第32話刺客Ⅰ

『準備は出来た?』

一応、ノエルも動きやすい格好に着替えてきていた。その服装も王女様らしくなんだか可愛い服だった。

『別に動きやすい服に着替えるだけだったけどね』

『でも、その格好凄く似合っているわよ』

私の格好を見てノエルは凄く嬉しそうだ。私の格好は衛兵に近い感じのパンツスタイル。

ウルフとしゅうさんも意外と似合っている。

しかも二人共、腰に剣を差しているし、背も高いから本物の騎士みたい。

つい二人に見入っていたら柊さんが視線に気付いたのか近寄って来て『惚れた?』と聞いてきた。

『見た目は王子様みたいで格好良いけど、性格はないわね』代わりにノエルが答えた。

『しゅ~う~』そこにいなりちゃんが戻って来た。

『お帰り、いなり。遅かったな』柊さんはしゃがんでいなりちゃんの頭を撫でた。

『うん。あのね~、なんとなく変な行動だなぁて人いたよ~。後つけてたらお城の中入り組んでたから途中で迷子になっちゃったの~。遅くなってごめんなさい~』

いなりちゃんはちょっとシュンとしている。

『ありがとな、いなり。まだ手合わせも始まっていないから大丈夫だよ。ちょっと休憩して何か飲むか?テントの下に沢山飲み物があるから』

そう言って二人はテントの下に行った。

『やっぱり柊の予想通り、行動起こしだしたみたいね』ノエルは楽しそう。

『ねぇ、ノエル?この作戦って、さっき王様の部屋にいた時の柊さんと王様の会話だけで柊さんの意図が分かったの?』 刺客がいるかもしれないから私は小声で聞いてみた。

『そうね。大体の事は分かったわ』さらっと答えた。

『あの短時間で?』

『そうよ。参謀って短時間に色んな戦略を考えたり瞬時に相手の考えを読み取ったりしなきゃいけないのよ』

『かなり頭を働かせるのね。でも、もうそんなことが出来るなんてノエルは参謀になれるんじゃない?』

ノエルは照れてはいるけれど『私なんてまだまだよ』と謙遜していた。

私からしたら十分な気もするけれど、勉強をしているノエルからしたらやっぱり柊さんは段違いに凄いんだろうか。

私は覚醒はしたけれど、今のところ役に立てそうな力はまだない。

この手合わせで何かを掴めたらいいんだけど…。

『緊張してんのか?』

ウルフも私達のところにやって来た。

『そうだね…。とりあえず柊さんの予想通りに進んでいるみたいだね』

『せやな。来るなら来るでさっさと捕まえたいわ。折角、王様と手合わせ出来んのに時間が勿体ないわ~』

ウルフには刺客を捕まえるよりも王様との手合わせの方が相当楽しみみたいだけれど、王様はあの怪我でどこまで出来るのだろうか。

柊さんには皆でテントに入ってしまうのは避けるように言われているから、私とノエルとウルフはちょっとテントから離れた場所にいた。

そこにいきなり『初めまして。今日はよろしくお願いいます』と挨拶に来た人がいた。

なんだか聞いた事がある声だなと思ったら、帽子を目深に被った王様だった。

『おう…あっ!初めまして。今日はよろしくお願いします』思わず王様って言いそうになったのを慌てて押さえてお辞儀をした。

刺客がどこで見ているのか分からないから初対面らしく振る舞おうとして逆に私とウルフはかなりぎこちなくなってしまった。

余計にばれてしまいそうな態度なのを見てノエルが機転を効かせてくれた。

『二人共、緊張してるんでしょ~。まぁ、ちゃんと覚醒しないと王様に怒られるものね。王様って一見、弱そうだし王様の威厳ってなさそうに見えるけどでも、怒るとめちゃくちゃ怖いわよ』

