第25話確信Ⅰ

『え?分からないものなの?』ノエルは驚いていたけれど何がきっかけだったのか私にもさっぱり分からない。

『エリ様、覚醒されたんですか?』片付けをしていたイブも聞いてきた。

『そうなんだけど、急に光りだしたから私にも何がきっかけだったのかさっぱり…』

私とウルフが考え込んでいると

『ところでさ、覚醒する 前にウルフはエリちゃんになんて言おうとしていたんだ?』しゅうさんが聞いてきた。

『覚醒する前?何やったかなぁ?』

ウルフは覚えていないのか忘れたふりをしているのか。会話が途中だったのは私も覚えているけれど。

『なんだよ。二人共覚えてないのかよ!』

柊さんはちょっと呆れているっぽかった。

『柊は覚えているの?』

『覚醒する条件はさっきも言っただろ?それで思い当たること、本当にウルフにはないのか?』

柊さんはウルフと私の反応を見て楽しんでいた。

『覚醒する条件…確か絆の強さだったわよね。エリとウルフの会話で絆が強くなったってこと?』

『ノエル様、ちょっとおしいな。エリちゃんとウルフの場合は会話と言うよりも…』

柊さんは途中で言葉を止めた。

『会話…。オレの…をエリに伝えよう…と…』

ウルフが何か小声で言っているけれど、はっきりとは聞こえなかった。

『何か気付けたか?』

柊さんは何かに気付いたみたいだけど、決して全部は言ってくれない。

『会話以外で絆が強くなるってどういうことなの?』

ノエルは全然、分かっていないみたい。

『ノエル様にはまだちょっと早いかもな。でも、エリちゃんとノエル様の絆を強くするものも同じと言えば同じと思うんだけどね』

柊さんは一人、何もかも分かった風な余裕を見せる。

『柊様なりの思いやりでしょうか?』

黙って聞いていたイブが小声で柊さんに聞いていた。

『俺がなんでも教えていたら、成長出来ないでしょ?自分で考えるのも大切な事だし、これは自分で気付かないと意味ないからね』

柊さんも小声で答えていた。

でもウルフはもう気付いているようだった。

『ウルフは気付いたの?』

残念だけど私はまだはっきりとは分かっていない。

『オレは分かったで。さっきエリに言おうとしていたことも』

『ねぇ、全然関係ない事で悪いんだけどいつからウルフはエリの事、名前で呼ぶようになったの?』

ノエルが素朴な疑問をぶつけたきた。

ウルフは凄く驚いていたけれど、私は何故だか恥ずかしくなって思わず下を向いた。

『俺は分からないけれど、ウルフは途中で呼び方変えたの?それに気付いたノエル様は凄いな』

『私は、色んな国の王族やら貴族やら沢山の人達に会うことが多いでしょ?名前と顔をなるべく一回で覚えなきゃいけないのよ。でも女の人の場合、毎回デザインも色も違うドレスを着て、しかも髪型も違ったりするでしょ。だから見た目でけじゃなくて他にも特徴を覚えておかなきゃいけないの。そうなると話し方で覚えるのが一番良い方法なのよね。だから相手の事を観察しながら話す癖がついてて』

ノエルの意外な特技だ。

『それでオレが呼び方変えたの気付いたんか?ノエルちゃんは凄いなぁ』

柊さんとウルフに誉められてノエルは照れている。

『で?なんでウルフは呼び方変えたのさ?』

自分で考える事が大切だと言っていたけれど、ちょこちょこヒントを言って答えを導き出そうとしてくれているのが分かる。

『呼び方変えた理由か…。

一言で言うとオレの心境の変化かな?

実はエリに言いたいことがあんねん。とりあえず、オレの話し聞いてくれるか?』

急に真剣な顔でウルフは私を見てきた。

ウルフの真剣な顔にドキドキしてしまった私はコクンと頷くことしか出来なかった。

『いなり、ここで大人しくしてれよ?』隣で柊さんが膝に乗ったいなりに囁いていた。

なんだか大げさな感じがするけど、いなりちゃんも真剣な顔で頷いていた。

覚醒した理由を聞くだけなのに、なんだか皆を巻き込んで大事おおごとになっている気がする。

『あんな、エリ。さっき途中になったんやけど、オレは家来やなくてもエリの側にいたいって言ったやんか?』

私は恥ずかしさでまだ頷くことでしか返事を出来なかった。

『それはな、オレにとってエリは主人とか関係なしにめっちゃ大切な存在なんよ。確かにエリとオレは会ったばっかやで?でも柊も言うとったけど、時間は関係なしに分かる事もあるんや』

ウルフはいきなり私の両手を自分の両手で包み込んだ。恥ずかし過ぎて私は手を引っ込めようとしたけれど、ウルフにギュッと握られて離すことは出来なかった。

『エリ、顔上げてくれへんか?エリの目を見てちゃんと話したいやんか』

きっと私の顔は恥ずかしくて真っ赤になっていると思う。それでもウルフに言われた通り顔を上げてウルフの顔を見た。

『ありがとな。でも、めっちゃ顔赤なっとるやんなぁ。余計に可愛いやんか』

ウルフは、はにかんだ笑顔になった。でも手はしっかりと握られたままだった。

『オレとエリは敵を倒す為に選ばれてこの国に呼ばれてきたやん?オレはエリの家来になってエリを補佐する為に。でもな、オレにはそんな理由はどうでもえぇねん』

理由はどうでも良かった?

ウルフは何を言い出すつもりなんだろう…。

『予知夢て気持ちの変化まで視えるんかな?ここまで想定されとったらめっちゃ嫌やねんけどな。そうやないこと祈っとるわ。

オレとエリは全く違う世界の住人や。しかもオレは妖怪でエリは人間。そもそも種族がちゃうねんけど、でもそうやなかったらこの世界に呼ばれへんかったやろうし、エリと出会うことも出来へんかったんやろな』

ウルフはずっと私の目を見て話してくれている。

『話し長なってすまんな。皆も巻き込んでしもて、堪忍な』

『全然、構わないよ。言いたい事は全部ちゃんと言った方がいい。俺達は待ってるから。なんなら二人っきりの方が良かったのかな?』柊さんはウルフが何を言いたいのかもう分かっているようだった。

ノエルといなりちゃん、イブまでが物凄く真剣な顔で話を聞いている。

『ほんま、皆ありがとな。あともうちょっと付き合ってくれな。エリ…、オレな…、この世界に飛ばされてエリに出会えた事、めっちゃ嬉しいねん。めっちゃ幸せやねん。オレにとって出会ってからの時間は関係ないねんな。オレにはエリは何者にも代え難いめっちゃ大切な存在やねん。出来るもんなら、オレは敵を倒した後もエリとずっと一緒に居りたい。

エリにも同じようにオレが大切な存在になれたらめっちゃ嬉しいねんけど?』


ウルフは物凄く切なそうな目でずっと私を見つめている。

柊さんやウルフの言う、時間は関係ないって事はなんとなく分かるかもしれない。

だって私は…。

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