第15話密談
『ん~…』
なんかいつもと感じが違う。いつもより暑苦しくてモサモサして目が覚めた。
『なっ!!』
目の前が毛だらけで飛び起きた私はウルフに抱き締められて寝ていたらしい。
思わずウルフの頭を叩いてしまったが全く起きる気配はなく、気持ち良さそうに眠っている。ノエルもその横で気持ち良さそうに眠っていた。
なんだか目が覚めてしまった私は、そっとベッドを抜けだしカーディガンを着て窓辺に行った。
カーディガンを着ていても朝方のリース国はちょっと肌寒いけど、心地好い寒さだ。
カーディガンもカーテンもフリルのついた可愛いデザインで、お姫様気分を味わえるなとか思いつつカーテンを少し開けて外を見た。
まだ外は薄暗いけど、もう眠れなさそうでどうしようかと思っていたら後ろからいきなり口を塞がれた。
『んっ!!』
相手の腕を掴むも、体もしっかり抱き締められていて抵抗することが出来ない。
私の部屋は城の奥の方なのにこんな場所まで進入者なんて…、とパニックになりかけていると耳元で
『暴れんでも大丈夫や。驚かせて堪忍な。驚いて大声出されてノエルちゃん起きても困るな思て』
口を塞いでいた手を外され上を向くと目の前にウルフの顔があった。
『何してんのよ!進入者だと思ってすっごい焦ったわよ!』
小声で文句を言いつつも、襲われた怖さとウルフで良かったという安心感とが入り混じり私の声は少し震えていた。
『ホンマ、堪忍やで。ベッド抜け出したの気付いてこれはチャンスや!てつい後ろから抱き締めてみたなってな』
そう言いつつ、ウルフは嬉しそうにぎゅっと私を抱き締めた。
『離れてよ…』
今度はドキドキする気持ちを抑えるので精一杯で、それしか言えなかった。
ウルフを離そうとするが、意外とガッチリと抱き締められていて離れることが出来なかった。
『朝方は冷えるさかい、くっついてた方が暖かい思うで?それに話をするならこの方が小声でも聞きやすい思うねんな』
確かに人に戻ったウルフでもくっついていたら暖かいけど…。
でもでも、人になっている時のウルフに触れるのは、何故だかドキドキして落ち着かない!頑張って離れようとしてみたけれど、やっぱりガッチリと抱き締められているから離れられず諦めてウルフの腕の中にいることにした。
『ちょっと話、長なる思うから座って話したいんやけどええか?』
私は声を出さずに頷いて返事をした。
どこに座るんだろうと思っていたら、不意にウルフに抱き上げられそのままウルフの膝の上に座らされていた。さらには、いつの間に持ってきていたのか私はウルフごとすっぽり毛布で包まれた状態になっていた。
『こ、この体勢じゃないと話せないの?』
なに?この密着度!?とパニックになりそうなのを必死に押さえながらウルフに聞いた。
『この方が断然暖かいやろ?暖かいし、嬢ちゃんにくっつけれるし一石二鳥やと思わん?』
ウルフは嬉しそうに言うけれど、私はそれどころではなかった。
男の人とこんな体勢になったのも、こんなに密着したのも初めてだから頭も心臓もパンクしそうだった。
『嬢ちゃんにしたらこの体勢、嫌かもしれんけどちょっとだけ我慢してくれな?』
何故だかウルフはとても切ない表情をしている。
『昔な…、何よりも守りたい大切な存在がおったんよ。でも簡単には触れられん存在でもあったからいざって時に守りきれんくて。物凄い悔しかったし不甲斐ない自分も情けなくて…。でも今回は目の前に嬢ちゃんがおるし、触れられる時に触れておきたいねん。それに近くにいる方が何かあっても守りやすいやろ?』
ウルフはさっきよりも少し強めに私を抱き締めた。
守りたかった大切な存在?
妖怪のウルフでもそういう相手がいた?
