第27話誤解

ノエルの言い方がちょっときつめだったから皆、ビックリしてノエルを見た。

ウルフもようやく手を離し、柊さんといなりちゃんも静かになった。

『エリとウルフはラブラブだし、柊といなりも兄弟みたいに仲良しよね』

どうやらいなりちゃんよりノエルの方がヤキモチみたい。

そうだよね…。ノエルはまだ10歳だから親に甘えたい年頃のはずなのに、それを許される環境ではないから。

なんだか物凄くノエルに悪い事をした気分になった。

私はノエルのところに行きノエルを体ごと横に向かせて目の前の床に座った。

そしてノエルの両手を私の両手で優しく包み込み

『ノエル、ごめんね。淋しく感じちゃった?』

ノエルはちょっと拗ねた表情で顔を背けた。

『別に淋しくなんて思ってないわよ。皆、相手もいて覚醒も出来て良かったじゃない』

ノエルは顔を背けたまま答えた。誰が見ても拗ねてるのが分かる。

それを後ろで見ていたイブが『失礼致します、ノエル様』と言って私の隣に来て座り、私の手の上からノエルの手を一緒に包み込んだ。

『ノエル様、この際素直になってみましょう。王女様として毎日立派に公務を頑張ってお勉強も頑張っておられるのをノエル様付きの者は全員分かっております。まだ10歳で我が儘を言ったり親に甘えたり…、そういう普通の子供の行動を羨ましく思っておられるのも分かっておりますわ』

ノエルは顔を背けたまま大人しくイブの話を聞いている。

『でも私は、もうちょっとノエル様には我が儘に振る舞ってもらいたいと思う時もありますわ。理不尽な事を言い出す大人の横でいつもノエル様は誰よりも大人な対応、なさいますよね?それを見る度に私だけではなく他の者達も悲しかったのですわ。どうしてノエル様がそんな対応をされなきゃいけないのかと…。それはきっと王様も同じに思っておられますわ』

『お父様が?そんな訳ないわよ。いつも何でもかんでも反対されるのに。自分のやりたい事をやらせてもらえたのは、今エリやウルフと一緒に居ることと戦略の勉強だけだわ…』

イブの顔は悲しい表情になった。

ノエルはお父様が大好きだけれど、自分には厳しくて冷たいと感じている部分もあるようだ。でもそれは、一国の王という立場では仕方のない部分もあるんじゃないのかな?

本当は気持ちのすれ違いなだけなんじゃないかなって感じがする。

『ノエル様。王と言う立場ではおおっぴらに甘やかせてあげることは出来ないのですわ。過去にはそれで国が傾きかけた事があるそうです。本当は王様もノエル様を甘やかして育てていきたいのですわ。でもそれでは過去と同じ事が起こるかもしれないですし、周りの者への示しもつかないとお思いなんでしょう。ノエル様がお生まれになった日の事をはっきりと覚えております。王様は女の子がお生まれになって嬉しさで泣いておられました』

これは王様には内緒ですよ、とイブは自分の口に人差し指を当ててノエルにウインクをした。

『お父様が泣いたのを見た事があるのは、お母様が亡くなった時だけだわ。それ以外で泣くことなんて絶対ないと思っていた』

ノエルの王様に対する印象は家族にも冷たい人って感じなのかな?

『ノエルちゃんはずっと自分一人で気持ちを抱え込んでいたんか?誰にも話したりせんかったん?』

『いくら子供でも自分の立場はちゃんと分かっているわよ。私はお父様に我が儘を言ってもいい立場ではないわ。私の行動一つで、言動一つでお父様の評価も変わってしまうから』

ノエルは自分の気持ちよりも、王女としての立場を優先にしている。

聞いててなんだか私も悲しい気持ちになってきた。

いくら王女様と言っても、ここまで王女と言う立場を優先させなきゃいきないのか…。

『俺は色んな国を渡って色んな王族も見てきたけど、ただ子供の言うことを聞いて甘やかせればいいってもんではないんだよな。

それこそ、いいだけ甘やかされて育てられてきた王子様は他人を思いやる気持ちがわからない人に育ってしまった。国民に対してやりたい放題。最後には街を一つ焼き払ってしまったんだ。そしたらそこには病気療養に行っていた母親と、凄く可愛がっていた年の離れた妹がいてさ…。さすがに王様は激怒して親子の縁を切って国外追放したらしいよ。

他にも子供を甘やかして国費を使い込んだ王様がいた国とか。そういう国は反乱が起きたり王の暗殺があったりと絶対に何かしらの問題は起きる。それならまだしも、本当に国が滅んだとこもいくつかあるからな』

それは甘やかし方にも問題があったんだろう。

『ノエル様、この際王様に気持ちを伝えてみては如何でしょう?丁度、謁見の申し込みを先程させて頂きましたし。良い機会だと思いますわ』

イブは本当に王様とノエルがちゃんと分かりあえる事を望んでいるようだ。

たぶん、ずっと側で見てきたから気持ちのすれ違いに早くから気付いていたんだろう。

もう少しノエルが子供でいられる時間も作ってあげたいと思ったのかもしれない。



コンコンコン



ドアのノックの音がした。

またしても素早く柊さんといなりちゃんがドアの横に移動した。

『はい』イブが返事をしてドアを開けた。

そこには王様付きの侍従長が立っていた。

『イブ、王様から謁見の許可が出た。ノエル様を始め皆様のご用意が出来次第、王様の自室にお連れせよとのご伝言だ。もちろん、新しいお客様もご一緒にとのことだ』

『かしこまりました。早々に皆様のご用意を済ませてお連れいたします』

イブはそう返事をするとお辞儀をしてドアを閉めた。

『皆様、王様から謁見の許可が出ましたわ。さっそく謁見する為の準備をいたしましょう。もちろん柊様といなり様もご一緒に、とのことですわ』

やっぱり王様は二人が来る事も分かっていた可能性が高い…。

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