第17話真相Ⅰ

『朝早いのに本当、悪かったね。ありがとう、とっても良い匂いだ。日本の紅茶に凄く似ているね』

一口飲んだ後、香城こうじょうさんは幸せそうな顔になった。

『違う世界でも似たような飲み物ってあるんですね。ニホンと言うのが香城さんのお国なんですか?』

ノエルが興味津々な雰囲気になってきた。

『そうだね。たぶんエリちゃんも同じ国じゃないかな?いなりの名前に反応したでしょ?』

にこやかな笑顔で香城さんは私を見てきた。あの一瞬で気付いたってこと?

『そうです。やっぱり香城さんも日本なんですね。私もって、あの会話だけで気付いたんですか?』

しゅうでいいし、敬語も使わなくていいよ。あれだけで気付いたんだって言えたら格好良いんだけどね』

今度は照れ笑いになっていた。

『朝早くから申し訳ないなって思ったんだけど、思ったより事態が早く動き出してて…。確信がなかったから本当はもうちょっと様子を見てるはずだったんだけど』

さっきまでの笑顔はなく今度は真剣な顔だ。

『様子を見てるはずやったってなんの様子見てたん?』

ウルフは警戒モードになっていた。

『実は何日か前からこの世界に来ていたんだ。とりあえず俺のことから話したらいいかな。聞きたい事が沢山あるとは思うけど、一通り話してからでもいいかい?』

確かに聞きたい事は沢山あるんだけれど…。でも、まずは大人しく話を聞いてみた方がいいかも。

『そうですね。聞きたい事が本当に沢山あるんだけど、先に話を聞いた方が気持ちが落ち着くのかな』

一番気になる事は自分のいた世界に帰れるかどうかだけれど、私や香城さんが飛ばされてきた理由も凄く気になるし。

聞きたい事の答えを香城さんが持っているといいな。

『ウルフはなんかオレに敵対心があるみたいだけど、とりあえず俺の話が終わってからならなんでも相手してあげるよ』

『そんなんとちゃうわ!敵やないっちゅうことは頭では分かっとる。でも本能的に落ち着かないっちゅうか…上手く説明出来へんのやけど、なんや変な感じやねん』

香城さんは私達について全部知っていそうな雰囲気を出している。

ただ単に異世界に飛ばされて来た人ってだけではなさそうな感じはする。

『とりあえず柊が知ってる事、話してくれんか?少しでもエリの不安が減るならオレは大人しくしとるわ』

ウルフはプイッと横を向いた。ちょっと照れ隠しっぽい。

それにしても、私にはいきなり男性を名前で呼ぶのはハードルが高すぎるのに、ウルフはやっぱりさらっと柊って呼んだ。

『本当にウルフはエリちゃんに従順なんだな。力がある人の家来になると絆の強さが違うとは聞いてはいたけど…。思ったよりエリちゃんには力があるみたいだね。もしかしたら俺より強いかもな。いなりもそれなりに従順だし力はあるけど、精神年齢低いからたまにさっきみたいに勝手な行動するんだよ』

そう言って笑いながら、膝の上に座っているいなりちゃんの頭を優しく撫でた。いなりちゃんもウルフと同じ家来なんだろうけど、柊さんが好きで懐いているのが伝わってくるし妖怪でもいなりちゃんを大事にしている柊さんの思いも伝わってくる。

撫でられているいなりちゃんは、さっきノエルに撫でられていた時よりも物凄く嬉しそうな顔になっている。

『なんか羨ましいな。私にも家来はいるけど、そういう感じではないし仕事だし国を守る為に私も守るって感じだからエリや柊が羨ましいわ』

ノエルはちょっといじけた感じで言った。

それより、ノエルもさらっと呼び捨てにした!?

さすが王女様だなぁ。

『確かに俺とエリちゃんには家来って形で妖怪がいる。でもそれは、僕達人間の力が足りないから補って貰う為だと俺は思っている。だからウルフやいなりみたいな家来がいなくてもノエル様には力があると思うんだよね』

『力?私はお父様と違って魔法も使えないし予知能力もないわよ。妖怪退治をしたこともないし、何か出来た記憶はないけど…』

ノエルだけではなく私も頭の中はハテナマークだらけになっている。

『本当に好奇心旺盛なお姫様だな。なかなか本題に入れないんだけど仕方ないか』柊さんは笑いを押し殺している。

『ノエル様の力の話を先にすると、まだ覚醒してないだけなんだと思うけどね。たぶん妖怪の家来がいるのは異世界から来た人間だけだと思う。それにこの国の王家の人達は昔から皆、何かしらの力があるんだろ?力の大きさや種類は色々なんだろうけど、覚醒する年齢もバラバラだと思うよ。ノエル様はまだ10歳だしさ。まだ十分に可能性はあるはずさ』

柊さんにそう言われたノエルは嬉しそうな顔をしたかと思ったら、急に真剣な顔になった。

その変化に柊さんは気付いているのかいないのかそのまま話を続けた。

『力がまったくないんだったら何もしてないのに、ノエル様の体が光り出したりはしないんじゃないの?』

私とウルフ、それにノエルも柊さんの言葉に一瞬で凍りついたような表情になった。

柊さんは両手で頬杖をつきながら不敵な笑みを見せた。

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