第19話真相Ⅲ
『2人共、せっかちなんだな』柊さんは笑っている。
『俺がこの世界に数日先に飛ばされて来たのは、エリちゃんがいつこの世界に飛ばされて来るのかはっきりとは分からなかったからなんだ。そして俺が色んな世界を飛ばされてきた理由は、色んな世界のアイテムを手に入れる為と力をつける為』
それは全く想像もしていなかった内容だった。
『俺が力をつけなきゃいけなかった理由は、俺達を異世界に飛ばした奴を倒す為にエリちゃんの補佐が出来るようになんだよ』
私の補佐?私が敵を倒さなきゃいけないってこと?
『私がその相手を倒さないといけない…ってこと?その為に私はこの世界に呼ばれたの?』
『まぁ、いきなり敵をたおす為とか言われてもピンとこないよな。俺も最初は何が何だか分からずに過ごしていたし、すぐにいなりと会えた訳でもなかったんだ。だから毎日、生き延びる事だけを考えて必死だった』
え?私とは大違い。まだ私は運が良かったんだな…。
『私はその日のうちにウルフと対峙して夜には契約もしていたわ。ノエルに出会えた事も運が良かったってことなの?』私が悪い訳ではないけれど、なんだか申し訳ない気がしてきた。
『オレもやな。飛ばされてその後すぐにエリに会ってんな』
『それはたぶん、俺とエリちゃんの立場の違いかな。俺は最初からエリちゃんの補佐目的で選ばれて飛ばされたみたいだから。エリちゃんの場合は敵を倒す為にこの世界のこの国に連れて来られたんだよ。
言い方を変えると、エリちゃんは最初から敵を倒す為だけに選ばれてここへいきなり飛ばされてきたってこと』
最初から決まってた?
私は敵を倒す為だけに飛ばされてきた?
『なんで…な…の?』
飛ばされてきた理由があまりにも突飛すぎて上手く言葉が出てこない。
ウルフも驚き過ぎて言葉が出てこないみたいだ。
『そんな…』ノエルは驚きのあまり両手で口を覆っている。
どうして私が選ばれたの?
私じゃなきゃ駄目だったの?
どんな敵かわからない。
どんな力を持っているのかもわからない。
万が一、その敵を倒せなかったら?
家に帰ることが出来ないかもしれない。
もしかしたらノエルとこの国もどうにかなってしまうかもしれない?
誰もが衝撃を受ける内容な上に、私には一気に両肩に大きな責任がのしかかってきた感じがする。
想像以上にスケールの大きな内容への怖さと責任の大きさに潰されそうになり、私は知らないうちに涙を流していた。
『エリ、大丈夫か?』
ウルフが私の涙を右手の親指で拭いながら優しく声をかけてきた。
『エリ、大丈夫?』
ノエルは少し青ざめた顔で聞いてきた。
私は返事をすることが出来なかった。
『話を聞いて怖くなっても仕方ないさ。突然、知らない場所に飛ばされてきただけでもパニックになりそうなのに、実は敵を倒す為とか言われてもな。
飛ばされてきたことは、エリちゃんが望んだ訳でもないし絶対にエリちゃんが敵を倒さないといけない訳でもない。
俺達をこの国に呼んだ奴の都合に勝手に巻き込まれただけなんだ。ぶっちゃけ戦う必要もないと思うよ。それも十分ありだ。
どうしても怖いとか自信がないとか、ちょっとでも思うなら素直に言ってくれてかまわないからな。それでも戦うって言うなら、エリちゃん一人で戦わせるわけないし俺達も一緒だから安心してほしい』
柊さんが私を励ましてくれている。いなりちゃんも心配そうに私の顔を覗きにきた。いなりちゃんも泣きそうな顔をしている。
『ウルフ…。私が…敵を倒さ…なきゃ……』
まだ涙が止まらず言葉も詰まる。
『そないに泣いて…。泣き顔も可愛いやんか』
ウルフはどさくさに紛れてさらっと恥ずかしいことを言った。そして立ち上がり、泣き顔を隠すように私の頭を優しく抱き締めた。
『無理することはないんやで?オレはエリの家来や。エリが敵と戦おうが逃げようがオレはエリの意見に従うしエリを守るだけや。どの道を選ぼうがずっと一緒におるから自分の本当の気持ちで動いてええんやで?』
私はウルフの体に腕を回してウルフに抱きついた。
『私もエリにはこの国や私達のことを気にせず自分の気持ちに従って欲しいわ。エリが戦うことを拒否しても誰も責めたりしないわ。
この国に飛ばされてきたってことはこの国の事情に巻き込んでしまったってことだもの。誰がエリや柊を呼んだのかは分からないけれど、この国に関係している人だってことは確かだと思うわ。私にもこれから何が起きるのかは分からないけれど、巻き込んでしまって本当にごめんなさい』
ノエルも少し涙声になってきていた。
私はウルフをギュッと抱き締めてから離れ、ウルフに笑顔を見せた。
そして椅子から立ち上がりノエルの所へ行った。
今度は私がノエルの頭を優しく抱き締めた。
『エリ?どうしたの?』
『心配かけてごめんね、ノエル。ありがとう。私はもう大丈夫よ』
ノエルから離れノエルにも笑顔を見せた。
こっち側に寄ってきていたいなりちゃんを見つけ、頭を撫でてあげた。
『いなりちゃんも会ったばかりなのに心配してくれてありがとう』
いなりちゃんは照れながら
『会ったばかりとか関係ない。僕がエリを心配したかっただけだもん』
照れ隠しで横を向くいなりちゃんだけど、尻尾はめちゃくちゃ左右に動いている。
『本当に俺達がいてもラブラブなんだな。それにどうするのか決まったような顔つきになったけど、もう心は決まったのかな?』
さっきまで心配してくれていた柊さんはニヤニヤして私とウルフを交互に見ていたけれど、なんだか嬉しそうにも見える。
『どっちを選ぶかなんて考えるまでもないもの。私は敵と戦う!絶対に倒せるかはわからないけれど、敵から逃げるなんてことは私はしないわ!』
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