第18話真相Ⅱ

『なにを言うとるん?』

ウルフは笑顔にしようとしたみたいだけどちょっと顔が引きつっていた。

誤魔化そうとしたみたいだけど、柊さんは

『隠さなくてもいいよ。俺は敵じゃないし大方の事情は知っているから大丈夫』

知っているって何を?

どこまで私達のことを知っているの?

『話が進まないのは俺も悪いな。とりあえず、この世界に来てからのことを話すよ。ごめんな、あのデカい妖怪は俺が仕掛けたんだ。怪我をさせるつもりはなかったんだけどエリちゃんとウルフの実力を見たくてさ。そしたらまさかノエル様の力も覚醒しそうになるとは思わなかったよ』

あまりにも意外な話に私達は何も言えなかった。

『まぁ、驚く話だよな。あの妖怪は幻みたいなもんだからたいした力はないんだ。ウルフがどんな妖怪で力がどのくらいなのかを知りたかったんだ』

『知ってどうするん?もしエリが大怪我してたらどうするつもりやったん?』

ウルフは立ち上がって今にもしゅうさんに掴みかかりそうな感じだ。毛が逆立っていそうなくらいの苛立ちが伝わってきた。

『たいした怪我はないし、私は大丈夫だったからウルフ落ち着いて?』

私はウルフの腕を軽く掴んだ。

腕を掴まれてウルフは我に返り、深呼吸してから大人しく座り直した。

『本当にウルフはエリちゃんが大事なんだね。主人と家来以上の絆が出来ていそうだ』柊さんはウルフの様子を楽しんでいるみたいだ。

『この2人は私がいても目の前でラブラブよ』

ノエルも一緒になって面白がっている。

『別にそんなんじゃないわよ!どこがラブラブなのよ…』

ウルフは妖怪だしまだ本当に何日かしか一緒にいないのに、なんでラブラブになるのよと思いつつも動揺している自分もいる。

『今はそんなの関係ないよね!?柊さんも話、進めてください!』

『あはは、エリちゃん動揺してるの?可愛いなぁ。一緒にいた時間は関係ないよ。会った瞬間にその人が自分にとって大切な存在になるか分かる時もあるさ。ウルフは妖怪だし本能で分かりそうだよね』

『だからその相手の前に現れて契約出来るんとちゃうか?オレは元からこの世界におったわけやないで?気付いたらこの世界におってしかも一面真っ白の雪の中や』

ウルフは出会った時の事を思い出して苦笑いしている。

『ウルフも他の世界から来ていたの?元々、この国にも妖怪はいたからその辺は考えたことなかったわ』

『私もウルフはこの世界の妖怪だと思ってた。私のいた世界には妖怪は昔話でしかいないから、本当にいるのが正直今でも信じられないよ』

知っている気になっていたけれど、ウルフについてはほとんど知らない事を実感した。

ゆっくり話す時間があったわけではないから仕方がないんだけど、何故だかちょっとショックだった。

『前にいた世界とかの記憶はあやふやなんやけど、覚えとる世界はここよりもすさんどって戦いばっかな世界やったな。たぶんこの世界に来る前がそうやろな。せやからノエルちゃんの前に現れた時は殺気が凄かったやろ?戦っとる最中やった気もするねんな』

だからちょっと離れた場所にいた私でも殺気を感じたのか。しかも、体も大きくて目も血走っていた気がする。それでも何も考えずに体が動いていたような…。

『ぶっちゃけあの時、対峙したエリの殺気も凄かったんやで?戦わなやられる思たのに、あっちゅう間にオレはボッコボコにされたんやんか』

あの時は夢中だったからあんまり覚えていないんだけど、結構深手のウルフが夜に現れた事しか記憶に残ってないかも…。

『エリちゃんは本当に強いんだろうな。

もしかしたらウルフが他の世界にいた時に俺は会ってるかもしれないな。自分の世界から飛ばされてから何カ所か世界を飛ばされているし、平和な世界やウルフがいたような戦闘ばかりの世界もあったから。俺にしたら初めて会った気もしてないんだ。

それと、元の世界と時間の長さが同じとは限らないから正直何年地球を離れているのか俺にはもう分からないんだよな…』

朝は明るいし夜には暗くなっているから地球と同じと思っていたけれど、もしかしたら違うかもしれないんだ。じゃあ、まだ数日しか経っていないれけど地球では何年もいないことになっているかもしれない?

そう考えたら凄く怖くなってきた。私は何年も行方不明になっている可能性もあるんだ。

泣きそうになっている私の顔を見たいなりちゃんが、ピョコンとテーブルの上に乗って私の頭を撫でてくれた。

『不安にさせちゃったか?でもとりあえず、俺は何年も異世界を回っているな。

ただ、地球でも何年もいないとは限らない。こっちで何年もいたとしても、地球では数分・数十分しかたってない可能性もあるさ。もしかしたら、何年もいなかったとしても帰る時間はいなくなって数分後に戻れる可能性もある。まぁ、帰ってみないと分からないんだけどね』

柊さんはちょっと申し訳なさそうな顔になった。

私はいなりちゃんをギュッと抱き締めた。

『ありがとう、いなりちゃん。優しいね』

いなりちゃんを離して今度は私がいなりちゃんの頭を撫でた。

『すっかりいなりは皆に懐いたようで良かったけど、でも警戒心無さ過ぎだな、いなり』柊さんはちょっと呆れてはいるけれど安心しているようでもあった。

『みんな、僕には殺気ない。だからみんなは大丈夫~。ウルフも警戒はしても僕を殺すことはないよ~。僕とウルフは違うけど同じでもあるの~』

どういう意味?妖怪同士だからってことかな?

『いなりがそう感じたのなら大丈夫だろう。いなりは見た目は小さいけど妖怪としてはかなり力がある方なんだ。甘く見てると大抵の妖怪や敵はいなりにやられる』

誉められたいなりちゃんは照れながらも嬉しくて柊さんに向かって走り飛び付いた。

見た目は凄く可愛いのに凄く強いってイメージが沸かない。

『んじゃ、話の続きなんだけれどいつ帰れるのかは俺にも分からない。ただ、この世界に俺とエリちゃんが飛ばされて来た大体の理由は分かるよ』

私が飛ばされて来た理由?

何故、柊さんは知っているんだろう?

『オレとエリがこの世界に来た理由てなんや?なんで自分はそれを知ってるん?柊は何者やねん?』

『そうよ。さっきからなんだかこっちの事情は全部知っているみたいに話すわよね?さぁ、早く柊の正体を教えなさい。何故、そんなに色々と知っているのよ?』

ウルフもノエルも柊さんに掴みかかりそうな勢いで質問をぶつけにいった。

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