第34話刹那Ⅰ
結局、ノエルに久々なんだから可愛くしなさいと言われ、あれこれ洋服を用意され外にいるウルフにイブを呼びに行かせ着替えを手伝ってもらう羽目になっていた…。
イブも乗り気で、久しぶりですから可愛いに大人っぽさも足しましょうと張り切りだした。
最終的に料理が運ばれて来るまでずっと脱いでは着て…を何回も繰り返していた。
その間、ずっと男性陣は部屋の前で待機中。
七日ぶりに目が覚めたのにいきなり申し訳ないことをしたなって思う。
用意が出来たところで、料理の準備も出来、ようやく呼びに行ったら何故か部屋の前に王様も一緒に座り込んで待っていた。
私もノエルもイブもかなり驚いた。イブに至っては驚きのあまり、こんなところで何、されているんですか!と王様を怒ってしまっていた。
我に返ったイブは頭が床に着くんじゃないかと思うくらい深く頭を下げていた。
王様は怒られた事は何も気にしておらず
『最近はずっと城の中が賑やかで本当に嬉しいよ。久しぶりにノエルの笑い声を聞けたし、やっと親子として過ごせる時間も増えてきたんだ』と嬉しそう。
イブに怒られた事も嬉しかったらしい。
王になると怒ってくれる人がいないから嬉しいそうだ。
王様も一緒に食べたいと言い出したので、急遽王様の分の料理を運んでもらったり椅子も持ってきてもらっりとバタバタしていた。
その間にウルフが私の姿を見て『めっちゃ似合ってるやん。こんなに綺麗なん、出来れば誰にも見せたなかったなぁ』と耳元で囁いてきた。私はきっとまた恥ずかしさで顔が赤くなっていると思う。
私達の様子に気付いたノエルが頑張ったわよと言いたげに腰に手を当て胸を反らしている。
全ての準備が整ったところで王様から椅子に座り順番に皆座った。
『急に邪魔して悪かったね。エリさんがようやく目を覚ましたと聞いたから元気な姿を見たくてね。それにしても随分綺麗にしてもらったね。凄く大人っぽく見えるよ』
王様も誉めてくれた。でも言われ慣れてないから誰に言われても恥ずかしいな。
『ありがとう御座います。ノエルとイブが手伝ってくれました。着慣れてないのでちょっと恥ずかしいです』
そう、パーティーに行くようなドレスではないけれどそこそこ胸元が開いてて体のラインも割と分かってしまうドレスだ。
ドレスを着る日なんて来るんだろうかと思っていたのに、こんなに早くに着ることになるとは思わなかった…。
『意外と似合っているからいいじゃん』
私以外の人達には通じないので皆は不思議な顔をしていたけれど、説明する気はなかったので柊さんを無視した。
『さぁ、そろそろ食べようか』
王様が皆の顔を見回した。
私のは、消化の良い物と言う事でコーンスープみたいな物と柔らかいパン。
パンを少しスープに漬けて食べると美味しいらしい。食べやすいそうなのでスープに漬けて食べてみる事にした。
パンにスープが染み込んで凄く美味しい。それに更に柔らかくなるからとっても食べやすい。
皆のメニューは、私がようやく目覚めたお祝いと言う事でちょっと豪華らしい。
大勢で食べるご飯は楽しくていいなと思っていたら『こうやって大勢で食べるご飯も楽しくていいな。この幸せな時間がずっと続けばいいのにと願ってしまうよ…。事が片付いたら皆は自分の世界に戻ってしまうかもしれないのにね』
と王様がちょっと涙ぐんでいた。
部屋の雰囲気がちょっとしんみりしてしまった。
『今からそんな事を仰っていても仕方ないですわ。いつ敵が来るのか分からないんですよね?明日かもしれないし、何日後か何年後かもしれませんわ。もしかしたら何十年後かもしれないですわよね?それまでそんなにしんみりと過ごすおつもりですか?』