なんだか心臓をギュムッと思いっきり鷲掴みにされたように息苦しい…。
ウルフといると自分でもよくわからない感情が次々と沸き上がってくる。
さっきまでのドキドキは落ち着いたけど、今は何故か泣きそうだ。
『話って…なんなの?』
平静にしているつもりだったけど私の声は思ったよりも小さくて、しかもちょっと涙声になっていた。
ウルフはそれに気付いていないのか、それとも気付かない振りをしてくれたのか私の頭を撫でながら話し出した。
『ノエルちゃんが、逃げる時に街の人達はおろか衛兵達もおらんかったって言ってたん、覚えとるか?』
『うん、私もあの時違和感あったんだ。あんなに賑やかだったのに急に静かになって。
妖怪退治した後も誰もいなかった』
『ノエルちゃんが非難させるには人数は多いし時間もなかったはずや。それにあんな大きな妖怪と戦ったのに街はなんも壊れたりとかの被害もないんよな』
確かに戦っている時に妖怪の拳が地面に振り下ろされたり道が割れたりしていた。
なのに、妖怪が消えた後は建物も道も何事もなかったみたいに元通りだった。
それにお城に戻る途中、誰にも出会っていない。
『妖怪とは戦った…よね?大きい怪我はないけど、擦り傷とかはあるし体も疲れてるし…。妖怪と戦ったのは現実じゃなかったわけじゃないよね?』
私は自分の記憶に自信がなくなってきた。
『ちゃんと現実やで。でも、あんだけ派手に戦って街に影響でんかったってことは、街にいるようで実は街にいなかったんかもしれんわ』
『どういうこと?』
ウルフの言いたい事がすぐには理解が出来なかった。
『もしかしたら、妖怪と戦っとる時は街におるように見せて違う空間におったのかもしれんてことや』
『違う空…間?もしそうだとしたら、王様の他に魔法か何か力を使える人がいるかもしれないってことになるよね?』
ウルフにまた頭を撫でられた。
『さすが嬢ちゃん。飲み込み早いわぁ。あの戦いの跡が何もないてことは、激しい戦いをしても街に影響出んようにしとったてことやね。バカデカいバリアを張ってたんか、異空間に連れ込んだんか…』
私自身も異世界から来た存在だから、他に飛ばしたり何か強い力を使える人がいてもおかしくはないかもしれないけど。
でも、もし本当に力が使える人がいたとしてなんの為にそこまでして妖怪と戦わせたの?
『もし本当にそんな力を使える人がいたとしたら、何の為に妖怪と戦わせたの?
私はこの世界に来たばっかりよ?普通の人間なら妖怪となんて戦えない。でも、私なら妖怪と戦えるって知ってたってことよね。
どうやって私の存在を知ったんだろう?』
『せやな。ちゃんとわかった上でノエルちゃん達も含め4人だけどうにかしたんやろ。しかも、離れた場所にいたノエルちゃん達のとこまで力使っとったてことやんな。
そこそこ力ないと広範囲に影響出せへんと思うし、相手は相当強いヤツなんやろな』
この世界に来てまだ本当に数日しか経っていないのに、いきなり敵かもしれない相手の登場?
運良くウルフに出会えていなかったら、私はただの女子高生だ。妖怪となんか戦えなかったし、生きていられたかもわからない。
私が異世界に飛ばされて来た理由もわからないに。
他の女の子と違って剣道が出来て少し強いだけのただの女子高生なのに、なんでこんなことになってるの?なんで私なの?
ウルフに包まれている安心感なのか、一気に緊張がほぐれてきて知らない世界への不安で泣きそうになってきた。
思わずウルフの腕をぎゅっと握り締めたら、ウルフが私を落ち着かせる為か少し苦しいくらいの強さで抱き締めてきた。
『大丈夫や。エリ一人にはせぇへんし、死なせたりもせんから。絶対、オレがエリのこと守ったる。何があっても側におるから、泣きたくなったらオレの腕の中で泣いたらええ。
ノエルちゃんの護衛やからって無理に強がる必要もないんやで?オレの前では普通の女の子でいてええんよ?』
ウルフのその言葉が温かくて嬉しくて涙が溢れそうになった。
『てか、強がらん弱いエリも一人占めしたいんよな』
ウルフはちょっと照れ臭そうにそうつけ加えた。
この世界に来て初めてホッと出来た時間だったかもしれない。
でも、その時間はすぐに破られてしまった。
『ラブラブなとこ申し訳ないけど邪魔させてもらうぜ』
ゆっくりと開いた窓の外には、見知らぬ男性と犬くらいの小さなシルエットがあった。
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