第16話対面

『あ!攻撃するつもりはないから、大丈夫。

まぁ、いきなり現れたから信じられないかもしれないけどさ』

なんの気配も物音もさせずに現れた男性は長身で、腰には刀らしきものを差していた。

あまりにも突然の出来事に動くことが出来ずにいた私とウルフに男性は笑顔でそう言った。

『確かに殺気は感じられへんけど、せっかくのラブラブな時間やったのに…。誰やねん、自分?ホンマに攻撃せんのかなんて、すぐには信用出来へんよ?』

妖怪に出会った時のウルフからは猫みたいに警戒して毛が逆立っているような雰囲気が伝わってきたけれど、今はそれは感じられない。だから危険はないんだろうとは思うけど、どっちかというとウルフは邪魔をされていじけてる感じ?

『とりあえず中に入ってもいいかな?雪が積もっていないとは言ってもリース国の朝の外は寒いからさ』

一応の警戒はしつつも、私とウルフは立ち上がり男性を部屋の中に入れて窓を閉めた。

『ありがとう。ちょっと長い間、様子見てたから体が冷えちゃった。この部屋は暖かくていいね』

男性はにこやかだけど、ウルフは警戒して私を自分の後ろに隠し

『だから誰やねん、自分?それとそこのちっこいのはなんやねん?』

警戒してるというよりは、動物の威嚇に近い?

ん?ちっこいの?

良く見たら男性の足元に小さい子供がいる。

『はい?』

思わず2度見をしてしまったその相手はフサフサの大きな尻尾が生えていた。

『こ、こんばんは…』

人見知りなのか、男性の足の後ろに隠れながら顔を半分だけ出して挨拶をしてきた。

尻尾があるから妖怪なんだろうけど、なんだかとっても可愛い。

『俺は香城柊こうじょうしゅう。こいつは狐妖怪のいなり。よろしくな』

狐でいなり…。安直すぎるネームセンス。でも、子狐ちゃんは名前を気に入っているのか顔が照れてるし嬉しそうに尻尾を振っている。狐でいなりって繋がるってことは…。

『あの…。香城…さんはもしかして異世界から来ました?』

ウルフの後ろから恐る恐る顔だけ出して聞いてみた。

『そうだな。何から話したらいいかな。たぶん話は長くなると思うから、ベッドで寝ているお姫様が話の途中で起きてくると思うんだよね。先に話してもいいけど、どうせお姫様も話聞きたがるよな?』

なんだかこっちの事情をだいぶ把握されてるみたい。ウルフも私も不安な顔になっていたのか、香城さんはクスッと笑って

『とりあえず先に教えておくと、俺も気付いたら異世界に飛ばされていたんだ』

やっぱり私と同じなんだ。

それを聞いてちょっとホッとしていたら

『ただし、俺の場合はこの世界が初めての国ではないんだよな』

さらっと衝撃的な告白をされた。

初めてではないのならどのくらい飛ばされてきたの?他の場所にいつ飛ばされるかもわかないってこと?

それに、いつ帰れるかもわからないってこと?

聞いてみたい事が沢山出てきたけれど聞くのが怖いのもある。

もしかしたら、私が飛ばされた理由も解るのかな?