イブは皆のお皿を片付けてデザートの用意をしながらそう言った。
『そうよ。私だってずっと皆と一緒にいたいと思うわよ。でもそもそも皆とは住む世界が違っていて、こうやって出会えて一緒にいられる事は奇跡なんだと思うわ。いつまで一緒にいられるのか分からないなら、一緒にいる時間を大事にしたいの。だからエリがこのまま目を覚まさなかったら…て考えたら怖くてたまらなかったわ。大切な人が急にいなくなる事ほど辛い事はないもの…だから全部終わったらエリにはちゃんとお家に帰って欲しいわ。お父様とお母様が待ってるのよね?』
そうだね…。私のお父さんやお母さんは元気なんだろうか?急に私がいなくなって凄く心配しているんだろうな。
『今、大事なのはちゃんとご飯を食べて怪我も病気もなく過ごすことだよ。ちゃんと元気な姿で家に帰るのが一番の親孝行だよ』
柊さんがまともな事を言った。
確かに家に帰れても怪我や病気をしていたら両親に心配をかけてしまう。
なら、今この世界で無事に過ごすことを考えよう。
そしてどうやって皆で幸せな結末にするかも…。
『オレは出来ればこのままこの国に残りたいな。前の国は争いばっかやったからもう嫌やねん…。いなりは自分の国て覚えてるんか?』
『わかんない…小さい時にお母さんに抱っこしてもらったりお父さんにあやしてもらってたのを微かに覚えてるだけ~』
『すまん、聞かん方が良かったか?』
『昔過ぎて覚えてないだけだよ~。ウルフだって親とか覚えてないでしょ~?』
『せやな。昔過ぎて親の記憶皆無やわ。大体、オレは昔の記憶があんまないねん』
妖怪だから昔の記憶が無くても平気なのかな?
『柊はどない?』柊さんも自分の過去を話さないから謎だらけだ。
『聞いても面白くないよ?俺も自分の親の記憶なんて無いぜ』
過去に何かあったような感じはしていたけれど、まさか親がいないなんて…。
『でもさ、過去なんて大して重要でもないんじゃないか?過去よりも今、次に未来の方が大事だと俺は思うけどね』
過去を引きずっていたって今が無いと未来に繋がらないし、未来もこないじゃんと柊さんは言っていた。
確かに過去を大事にしていたって過去は変えられない。でも今を頑張ることで未来はどんな方向にでも広がっていく。
今も予知夢と少しずつズレてきているらしい。
私達の幸せな未来はこれから作られる。だったら理想の未来にするために、今を精一杯頑張るしかない。
皆デザートまで食べ終え紅茶を飲んでいた。
おもむろに王様が
『この国にいる間は、皆僕のことをお父さんと思ってくれていいんだよ!さぁ、誰か僕の胸に飛び込んで来い!』いきなりそんな事を言い出したから皆呆気にとられていた。
『お父様?急に何?』
『変なことかい?ご両親と離れ離れになったり覚えてなかったりと淋しいんじゃないかと思って。だったら僕が父親役をしたらどうかなと思ったんだけど、駄目だったかい?』
『お気持ちだけ受け取っておきます』
柊さんは大人な返事。
『僕は今更いらないよ~』
いなりちゃんは明るく拒否。
『まぁ、僕もいきなりこんなに大きい子供が出来たら困るから良かったよ』
王様は断られてほっとしていた。
『そのうち嫌でもノエルの婿が来て息子が出来るのかなと思ったら悲しくなっちゃってね』
『気が早いわよ!結婚どころか恋愛もしたことないからどういうものかも分からないのに…』
『まぁ、焦らなくていいよ。全て終わったら暫くはノエルとの時間を大事にしたいし。まだお父さんだけのノエルでいておくれ』
結局、王様の娘溺愛ぶりを見せられて夕食の時間は終わった。
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