第22話団結Ⅰ
『私の覚醒が間に合ってないのは誰のせいでもないわよ!』
ダンッ!と床を足で踏みならし、ノエルは腕を組んで仁王立ちになった。
『王族のくせにまったく魔力を感じないのは本当に王族なのかって散々、色んな人達に陰口を言われてきたわ。なにかしら難癖をつけたがる人達だってわかってはいるのよ。
だからって、私にも何か力があるんじゃないか…なんて思えたことなんてなかったわ。
5歳や6歳の子供が自分の陰口を言われて本当は力があるかも、なんて希望を持つ事も駄目なんだとしか思えなかった…。
だから、今更覚醒が間に合っていないとか焦っていないし気にしていないわ。
むしろ、本当は力があるのが分かって凄く嬉しいもの。覚醒が間に合わなかったら、最初から力がなかったと思って敵に挑めばいいだけなんじゃない?
力を中心に考えてもどんな力が覚醒するかも分からないし、力を使った作戦を考えることも出来ないけれど、最初から力はないものとしていた方がいくつも作戦を考えやすいんじゃないかしら?』
暗くなっている
少し眠くなってウトウトしていたらしいいなりちゃんがビックリして目を見開いた。柊さんも驚いた顔でノエルを見上げている。
『もし戦いの途中でしっかり覚醒したら運が良かったってことでいいじゃない。あらゆる事態を想定して戦略を考えるのが参謀の役目でしょ?』
ノエルはいたずらっ子のような顔で柊さんを見て、ウインクした。
黙って聞いていたウルフが
『せやな。オレとエリも簡単に力を出せるのかわからへんし、あると思って期待しとるとダメだった時のダメージデカいやんな。あんま頼りにしぃひん方向でいった方がえぇんちゃう?』
とりあえずちょっとの時間でも覚醒させる訓練はしとこ、とウルフも前向きな意見を言った。
『そうよね。私とウルフの力もあれで最高なのかもしれないし、本当はまだまだ強くなれるかもしれない。今はまだ、力に過剰な期待はしない方がいいのかもね』
昨日の今日でどんな力なのかと聞かれても、自分でもあまり分からない。
私もウルフみたいに半分狼になった姿が覚醒後の姿だとは思うけれど、あの状態で後はどんな力が発揮出来るのか・どのくらい強くなっているのかは全く分からない。
ただ、覚醒後に前とはちょっと変わった事はあると言えばあるんだけど…。
戦いに関しては、圧倒的に経験が多いであろう柊さんといなりちゃんの方が強くて戦い方も上手いんだろうなとは思う。
いくら敵を倒す為に連れて来られたとしても、私は妖怪とかと戦った経験が全く無いと言ってもいいくらい…。私の方が足手纏いにならないように気をつけないと。
ノエルだって私達が来るまでは戦いどころか、訓練とかもそんなに必要なかっただろうし。
事態が予想より早くなっているとしても、出来ればまだ敵に会いたくはないな。
もうちょっと訓練する時間が欲しいけれど…。
私や柊さんの意志関係無く異世界に飛ばされてきたから、敵と対峙するタイミングも突然なんだろう。
ノエルに言われて何かを考えていたらしい柊さんが
『そうだよな。予知夢では覚醒したノエル様と合流することになっていたから、そのつもりで色々考えてきてたんだ。力のない状態は殆ど考えていなかった。
来る直前に覚醒の話を聞いていたから、まさかタイミングがずれるとも思っていなくて。油断してたな…ごめんな』
どこまで妨害されて予知夢の内容が変わっていくのか。
それは誰にも予想はつかないけれど『覚醒がまだならその分の作戦もたてれば、作戦が沢山増えてどれか効くやつがあるかもしれないよな』とさっきまでちょっと暗い顔をしていた柊さんが急に前向きになった。
ノエルの言葉が効いたのかな?
『弱気になって悪かったな。普段はこんなに弱気になったりはしないんだけど、ノエル様を見ていたらちょっと昔の事を思い出してしまって…。それにしてもかなり年下のノエル様にあんな風に怒られるなんて思ってもいなかったよ。さすがは王女様だよな』
調子の戻った柊さんは苦笑いをした。
『あら?柊は年下の子に怒られたことはないの?私は王族だから相手が年上の大人でも不正をしたり国民に害をなそうとしたら王様の代わりに怒る事もあるわよ』
本当に私より年下?
王族に生まれるって子供の時から色々と大変なんだな。
『でも本当は私も怒ったりしたくはない…。いくら王族って言っても10歳の子供に怒られるのは、いい気しないでしょ?』
ノエルは大人に混ざって他国との交流をしたり国政にも関わったりしているから、考え方は十分に大人だ。
子供らしい部分なんてそうそう出せないんだろう。だから昨日の夜はあんなに嬉しそうだったのかも。
誰かと一緒に寝るなんてしたことないんだろうな。
『俺にはノエル様くらいの年の妹がいるんだ。その妹もちょっと生意気で俺はよく妹に怒られていたよ。お兄ちゃんはずっと年上のくせに情けないってよく怒られた。元気にしているんだろうか…』
私だけではなく柊さんにも待っている家族はいる。敵を倒したところで、絶対に自分の世界に戻れる保証はない。
でも、なんとしても敵は倒したいって強く思う。倒さなきゃいけないんだと思う。
『ウルフ…、私の力がどのくらいかは分からないけれど、頑張るから。
力があっても無くても絶対に敵を倒したい!
この中では私が一番、力もなければ経験もないわ。
でも絶対足手纏いにはなりたくないの!
だから私の側にいて私と一緒に最後まで戦って!』
私は言いながらまた、泣きそうになっていた。
敵に勝ちたいっていう気持ちとウルフと離れたくないという気持ちが入り交じっていた。
『エリ…。そんなん言われへんでも側におるのは当たり前や。オレがエリの家来だからってだけやなく、そこを無くしてもオレはエリの側にいたい。エリはオレにとって…』
ウルフがそこまで言うと急に私とウルフの体が昨日と同じように光りだした。
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