第20話覚悟Ⅰ

ウルフに抱きついた時、ウルフから妖気のようなものが私の中に流れこんできた。そのおかげで、冷静になることが出来て頭もスッキリとした。

『本当にいいんだね?

敵と戦うならもちろん俺達も全力で補佐するよ。な、いなり?』

『うん!僕も一生懸命頑張る!!』

『私も何が出来るのかわからないけれど、エリやしゅう達だけに背負わせはしないわよ。私の国の問題ならば、私も頑張るのは当たり前なんだから!王女なんだからって止めたりしないでよ?』

ノエルもやる気満々になっている。

私のこの選択は間違いではないよね?

『ノエルやこの国を守りたいんやろ?その思いに間違いはあらへんから、大丈夫や。

オレは何があってもエリを守り抜くし側から離れん。それにエリ1人やないから迷った時は絶対、誰かに相談しぃよ?オレに言いにくかったらノエルや柊だっておるし、いなりも話は聞いてくれるやろうし』

ウルフは私の不安を察知してくれたようだ。

皆が、笑顔で私を見てくれている。出会ったばかりなのに何故かお互いを信用出来、皆の思いも同じ方向だったみたいだ。

『皆の考えも揃ったようだし、飛ばされてきた理由以外の話も進めていいかな?』

『そうよね。なんで柊は理由を知っているのかとか、なんでそんなに私達のことも知っているのかとかその理由を早く聞きたいわね』

ノエルが私も聞きたいと思っていたことを言ってくれた。

『いなりに出会ってからもしばらくは戦いの日々だったんだ。まだ何故、俺がそこにいるのか理由もわからまくてただひたすら戦って生活していただけなんだよ。最初は本当に住む場所もなくて、野宿したりね。

だから時には妖怪だけじゃなくて、人と戦ったりもしていたよ。生きていく為には衣食住が必要だとわかったから、嫌な奴相手でも護衛みたいなこともして生活場所の確保をしていたんだ。もちろん報酬はガッツリ貰ったけどさ』

おかげで良い武器とか買えたんだと柊さんは笑っていた。

色白で背が高く華奢であまり筋肉も無さそうな見た目に反して柊さんの性格はかなり逞しく、しかも私の想像以上の過酷な生活をしていてかなり驚いた。 

『確かに大変だったし、死にそうになったことも何回もあるよ。でも自分が強くなっていくのを実感すると凄く嬉しくてさ。いなりとの絆が強くなるのと同時に、いなりの力も強くなって成長していくのも嬉しかったよ。

いなりは元々、強い妖怪だけど俺の実力次第でもっと強くなれるらしんだ。だからまだまだ修行中だったんだけど、予想以上に展開が早くなってしまって』

さっきも同じようなことを言っていたような…。

『この国の2つ前にいた国に凄腕の予言者がいてね。未来が視えるんだけど、その人は他にも沢山の世界があることを知っているんだ。異世界と言うのはもちろんなんだけど、過去や未来の世界の予言者や魔力を持った人と繋がったりも出来た人なんだよ。まぁ、相手もそれなりに力がないと繋がれないらしいんだけどね』

妖怪や魔力を持つ人だけでも驚きなのに、さらに時代も関係なく人と繋がれる人なんて、どのくらい強いんだろう。

『この世界にいると元いた世界はなんてちっぽけなんだろうって残念に思うよ。だから俺はこの世界に飛ばされてきた理由がなんであれ、貴重な体験が出来てるから感謝している部分もあるんだ』

凄く前向きな柊さんが羨ましく思えた。

やっぱり私よりも長く異世界にいるからなのかな?

『そこまで前向きに考えられるんは、柊の性格か?』

ウルフは不思議そうな顔をしている。

『自分の世界にいた時も違う意味で色々と戦っていたからなぁ。それに負けず嫌いなところもあるから、敵が誰で何者だろうと負けるのは凄く嫌いなんだ。例え相手が家族だとしても。

だから、どうしたら勝てるのかとか戦略を考えるのも好きだし、勝つ為の努力も苦ではないんだよな』

柊さんは頭の回転が早くてしかも実行が出来る人なんだろうな。

『だからエリの補佐として選ばれたのね!最初から強いと思われる敵と戦う時は予め戦い方をいくつも考えておくのは必要よね。でも戦い方を分かっていないといくつも考えられないし、戦いながら作戦を変えたりも出来ないわよね』

私も試合では、多少の駆け引きとかはしていたけれど…。

ノエルがそんなに詳しいとは思いもしなかった。王女様なのに。

それとも王女様だから?

