第30話芝居Ⅰ

『何か引っかかる事があるのかい?』

王様も真剣な顔になっていた。

『王様もある程度の事情を知っているという事でいいんですよね?』

『そうだね。皆がこの国に呼ばれて来た理由とか、ウルフ君といなり君が妖怪だとか知っているよ』

『では、ウルフ君がいきなりこの結界内に入れた理由はご存じですか?』

しゅうさんは単刀直入に王様に聞いた。

『あぁ、この結界の理由を知っているんだね。ウルフ君をこの世界に呼んだのは私ではないよ』

王様は仕事モードの笑顔になっていた。さっきとはうって変わってなんだか冷たい印象を受ける笑顔だ…。

『私が呼んだのでは?と思っていたんだろう?

でも、ノエルが巻き込まれないようにと何年も頑張っていた私がウルフ君を呼ぶ理由はない』

一気に王様のオーラが威圧的になった。さっきまでの娘を溺愛お父さんの雰囲気は一切なく、一国の王様の顔になっていた。

『残念だ。もっとノエルを抱っこしていたかったけれど、そうもいかなくなっちゃたね。悪いがノエル、皆と一緒にソファに座っておくれ』

ノエルには優しいお父さんの顔で話し掛けている。

この一瞬で雰囲気が変わることが怖い…。

ノエルも何かを感じたのか素直にソファに座った。

『さて。ここからは真面目に話をしようか』

そう言った王様の顔は本当にもう王様の顔だった。

『私は多少の事は知ってはいるけれど、残念ながら誰が後ろで糸を引いているのか、いつ敵が現れるのかとか詳しい事までは分からない。知っている事はウルフ君を飛ばした者は、結界内に直接飛ばしてきたという事から私と同じくらいの魔力かそれ以上の魔力の者だということくらいだ。そして異世界の術者なんだろう』

残念ながら敵について分かる事はまだ無いらしいが、王様は話しながら音をたてずに立ち上がり机から紙とペンを持ってきて何かを書き出した。

何故、いきなり筆談?

皆も話を聞きながら紙に何を書かれるのかを待っていた。

【城内にスパイ。情報が流れている可能性高い。君達がこの国に来てから妨害有り。U・Eをこの国に飛ばしたのは味方】

思いもよらない内容が書かれていた。

これを紙に書いたという事は、敵にスパイに気付いている事を知られたくないからだからだろう。

それにしてもUとFって…。いくら簡潔にと言っても凄い書き方だな。

更に王様は紙に【これから芝居をうつ。出来れば合わせて欲しい。たぶんこの部屋の話は聞かれてしまう】と書きだした。

こうなると皆、なかなか話せなくなりそうだ。

『ところで…。ウルフ君とエリさんは 力が覚醒すると聞いていたがその後はどうなんだい?』

『残念ながら、まだ覚醒にはいたりません』ウルフは王様の芝居に乗っかった。

『まだだと?』王様の怒りのオーラで部屋の空気がピリピリしている。

芝居のはずなのに王様からは、完全に暴君みたいな怖い雰囲気が醸しだされていた。

ちょっと怖くて更に発言するのが躊躇われる。

『さっさと覚醒するように。万が一ノエルを守れなかった場合はどうなるのか…。もちろん分かっているね?』

本当に王様は芝居なの?

『柊君といなり君は?

色々と旅をしていたみたいだからこの二人よりは役立つんだろうね?』

王様はニッコリと笑ったけれど、ノエルも驚くくらいただただ怖すぎる。

『大丈夫です。色んな国で勉強をして戦いも沢山経験してきたので』

柊さんもさらっと芝居に乗っかった。

いなりちゃんに至っては、たぶん私達よりもだいぶ年上のはずなのに、王様に圧倒されて少し震えているように見える。

私もなるべく発言しないようにしようと思った。

『ノエルも力がどうとか言われたけれど、無理に覚醒する必要はない。王女なんだから出来れば大人しく城の中にいてほしいものだ』

何回も言うけれど、本当に芝居だよね?王様の芝居はあまりにも自然すぎて、さっきまでの王様と今の王様はどっちが本心なのか迷いそうになる…。

『部屋や食事を提供するのは構わない。ただその分

もちろん覚醒出来るように特訓するんだろうな?必要ならばうちの優秀な衛兵を貸してやろう。王城付きの衛兵達は国内で一番強い軍隊だ』

『お心使い、ありがとう御座います。ですが覚醒に必要なのは残念ながら衛兵達ではありませんので、お気持ちだけで結構です』

負けじと柊さんもニッコリと強気な言い方で返事をした。

芝居とは言え、普段でも柊さんならこの王様と対等に渡り合えそうだ。

『一つお願いするとしたら特訓に王様もお付き合い頂けないでしょうか?是非、広くて見晴らしの良い庭とかで手合わせも出来たらお願い致します』

何故か柊さんは怪我をしている王様に手合わせのお願いをしだした。

が、柊さんも紙に何かを書きだした。

【攻撃は接近?怪我の具合は敵に知られている?スパイの目星は?】

その場を繋ぐ為にウルフまでが

『なんやねん、それ~。

柊だけずるいやんか!叶うならオレやって王様と手合わせしたねん!国内一の剣の使い手なんやろ?なんならエリもお願いしたったらえぇんちゃう?』

ウルフは芝居と言うよりただの自分の願望だろう。

その上、私に話を振ってくるとか…。勘弁してほしかった。

ウルフは芝居や嘘に向かない性格だなと思った。

『そんな!私なんて全然剣使えないから、手合わせなんて申し訳ないです…』

なんとか私とウルフで時間を稼いでいる間に、王様が柊さんの質問の答えを書き終えた。

【剣の接近、多少の怪我有りくらい、残念だが×】

さすがに簡潔だ。

『どうでしょう、王様?皆王様と手合わせしてみたいようです。もしかしたら手合わせで覚醒出来るかもしれませんしね?』

『仕方ない。そこまで言うなら手合わせしてやろう』

『ありがとう御座います。今日は天気も良いですし、綺麗で広い庭でするのは、やる気がでます』

【可能なら影武者を】

『わかった。手合わせの準備をしよう』

『お父様。天気が良すぎるのでテントが欲しいですわ。私は皆様の手合わせの見学をさせて頂きますわね。だって日に焼けたくはないですもの』

ノエルも芝居に乗ったかと思ったら、急に王女様風な話し方になった。

ノエルも向いてなさそう。

もしかしたら王様は、他国と仕事をする時にちょっと怖い感じでしている?

そうだとしたらこっちの王様も芝居ではなく本当の王様?

王様なのに芝居が上手いと思ったけれど、どっちも本当の王様なら普段から使い分けているってことだ。

さすがは王様。

これくらい出来ないと国を守ることが出来ないってことなのかもしれない。

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