早く色々と話を聞きたいけれど、ノエルの事はどうしよう。

起きるまで待つか、起こして一緒に話を聞くか…。

どうしたらいいのか迷っている間にいなりちゃんの姿が見えなくなっていた。

『うりゃ~!!』

叫び声とボスンという音に振り返って見ると、いなりちゃんが寝ているノエルのベッドにダイブしていた。

『何事?』

ノエルがガバッと飛び起きた。

香城さんは慌てていなりちゃんを捕まえにベッドに駆け寄った。

私とウルフも慌ててベッドに駆け寄った。

香城さんがいなりちゃんの首根っこを持ち上げながら

『こら、いなり!いきなりお姫様の寝ているベッドに飛び乗るヤツがあるか!処分されてもおかしくない行動だぞ?勝手な行動取るなって何回言ったらわかるんだ?』

ノエルは物凄くポカーンとした顔をしている。

『おはよう、ノエル。まだちょっと早いし、いきなり知らない人達いてビックリだと思うけど、起きれる?』

私は思わず笑いそうになったのを堪えながらノエルに声をかけた。

『おはよう、エリ、ウルフ。よくわからないけど、起きた方がいいならもう起きるけど、随分と失礼な殿方が増えたのね?』

ノエルはいなりちゃんを見て苦笑いしていた。警戒はしていないようだ。

捕まったままのいなりちゃんは下ろしてもらおうとジタバタしている。

『ベッド、気持ち良さそうなの~!こんなベッドで寝てみたいの~!!』

いなりちゃんは駄々っ子みたいに手足をバタバタしながら叫びだした。

寝起きだからなのか、いつものノエルと違って警戒なくいなりちゃんの頭を撫でだした。

とたんにウルフをまとう空気がピリッとしだした。何かあった時にすぐに動けるようにウルフは警戒している。

でもノエルは

『信じられないかもしれないけれど、この方達は大丈夫だって気がするの。なんだか昔から知っているような懐かしい感じを受けるのよ』

まだいなりちゃんの頭を撫でている。

いなりちゃんは幸せそう。

『寝起きに突然、本当に申し訳ありません。私の名前は香城柊。こっちは狐妖怪のいなりと申します。

不躾とは思ったのですが、早々に話をしなくてはいけないことになりまして、お二方に起こしてもらおうかと思っていた矢先にいなりが大変失礼なことを…』

香城さんはノエルの立場を分かっているからかいきなり敬語になり、そしていなりちゃんを抱きかかえて深々と頭を下げた。

その横で私とウルフはビックリしていた。

ノエルに対して王族に会った時の対応をした香城さんは、若く見えるけれど私よりだいぶ年上かもしれない。

私は王様に会った時にこんな対応は出来なかった。

やっぱり色んな世界を回った経験もあるからなのか、対応の仕方が全部大人っぽい。

『あ!とりあえずノエル、カーディガン着よう!!こんなのイブに見られたら怒られちゃう。お姫様なのにそんな格好のままではしたないって』

私は慌ててノエルにカーディガンを着せながら

『こんなに煩くしててイブは起き出してはこないの?』と聞いてみた。

『せやで。さっきからこのちっこいの、以外と煩かったで?』

ウルフも同じことを思っていたようだ。

『たぶん、起きてはいると思うわ。貴族や王族に仕える人は、ちょっとの物音でも起きられるようにならないとダメなの。ただ、今みたいな場合は呼ばれない限り部屋には来れないわよ。エリとウルフがいるし、立場的にエリとウルフはイブより上なのよ』

『来たばっかりの私がイブより上?なんで?』

『お姫様の付き人より立場が上なのは、お姫様専属の護衛だからじゃないか?』

香城さんは、私達の立場も全部分かっているみたいだ。

ノエルはベッドから出てきて皆の前に立ち

『不思議な感じがするかもしれないけれど、エリの場合は特別で王様が予知夢で見た人物な上に、私が自分で決めた護衛で常に行動を共にしているからよ。何かあった時に、イブよりも私を護れるのはエリとウルフでしょ?だからメイド頭でも命がかかった時には命令を聞くようエリとウルフはイブより上なのよ』

ただでさえ、髪色と瞳の色が違って目立つのに専属護衛とまでなると荷が重いかもと感じていたからこの話は黙っていてくれたらしい。

年下に気を使わせていたことにちょっと申し訳なくなってきた。

『やっぱりノエルはお姫様なだけあって、考え方は私よりも大人だよね。なんだかちょっと自分が情けなくなってきちゃった…』

するとノエルは不意に私を抱き締めてきた。

『何、言ってるの?この国の事情にエリを巻き込んだのはこっちなのよ?たぶんこの国に関わる誰かがエリを呼んだと思うの。だからエリは自分の世界にいた時のようにしてくれてて構わないのよ?』

ノエルの優しさがとっても嬉しい。

気を取り直さないと。

『まだちょっと早くて寒いから紅茶、入れようか。飲みながら話を聞くってことでもいいですか?』

私は香城さんの方を振り向いて聞いた。

『もちろん。それと、俺が年上でも敬語じゃなくて普通に話してくれて構わないよ。あと、俺のことは名前で呼んでくれても全然いいんだけど?』

お兄ちゃん時な雰囲気をだしながら、香城さんは私の頭をポンポンと撫でた。

『ウルフって呼んでいいか?暖炉とお湯の用意しようぜ』

ウルフの腕を掴んで歩き出す香城さんの後ろをいなりちゃんが一生懸命、ついて歩いて行った。

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