第29話和解Ⅱ

『ノエルを泣かせたくはなかったのに、結果泣かせてしまったから先に怪我の原因を話そうか。そしたらノエルも落ち着いてくれるのかな?』

さっきからどう見てもノエルを溺愛しているお父さんって感じしかしない。王様の威厳は皆目ない…。

『いつもノエルには淋しい思いをさせて悪かったね。まだ10歳なのに国の事にも随分関わらせてしまって王女としての役割以上に負担も掛けてしまっていたね。でもお父さんは物凄く助かっているよ。ノエルが我が儘も言わずに他国の王族の相手をしてくれたり、馬鹿な大人達を叱ってくれたり。魔力の事でノエルには辛い思いもさせてしまっていたのに…。ノエルはお父さんには勿体ないくらい良い子だ』

暫くは王様のノエル自慢の話ししか出なさそうだ。

でもそれでノエルが王様への見方が変わってくれたら。ノエルもきちんと自分の気持ちを伝える気になってくれるといいな。

『我が儘を言わないからお父さんはノエルに随分甘えてしまっていたようだ』

『お父様が私に?』

『そうだね。ノエルは大丈夫なんだと思って殆どイブに任せっきりになってしまった。いくら王族とは言っても家族二人きりなんだから、もっと家族として一緒にいれば良かったと怪我をしてから思ったよ。ノエルには色々我慢もさせてしまっていたようだね』

王様はノエルの気持ちをちゃんと分かっている。それでもノエルにとっては冷たい態度だと思わせてしまう行動をとっていたってことだろうか?

『ノエルに怪我とかさせたくなくて、ノエルのやりたい事を殆ど駄目だとやらせてやらなかった。そしたらまさか参謀のとこに逃げ込んでいるとは思わなかったよ。

あの時は散々、侍従長に怒られたんだ。なんでもかんでも駄目だと言い過ぎですって。もっとノエルの気持ちを考えてあげてくださいと』

ずっと黙って話を聞いていた柊さんが『やるじゃん、侍従長さん』と誉めていた。

侍従長さんは返事の代わりにお辞儀をした。

『丁度、その時期くらいに予知夢を視てね。エリさんとウルフさんが来るのがわかったんだ。避けようと思っていた未来が徐々に近付いてきて、どうしてもノエルもその渦に巻き込まれて行くのを止めようとしていたんだが、止めることは出来なかった…』

王様の顔は子供を心配する親の顔になっていた。

『ノエルには怪我とかさせたくなくて、出来るだけ城の中にいさせようとしていたらいつの間にかイブを巻き込んで部屋を抜け出すようになっていたよ』

『ノエル様、そんなことしてたの?』

柊さんが驚いて目を見開いていた。

『ノエル、おてんばね~』

何故かいなりちゃんは喜んでいる。

『イブには本当に申し訳なかったね。でもいつもノエルの側にいて見守ってくれてありがとう。優秀過ぎるメイドがいると仕事に専念してしまうな』王様はクスッと笑った。

『勿体ないお言葉です。私こそノエル様にお仕え出来る事は何より幸せな事です』

ノエルは初めてイブの気持ちを聞いたみたいだ。折角泣きやんだのに、また泣きそうになっている。

『私だって!お父様がいなくてもイブがいれば平気だもの!』

ノエルはまだ意地を張って素直になれないでいる。

今更はやっぱり恥ずかしいのもあるのかも。

『お父さんはイブに負けてしまったね。もしかして父親としては失格なのかな?』

『私だって娘失格だわ…。お父様が怪我をした事、私に言えないなんて。私はそんなに頼りない?』ノエルは涙声だった。

王様はノエルをギュッと抱き締めて

『娘失格なわけないだろう。10歳にしては出来すぎる自慢の娘なのに。もっと自信を持っていいんだよ。本当に今まで沢山我慢させてしまってすまなかったな』

泣いてるノエルにつられて私も涙ぐんできてしまった。それに気付いたウルフが頭を優しく撫でてくれた。

『なんとか親子の和解が出来たようで本当に良かったです。ところで、水を差すようで本当に申し訳ないんですが、結局その怪我はどこで?』

この状況でそれを聞ける柊さんはさすがだとしか言いようがない。

『そうだったね。実は昨日の夕方くらいの事なんだけどね。柊君だったね。異空間を作って皆の実力を試したね?』

王様に知らない事はないんだろうか。

『君なら魔力の事も色々学んでいるかと思っていたけれどそうでもないのかな?』

王様の言葉に柊さんの顔が一瞬で強ばった。

『どういう意味でしょうか?』珍しく柊さんは警戒している。いなりちゃんも怖い顔になっていた。

『この国は私の結界で全て覆われている。その結界内で違う結界が張られたり、異空間を作られたらそれは私は感知出来るんだよ。だから柊君が異空間を作ったのを知っていたのさ』

『お父様、そんな事出来るの?』

ノエルの質問に王様は嬉しそう。

『そうだよ。結界内で違う結界を作るとそこだけ感知出来なくなるから、誰かが結界を張ったのがわかるんだ』

柊さんは感知されても誰がとまで分かるとは思っていなかったようだ。

『そうなんですね…。僕には魔力はないのでそんなに沢山の事は教わってこなかったんです。それに時間も無くなってしまったので』

『そうだったね。事態は予知夢と少しずつ変わってきているようだ。この世界に手を出そうとしている者がいる事は聞いたのかな?』

『はい。なんの目的でエリさんやウルフ君が飛ばされてきたのかは話してあります。色んな世界に妨害している存在がいる事も』

『そうか…。柊君はあらかた話を聞いているんだね。昨日、柊君が異空間を作った時にその妨害してきている何者かが刺客を送って来たようでね。同じタイミングで送れば感知出来ないと思ったようだ。刺客が来る事は分かってはいたんだがどこに出てくるかまでは分からなくて。まさかの仕事先に現れてね。大事な国民に怪我をさせるわけにはいかないから、頑張ったんだけどちょっと怪我をしてしまったよ』

国民が無事だったから良しとしよう、と王様は笑って誤魔化したけれどノエルの顔は怒っていた。

『なんかタイミングが良すぎる…』

柊さんは眉間に皺を寄せて何かを考えだした。

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