ノエルはここぞとばかりに言いたい放題。

王様は苦笑いをしていた。

『ノエル様から見た王様はそんなイメージなんですか?』

王様もノエルに合わせて会話をしだした。

『そうね。特に私の前では他の者に対してやたら偉そうにしているイメージしかないわよ』

『それはたぶん、ノエル様には王様である前に父親としても格好良いところを見せたいのでは?』

王様…、格好つけたかったですね。

『ふん。お父様もバカみたい』そう言ったノエルはちょっと嬉しそうでもあった。

『そろそろ手合わせ始めますか~』柊さんが叫んだ。 私達はテントの前に移動した。

『王様。準備がお済みでしたらこちらにお願い致します』

テントの奥まで入っていたら顔までは見えないな。

柊さんといなりちゃんがテントの端の方で王様の影武者が出てくるのを待っている。私達はテントの前で待っていた。

テントから出てきた影武者の後ろから、柊さんといなりちゃんが一歩下がって歩いていた。

完全にテントの前まで出てきた時に柊さんといなりちゃんはわざとちょっと距離を空けて待機した。

もちろん敵が狙いやすくする為に。

これって自分の腕に相当自信があるか、何かあった時に仲間が動いてくれるって信頼関係がないと出来ないんだろうなと思った。

柊さんはどっちなんだろう…。

なんて考えていたら、どこからか『王様、覚悟!』と大声で叫び走り出して来た者がいた。剣先を王様の影武者に向けて走って来ている。

ノエルは本物の王様を隠すように前に立ち更にその前に二人を隠すようにウルフが立った。

私は考えるよりも、そして他の人達よりも早く走り出し、刺客と影武者の間に割り込んだ。


ガキーン!


剣同士が火花を散らしてぶつかり、重たい音が周りに鳴り響いた。

相手の剣はかなり重い。

それもそのはず。相手の刺客は私よりも背が高く体格もガッシリとしている。

ウルフと柊さんは剣に手を当ていつでも参加出来る体制になった。

いなりちゃんも戦闘モードになったのがオーラで分かった。

押し負けてなるもんか!と耐えていると

『この小娘が!邪魔をするな!』と刺客が叫んだ。

さらに『女のくせに剣とか生意気な!大人しく家の中にいれないならお前ごと王を叩き切ってやるまでだ!』

とさら更に力を入れて押してきた。

上からの重い剣に私は転びそうになった。

でも、いくら影武者でも切らせてやるもんか!傷一つつけさせたくはない!

何より刺客の言葉に腹が立って剣を持つ手に力を入れた瞬間、光ることなく私の体は耳と尻尾が生え覚醒した姿になった。

いきなり私に耳と尻尾が生えたのを見て刺客が驚いて一瞬怯んで力が弱くなった。

私はそれを見逃さず、一気に下から力を入れて刺客の剣を押し上げた。

まさか押されるとは思っていなかった刺客は手に力が入らず、私はそのまま刺客の剣を自分の剣で弾き飛ばした。


カシャーン


刺客の剣が飛んだ瞬間『うわっ~!』と刺客はバランスを崩して後ろに転がり倒れた。

私は仰向けに倒れた刺客の左横に行き、右足で胸を踏みつけ喉元に剣先を突きつけた。

どうやら刺客は力は強いけれど、剣が強いようではなかったようだ。

『うわっ…まっ、待ってくれ!こ、殺さないでくれっ!』刺客は叫んだ。


後で皆に聞いたけれど、この時の私は半分、我を忘れていたようで人格もちょっと違ったようだ。


刺客の言葉はあまり頭に入ってはこなかった。

剣先を刺客の喉元に当て少し血が出た。

『殺さないでくれ?王様を殺そうとしたくせに都合が良すぎるな。失敗したら殺されるのを覚悟で来たんじゃないのか?刺客とはそういうものだろう?』

私は剣先を喉元に当てたままで足を除けようとした瞬間、刺客は逃げだそうとした。

が、刺客は恐怖で足が震えて立てず後退りになった。私は逃がしはしまいと、素早く刺客に駆け寄った。

今度は剣を喉元に横向きに当て、刺客の顎を剣で軽く持ち上げ刺客の後頭部の髪を左手で掴みながらしゃがみ込み耳元で囁いた。

『私に負けて失敗したんだ。だから私に殺されても文句は言えないよな?なぁ、そうだろう?』

私はかなりな上から目線で、しかも妖艶に微笑んでいた。

左手は離して剣はそのままで立ち上がり剣に力を入れた瞬間、周囲にフワっと風が吹いた。風と共に私の殺気を感じたウルフが『エリ!』と大声で叫んだ。

その瞬間、私は我に返り後ろからウルフに抱き締められていた。

ウルフが叫んだと同時にその場にいた全員がはっ!と我に返り、柊さんと衛兵二人が刺客の元に駆け寄り取り押さえていた。

私は恐怖で青ざめている刺客を見下ろしていた…。

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