第36話決戦Ⅰ

何かに強く締められ苦しくて目が覚めた。ウルフが先に起きていたけれど、腕の中に私がいたのが嬉しすぎて思わず、ちょっと強めに抱き締めてしまったらしい。

『おはよう。でもちょっと苦しいわよ』私はウルフの腕を抓った。

『いったいな~!』本当に嬉しそうな顔をしていて、さらにギュッと抱き締めてきた。

私も嬉しいけれど、本当はそれ以上に恥ずかしくて堪らないけれど、なるべくそれには触れないでおこうと思った。

『これが幸せって気持ちなんやなぁ』

ウルフが幸せを実感しているのはいいけれど、皆に余計な事を話さないようにきちんと言っておかないと…。

『ねぇ、ウルフ。昨日のことなんだけど恥ずかしいから絶対に皆には言わないで欲しいな』

『ん?そんなんオレやって恥ずかしいから誰にも言わんよ?エリと二人の秘密が欲しいやん。昨日のことは二人だけの秘密な?』

そう言ってウルフは私にキスをしてきた。

やっぱりまだ恥ずかしいな…。

『私の部屋から出てくるのも見つからないようにした方がいいのかな?』

『それは、大丈夫やないか?エリが目覚めない間、オレはずっとエリの部屋にいたし』

『ん~、それともまたちょっと違うと思うけど…』

とりあえずベッドから出て洋服に着替えた。

着替え終わったところに丁度良くドアをノックする音が聞こえた。

『おはようございます。エリ様。朝食はどちらで召し上がられますか?ノエル様は、バルコニーにいらっしゃっていますわ』

『じゃあ、私もバルコニーで食べます』

『では、ご用意して参りますのでウルフ様にもお伝えください』

ウルフにも?もしかして大人のイブにはばれているのかな?

イブが部屋から遠ざかったのを確認してからバルコニーへ向かった。

『ノエル、おはよう』

『おはよう、エリ。良く眠れた?』

『うん?眠れたけど?』

今までノエルに聞かれた事がなかったから、ちょっとドキッとしてしまった。

平常心、平常心…。

『だって久しぶりにウルフに会ったから話すこと沢山あったんじゃないかなと思って』

あぁ、そういう…。

『話をしようと思ったれけど、昨日は結構疲れちゃったから早めに寝たよ』

恥ずかしいからつい嘘ついちゃったけど、ごめんなさい。

『お?皆早いな~。おはよう』しゅうさんといなりちゃんがやってきた。

『おはようございます。柊さん、いなりちゃん』

言わなくても柊さんも大人だしばれていそうだな。だって昨日、ウルフが部屋に来れたのは柊さんのおかげだし…。

『おはよう、エリ~。ねぇねぇ、エリのオーラがなんだか変わったけどなんかあったの~?』

オーラ?オーラが変わったってどういうこと?

『あ…。言ってなかった?いなりはオーラが見えたり離れていても気配感じたり出来るんだよ。だから昨日、エリちゃんが目を覚ましたのが分かったんだ。オーラが変わったってどう変わったんだ?』

なんだか雲行きが怪しくなってきた…。

『え?変わるようなことなんて何もなかったよ?』

私はちょっと早口になりかけたけど、必死に目で柊さんに訴え続けた。

さすがに柊さんは察知してくれたらしくていなりちゃんに

『いなり、もう朝食くるから座って待ってようぜ』と話を逸らしてくれた。

『それに…何でもかんでもその場で聞いてもいいってわけでもないから、気になるなら後で本人のみに聞くようにしろ』後半は小声でノエルには聞こえないようにいなりちゃんに忠告してくれた。

こういうことはあまりないのか、ちょっとビクッとしていなりちゃんは何回も頷いていた。

『お待たせ致しました』

イブが入ってきた。

『ねぇ、イブ。朝食には王様は来ないの?』

予想外の質問に皆がビックリしていた。

『王様はちょっと二日酔いのようでして…。昨日の夜に飲み過ぎたんですわ。次は程々にしてくだい、柊様!』

そんなに飲ませたのか…。

『ごめんごめん。なかなかウルフのことも解放してくれなくてさぁ。酔わせたら解放してくれるかなって思って、ちょっと飲ませ過ぎちゃったかも』しゅうさんは全然反省している風には見えない。

『あら…。それは王様の自業自得ですわね。後で説教しておきますね』

昨日の事があってから、イブは少し強気に出るようになった。

『エリ様、王様にどのようなご用件で?』

『敵についてなんだけど、早めに謁見出来ないかな?』

『エリちゃん?何かあったの?』柊さんは椅子から腰を浮かせ、一気に強ばった表情になった。

『あったといえばあったんだけど、王様にも聞いてもらった方がいいと思って』

『それでは直ぐに謁見の申し出をしておきますわ』

手早く朝食の準備を終わらせたイブはそのまま謁見の申し込みに行ってくれた。

『先に聞いてもいいとは思うけど、王様も揃ってからの方がいいか。後から王様に話したらいじけそうだしな』

そう柊さんは言うと、じゃあさっさと食べちゃうかとまずは朝食を食べることにした。

デザートを食べ終え紅茶も飲み終わりそうになった頃、バルコニーにイブと侍従長が入ってきた。

『皆様、おはようございます。王様との謁見許可がでましたので、今からでもお会い出来ますが如何なさいますか?』

『おはようございます。丁度食べ終わったところなので今から伺います。ところで、王様の二日酔いって…大丈夫ですか?』

柊さんはちょっと申し訳なさそうに聞いた。

『大丈夫で御座います。久しぶりの大勢のお客様にノエル様との時間もとれて羽目を外し過ぎただけで御座いますので、イブとたっぷりとお説教させて頂きました』

なんだかノエルを溺愛すればするほど、王様の威厳が減っていっている気がする…。

この国は大丈夫なんだろうか。

『あ~、すみません。僕も調子に乗って王様に飲ませ過ぎてしまったので』

『元々、お酒に強くないお方なのに制限しなかった王様が悪いので御座います。ですが、久しぶりに楽しそうなにしておられる姿を拝見出来たので皆様には感謝しております』

イブと一緒に深々とお辞儀をされてしまった。

初めて会った時からノエルは明るくて元気だったから家族も似たような感じかと思っていたけど、私達が来るまでは静かなお城だったみたいだな。

『それでは参りましょうか』

侍従長と一緒に王様の自室へと向かった。

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