の為に戦うのか分からなくなってしまっているけれど、私とウルフの気持ちは本物だし覚醒するのも本当。
もし戦いを放棄してこのノエル達の住む国がなくなってしまったら…。
それは嫌だ。
一つでも無くしたくない何かがあるのなら、それを守る為に戦うのもありだと思う。
それに、予言者達の言う世界とは?
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