『ノエルは王女様だから戦い方の勉強もしているの?』

『エリ、私が詳しくて驚いた?本来なら王女はそんな勉強はしないわよ。王位継承権第一位ならともかく、私は第二位だし…。私の場合は勉強がそんなに好きではなくて、よく逃げ込んでいた話し相手が王家専属の参謀だったの』

王家専属の参謀。

それは戦い方の知恵がついてもおかしくはないかも。

『そりゃよく部屋を抜け出すような王女様やもん、大人しく勉強してるのは想像出来へんなぁ』

ウルフの言葉で私も柊さんも苦笑いしていた。

『じっとしているのが苦手なのよ』ノエルはちょっと拗ねたのか頬を膨らませて横を向いた。

『でも、王女のくせに何も分かってないって思われるのは嫌なの。それに私が勉強をさぼることでお父様まで悪く言われてしまうこともあるっていうことを知ったのよ。だから、女とか継承権が何番目とか関係なくお父様と国に役立つ事は全部勉強してやるって思ったの。運動は好きだけど剣は全然使えないから、それ以外のことを頑張ろうって』

拗ねてたかと思ったら次は恥ずかしくなったのかちょっと顔が赤くなっている。

ノエルも意外に前向きだしちゃんと家族や国のことをかを考えて行動してるんだな。

『そしたら、戦い方を考えるのが一番楽しくて自分に合っていたみたい。

実際にあったいろんな国の昔の戦いで勉強をして、どうして負けたのかとかそこに自分の考え方を入れてどうしたら勝てるのかとか色々勉強しているわ。どうしたら勝てるのかを考えるのは楽しいわね』

今度は目を輝かせて嬉しそうに話し出した。

『俺が行った他の国にも王女様っていたけど、やたらと偉そうなのばっかりだったぜ。特に財力のある国の王族はどこも凄くて、周辺の国にもやたら偉そうでさ。それが原因で反乱があったり他国と戦争になった国にもいたことあったよ』

本当に色々と経験しているんだな。一体、どのくらいの国に飛ばされてきたんだろう…。

『平和な国でも戦い方の勉強をしておくのは良い事だと思うよ。いつ周りの国が変な行動にでるかわからないし、今回みたいなことが絶対にないとは言い切れないからな。

ノエル様は本能的に必要な事を分かっているんじゃないか?参謀に向いてるんだろうね。もし将来女王様になったとしてもきちんと国のことを考えて国を治められる女王様になれるんじゃないかな』

考える事は良いことなんだよって柊さんに誉められて素直に喜んでいる姿は10歳の普通の女の子だ。

『最初はお父様、凄く嫌がっていたの。

でも途中から何も言わなくなって。

今思うと予知夢でエリとウルフの事を視てから何も言わなくなったんだと思うわ。魔力があるかわからない私にはせめて頭で力になれって思ったいるみたい』

王様も考え方の柔軟性が高い。

『予知夢で視た事は絶対ではなくて、行動次第で視た結果とは違う結果になったりもするらしいぜ。だから俺が知り合った予言者はよく、悪い予知夢の時は最後まで諦めるなって言ってたな。それでも結果的に変わらない結末になっても最初に視た予知夢よりかは良い結末にはなるらしい』

未来を変えることが出来るなんて不思議。

それは常に諦めずに努力をし続けろって事なんだろうな。

今回の事もその人は視ているのかな?

どんな未来を視たんだろう…。

『この話を聞くと不安になるよな。予知夢って、大体最初は何も行動を起こさなかった時の結果を視るらしい。でも、行動次第で結果を変える可能性は十分にあるんだ。実際にそれで結果を変えたこともあるし。

だから俺は色んな国に飛ばされて沢山の事を経験させられてからこの国に飛ばされたんだ。エリとノエル様の実力に少しでも近づく為にってね』

私とノエルに近づく為?

私は何も魔力とか特別な力を持っているわけではないけれど…。

あれもウルフがいないと発動しないだろうし。

どういう意味なんだろう?

私の力が敵に通用するかも全然わからないのに…。

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