第35話刹那Ⅱ

あの後も暫くは皆で話をしていた。

正直ドレスが意外と苦しかったから早く脱ぎたかったけれど、私が眠っている間にあったことを話してもらっていた。

私がなかなか目を覚まさないから、ウルフがイライラしだして捕まえた刺客を拷問に近いくらいの脅しをかけ知っている事を全て吐かせた事。

刺客は今も地下牢に入ってはいるけれど、敵を誤魔化しつつこっちに協力させているらしい。

それでも暫くはイライラは治まらずに、狼の姿になって四六時中遠吠えをしだしたから怒った王様にゲンコツをもらった事。

それで治まったみたい。さすがは王様。

でも、そんなに心配かけていたんだな…。

ノエルも心配し過ぎて夜中に泣き出し、毎日王様と寝ていたらしい。王様はとってもご機嫌だった。

しゅうさんといなりちゃんは刺客から得た情報を元に戦略を考え、ウルフを交えて訓練をしていた。

王様の力も借りて異世界の予言者と連絡を取り、情報交換をしたり助言を求めたりしていた。殆ど寝ないで色々と準備をしていてくれたらしい。

私の覚醒とノエルの覚醒の事も聞いてくれたらしい。

元から魔力のない人間が覚醒するのは、妖怪が家来になって尚且つ何かしらの特別な感情が無いと同じ姿での覚醒はないらしい。

私が一人で覚醒したのは、やっぱり力のコントロールが出来ていなかったことと、私だけあの時強い感情を何かしら持ったからじゃないかと言われた。

確かにあの時、影武者の人に何かあったらと言う気持ちの他にウルフに何かあったら…と言う感情も強かった。だから私だけ覚醒してしまったのかも。

性格が変わってしまったのは、元々持っていた性格で力が暴走した事で表面に出てきたらしいとのこと。

日頃から抑えつけられた生活をしていたら、力が解放された時に違う人格が出てくる事があるそうだ。

あんな性格が自分の中にあったなんて、全く知らなかったから正直ちょっとショックだった。

全ての感情を捨てたかのように冷たい性格で怖かったけれど、あれはあれでクールな上に色っぽくて格好良くて好きだったのにな、と柊さんは言っていた。

ノエルの覚醒は、私とウルフの絆がお互いを思う恋愛感情で強くなったのに対して同じ感情でも友情とか家族愛で強くなると。

ただ、まだちゃんと覚醒しないのは私とノエルだけの感情なのか他の人との感情も必要なのかがはっきりしないかららしい。

更に、元々魔力のある種族だからそれが邪魔になってしまっていることもあるみたいだ。

さすがの予言者もノエルの覚醒するきっかけまでは確定出来ないみたいだ。

そして、ノエルの力は強いからそう何回も覚醒するものでもないみたい。あまりにも何回も覚醒してしまったら、寿命が短くなるから気を付けよ、と言われたようだ。

一度覚醒すれば後は絆がしっかり出来ていれば本当に力が必要な時に覚醒出来るそう。

ノエルの場合は、訓練だなんだより皆と楽しく過ごしていれば絆も強くなって必要な時に覚醒するんだろうな。


七日ぶりに目覚めて皆と過ごせたのは、凄く楽しくて嬉しかった。ただ、七日分の情報量が多過ぎて頭がパンクしそうだ。

長時間話していたから、ずっと寝てたとはいえさすがに疲れてちょっと眠くなってきてしまった。

でも、まだ全然ウルフと話を出来ていない…。

ようやく目が覚めてウルフに会えたのに。

ウルフは七日間、私の寝顔を見ていたんだな。そう考えるとなんだか恥ずかしかった。


ウルフともっと話したい…


ウルフにもっと触れたい…


ウルフもずっとこんな感じで待っていてくれたのかな?

私とウルフは人と妖怪だけれど、こんなに大切で離れたくないと思った相手は初めてだ。

前にウルフは昔も大切な存在の人がいたと話してくれた事があった。

それを思い出すと、なんだか胸が苦しい。私は過去の人に嫉妬している…。

今は私の方がウルフの中で存在が大きくなっていたらいいな。

人と妖怪では幸せになれないのかもしれない…。

でも今はそんな事、考えたくない。

今はただ、ウルフに会ってウルフに触れたい。

切なすぎて泣きそうだった。


コンコン


いつもと違うノックの音。

こんな時間に誰?

なるべく物音をたてずにドアに近付いた。

ドアの向こうから

『こんな時間にすまん』と小声でウルフの声が聞こえてきた。

いつもは柊さんに、知っている声でもドアを開ける時は警戒しろと言われていたけれど、この時はそんなことも忘れてウルフの声が嬉しくて躊躇う事なく勢い良くドアを開けた。

『ドアを開ける時は警戒せぇて柊に散々言われとるん、寝てる間に忘れてしまったんか?』

ウルフが苦笑いしてドアの前に立っていた。

私は嬉しすぎてウルフに抱きついた。

ウルフはビックリしていたけれど、頭をよしよしと撫でて『とりあえず部屋に入ってもえぇかな?』と聞いてきた。

二人で隣同士でソファに座った。今更なのに凄くドキドキしている。

ウルフに会いたかったくせに、緊張して顔も見れなく何を話していいかもわからなくなった。

『遅くなって悪かったな。王様を部屋まで送って行ったらそのまま王様に捕まってもうて、男同士飲もうじゃないかって離してくれんくてな。王様がだいぶ酔ってきたところで柊がこっちは俺がみてるからエリのとこに行ってやれって』

柊さんに気を使われてしまった。

『寝てたらどうしよて思てめっちゃ焦ってんで。でも起きててくれて良かったわ。疲れてるのにありがとな』そう言ってウルフは私を抱き締めてきた。

『めっちゃ会いたかってん。エリにめっちゃ触れたかってんよ』

『私も同じだよ。めちゃくちゃウルフに会いたかったしウルフに触れたかった…』

ウルフの体が離れたと思ったら、そのままキスをされた。

『エリ、もっとしてもえぇか?』

『うん…』私は恥ずかしくて下を向いて返事をしたらウルフに顎を持たれて上を向かされ、そのまままたキスをされた。

『今夜はこのままエリの部屋で寝てもえぇか?もっとエリと一緒に居たいねん。駄目か?』

緊張で心臓が飛び出そうになっていたけれど頑張って返事をした。

『私ももっと一緒にいたい…』

そう言うとウルフは私をお姫様抱っこをしてベッドに連れて行った…。





何かの気配がして、目が覚めた。

隣ではウルフが気持ちよさそうに眠っている。ウルフの腕の中は凄く安心する。

幸せを感じてまたウトウトし始めていたら、微かに誰かの声が聞こえてきた。

私はウルフを起こさないようにベッドから抜けだしカーディガンを羽織った。

ベッドのカーテンを開けて部屋の真ん中に行くと、ぼんやりと何かがいる気配がした。

慌ててウルフを起こしに行こうと静かに後退りしようとしていたら

『お前達を巻き込んでしまって申し訳ない…。わらわには止めることが出来なかった…。気をつけよ…。奴が動き出す…。必ず奴を止めておくれ…。愛しい我が…』

最後の言葉は聞き取れずにその何かの気配は消えてしまった。

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