第33話刺客Ⅱ

気が付いたら刺客は後ろ手で縛られ、逃げられないように足枷も着けられていた。

『エリ、大丈夫か?』

茫然自失していた私は、ウルフに後ろから抱き締められて支えられて立っている状態だった。

『エリ…、さっきはどうしちゃったの?』ノエルは物凄い心配した顔をしている。

『ひとまず刺客は魔力の届かない地下牢に入れておけ。絶対に逃亡と自害は避けよ』王様が衛兵達に命令した。

『はっ!』衛兵達は返事をして一礼をし、刺客を連れて先に城内に戻って行った。

『エリちゃん、本当に大丈夫かい?』柊さんも心配している。いなりちゃんは怖がっているのか、柊さんの足下に隠れて私の様子を伺っていた。

私は皆を見回して、そして何故か涙が出てきた。

さっきの覚醒は自我はあるのに、自分の意志で体を動かす事が出来なくなっていた。ちゃんと意識はあったから、自分が何をして何を言っているのか、はっきりと覚えている。

でも、何故あんな風になったのかは分からない。

いくら影武者でも傷つけさせたくないと思った瞬間、光もせずに覚醒した。

その途端、自分で動く事は出来なくなっていた。

それに、ウルフは覚醒していなかった…。

頭が混乱してきて、涙も止まらず私はそのままウルフの腕の中で意識を失った。





気が付いた時、外は薄暗くなっていた。

オレンジ色に染まった綺麗な夕日が見える。

『目が覚めたか?エリ』

ベッドの横の椅子にウルフが座っていた。

『あの後からずっと眠ったままやったんやで』ウルフはベッド脇に座り、私を愛おしそうに見つめて頬を優しく撫でた。

『そんでな?実はあれからもう七日近く経ってんねんで』

え?七日?

七日近くも眠りっぱなしだったの?

私は驚きのあまり飛び起きた。

『うわっ!』頬を触っていたウルフがビックリして叫んだ。

私にはついさっきの出来事だと思っていたのに、そんなに長く眠ってしまっていたのか…。

『大丈夫か、エリ?無理せんでえぇよ?』心配してくれるウルフの存在が嬉しくて、私はウルフにギュッと抱きついた。ウルフも優しく抱き締め返してくれた。

『お帰り、エリ。ずっと淋しかったで』

ウルフは少し強めに抱き締めてきた。

『ただいま。待っててくれてありがとう』

暫くの間、ウルフと抱き合っていた。

段々、頭が正気に戻ってきたらウルフに抱きついているのが物凄く恥ずかしくなり、ウルフから体を離したところでウルフと目が合った。

きっと私の顔は凄く赤くなっていただろう。

そのまま暫く見つめ合ったと思ったら、ウルフの顔がゆっくりと近付いてきた。

え?まさかキスされる…。

そのまま大人しく受け入れようとしていたら、直前で思い切りよく部屋のドアが開いた。

『エリ~!』

声と共にノエルといなりちゃんが部屋に入ってきた。

部屋の中は壁はなく、ベッドはカーテンが付いてはいるけれど閉めてはいないか丸見え状態だ。

私とウルフは慌てて離れたけれど、ノエルといなりちゃんの後ろから入ってきたしゅうさんとイブに

『だからもうちょっと待てって言ったじゃんか』

『そうですわよ、ノエル様。少しはお二人の時間を作ってあげてくださいと言いましたよね?それにお部屋に入る時は必ずノックしてくださいと、いつも言ってますわよね?』

としっかり見られていたようだった。

フォローされるのも恥ずかしい…。

『え~?別にエリの部屋だもん、いいじゃない?』

『誰の部屋だろうがいきなり入るのは失礼なんだよ。もし俺の部屋にいきなり入ってきて俺が全裸で着替えてたらどうする?』

『ちょっと見たくはないかも…』

『いなりも!わかったか? 』

『ごめんなさい…』

二人共怒られて大人しくなっている。

『ウルフ、良いところで邪魔して本当に悪かったな』でも柊さんの顔はニヤついている。

『ほんまに悪かったと思ってるんか?わざと二人をけしかけたりしてへんやろな?』

いいところを邪魔されて、ちょっとウルフはご機嫌斜めだ。

私はちょっと残念だったような安心したような半々の気持ち。

『でも、目を覚まされて本当に良かったですわ。王様もかなり心配されていましたし。目を覚まされたご報告ついでにお食事のご用意もしてきますわね。エリ様は暫く食べていらっしゃらなかったので、消化の良い物をご用意して参ります。皆様もこちらでご一緒に召し上がられますよね?』

『もちろんよ!エリがいなくて淋しかったもの』

『そうだね。報告も沢山あるし。エリちゃんが眠っている間、ウルフが荒れて大変だったんだよ?』

城が壊されるんじゃないかって皆、心配してたくらいよとノエルと柊さんが笑っている。

『エリ…。もう大丈夫なの?』

いなりちゃんはまだ警戒しているのか、ちょっと離れたところにいる。

『いなりちゃん、ごめんね。もう大丈夫だから。本当に皆、迷惑かけてごめんなさい』

『誰も迷惑なんて思ってないから大丈夫だって。慣れるまでは力が暴走することもよくあることなんだぜ。皆、訓練して使いこなしていくんだよ。俺もエリちゃんが眠っている間にだいぶウルフを使いこなせるようになったんだ』

そう言って柊さんは私の頭をくしゃくしゃっとなでた。

『オレは柊に使われてなんかないわ!』

そう言いつつウルフはさり気なく柊さんの手を私の頭から下ろした。

そういうのは相変わらずヤキモチ妬くんだ。

二人のやりとりが面白くて笑って見ていたら

『本当に目が覚めて良かった。エリも元気そうだし。お父様の怪我ももうちゃんと治ったからね。とりあえず、エリは着替えた方がいいんじゃないかしら?』

そうだった。ずっと寝ていたからパジャマ姿だったんだ。

パジャマ姿?

パジャマって確か薄いよね?

その状態で私はウルフに抱きついてしまっていたのか?今、思い出すとめちゃくちゃ恥ずかしい…。

思い出して恥ずかしくなり、私は顔を両手で覆っていた。それを見た柊さんが

『エリちゃん、もしかして今頃恥ずかしい気持ちとか出てきた?きっとエリちゃんは自分で気付いてないだけで、意外と大胆なんだと思うよ?』とからかってきた。

じゃなきゃねぇ?と意味深な事を言ってくる柊さんに

『何、アホなこと言うてんねん。オレら男共はちょっ部屋の外で待ってんからエリ、着替え済ませぇよ。悪いけどノエル、手伝ってやってくれんか?』

そう言ってウルフは柊さんといなりちゃんを連れて部屋から出て行った。

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