第26話確信Ⅱ
予想もしていなかった話しだったからどう返事をしていいのか少し迷っていた。
『急にこんな話しされても驚くだけよな。オレへの返事は今、言わんでもえぇんよ?』
私が直ぐに返事を出来なかったせいで、ウルフはちょっと落ち込んでいるように見えた。
『驚くに決まってるじゃない…』
ウルフの話が信じられなくて私は涙声で俯いたまま呟いた。
妖怪だとしても男の人に告白されたのは生まれて初めてだった。
どう話したらきちんと私の気持ちが伝わるだろうか。思っていることを素直に吐き出せばいいのかな?
『エリちゃんの顔を見ている限り、答えは出ているように見えるけど、何に迷っている?』
やっぱり
ノエルといなりちゃんとイブは私が何と答えるのか大人しく待ってくれている。
『どう話したらきちんと伝わるかなって…』
私は顔を上げて頑張ってウルフの顔を見た。
まだ恥ずかしい上に正直、嬉しかった気持ちもあってウルフの顔を見たらまた、涙が出てきた。
『なんや、まだ涙目なんか』そう言ってクスッと微笑んだウルフは、また右手の親指で優しく涙を拭ってくれた。
『ウルフ…』
その後がなかなか言葉が出てこない。
『ゆっくりでえぇって。ちゃんとエリの話し聞くから安心しぃ』
そう言って私の頭を軽く撫でてくれた。
どこまでも優しい。
ウルフはちゃんと気持ちを伝えてくれた。
なら、私もちゃんと気持ちを伝えなきゃ。
素直な気持ちを伝えるだけなのに、こんなにも緊張するものなのか。
何故ウルフは皆の前であんな風に話せたんだろう。
『ウルフ…、私ね…』
今度こそ勇気を出してきちんと伝えよう。
『私、柊さんやウルフが言っていた出会ってからの時間は関係ないこともあるって分かる気がする。私もそうかもしれないって思って…』
そこまで言って更に緊張してきた。
ウルフはまだ私の両手を握ったままだ。そのウルフの手に少し力が入った。
もうちょっと頑張らなければ。
『ウルフといると今まで感じた事のない気持ちになるの。ウルフに触れられるとドキドキして顔も赤くなって、どうしていいのか分からなくなって…。
ウルフが怪我をすると物凄く胸が苦しくて、相手が憎くて我を忘れそうになる。優しく笑ってくる度に胸が締め付けられたみたいにギュッて苦しくなって、誰にも見せたくないって…ウルフを一人占め出来たらって…思ったり…』
涙が止まらなくて話が途中で途切れてしまった。
『エリ…、それはオレが好きやって事でえぇんかな?』
『うん…。私も妖怪だったら良かったなって思ったりするよ。そうしたらこの先もウルフと長く一緒にいられたのかなって…』
ノエルは私の話を聞いて物凄く驚いたようだ。
『エリ…』
ノエルが話そうとした途端、私とウルフは一瞬全身が光った。
さっきとは違って、本当に一瞬で私とウルフの姿は耳付き・尻尾付きの覚醒後の姿になった。
『え?なんでまた覚醒したの?』
予想外の覚醒にビックリして思わず立ち上がって自分の姿を見回した。それでもウルフはまだ私の両手を離さなかった。
『さっきより光時間が短くなったね』
柊さんは相変わらず余裕だ。
『もしかして…ウルフとエリが両思いになったから?気持ちを伝えあったから覚醒までが早くなったなんてあるの?』
『お!ノエル様、正解!気持ちを言い合ってお互いを更に知ったから、二人の絆が強くなって覚醒も一瞬になったんだよ』
え?お互いを思う気持ちで覚醒するってこと?
『相手を大切に思う事は、相手の気持ちを考えて行動することでもあるじゃない?相手を信じていないと大切にも思えないし、相手のことを考えて行動も出来ないよね。相手を信じるのに気持ちを知るって大事な事なんだよ』
気持ちが通じ合ったから絆が強くなったとしても、じゃあどのタイミングで覚醒する事が出来るのか?
そこはまだ分かっていないままだ。
『覚醒しやすくなったとしても、どうなったら覚醒のタイミングになるの?』
ノエルは自分がまだ覚醒しきれていないからか、かなり気になるらしい。
『そうだなぁ。エリちゃんとウルフの場合は今のでもうしっかり覚醒出来るようになったから、二人で望んだ時に覚醒する事が出来ると思うよ』
という事は必要な時に直ぐに覚醒出来るようになったってことかな。
ただ、覚醒出来るようになってもどのくらい力が強くなっているのかは実際に戦ってみないと分からないままだ。
『そこは二人の気持ちの強さで変わってくると思うよ。思いが強ければ強いほど相手を守りたいって思うから力も強くなる』強さでどのくらい好きなのか分かっちゃうかもね、と柊さんはからかってきた。
『エリとウルフ凄いね~。僕と柊の絆ってなんだろう~?僕は姿変わらないから絆、ないのかな~』
つまんない~と言いながらもいなりちゃんは楽しそうだった。
『絆を強くする思いはそれぞれで違うよ。俺といなりの場合は信頼関係の強さかな』
柊さんは苦笑いで答えた。
『いなりに信頼ないと俺の背中、預けられないだろ?それに、いなりは戦っている時は狐の姿にもなるし。今の状態と違う姿になるのは俺と一緒にいるようになってからだし、最初の頃より格段に強くなっているだろ?』
ヤキモチか?と柊さんはいなりちゃんの頭をわしゃわしゃっと撫でた。
いなりちゃんは物凄く喜んだ。凄く楽しそう。
『大体、戦いの最中に狐になったり今の姿になったり人の姿になったり…。俺に言われなくても自在に姿変えられる癖に絆がないとかつまんないとか、本当は思ってないだろ?』
柊さんはムニッといなりちゃんの両頬を軽く引っ張った。
『思ってにゃいにょ~。柊がどう思っているにょか聞いてみたかったにょ~』
柊さんがずっといなりちゃんの頬を引っ張ったりムニムニしたりしているからいなりちゃんの話し方がより可愛くなった。
これでも、ウルフよりもずっと年上かもしれないって信じられないな。でも、自在に姿を変えられるって本当にいなりちゃんは強いんだなって思った。
『エリとウルフを見ていて羨ましくなったんだよね?』
途中からずっと黙っていたノエルがいなりちゃんに聞いた。
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