第14話告白Ⅲ
『せや。あの時、嬢ちゃんにやられた妖怪はオレやねん』
やっぱりウルフだったんだ。ノエルの顔が一瞬、強張ったように見えた。
『あんな間近で妖怪に会って怖かった?』
そう聞いてはみたけれど、私はノエルの気持ちを聞くのが怖くてウルフを撫でている手に知らずに力が入っていた。
『もちろん、間近であんなに大きな妖怪に会ったのは初めてよ。かなり血が出てたから、あの妖怪はもう駄目なんだろうなって思ってたし、今のウルフとは雰囲気全然違うからちょっとビックリしたけど。それよりウルフが居た場所が…』
『場所は街外れの森…だったよね。場所がどうかした?』
ノエルの顔が今度は険しくなっている。
『街の外れでもリース国の領土ならお父様の結界が張ってあるから、簡単には妖怪は入れないわ。でも、ウルフは結界内の森にいたのよね』
『せやな。オレがいたんは結界内の森の中や』
『え…?ちょっと待って?ウルフが結界を破ったってこと?』
『かもしれんけど、もしかしたら結界が弱まっとるて可能性もある』
部屋の中の空気が一段と重くなったような気がした。
『ウルフは自分で結界を破ったかどうかって覚えてないの?』
私は思わずウルフの両頬の毛をギュッと握りしめ、無理矢理ウルフの顔を上向きにした。
『嬢ちゃん、さっきから色々と地味に痛いねんけどなぁ~』
ウルフは私の質問を無視し、両前足を椅子に乗せたかと思うと自分の顔を私の顔に近付けてきた。そして私の鼻をペロッと舐めた。
『!?何してんのよ!』
私は驚いた勢いで思わずウルフの両頬を引っ張った。
『うおっ!引っ張ったら毛、抜けてまうやん。そうなったら男前が台無しやわぁ。嬢ちゃんに責任とってもらわなぁあかんくなるなぁ』
苦笑しながらウルフは人間の姿に戻りだした。
『狼の姿だと嬢ちゃんが撫でてくれるから良かったんやけど、話を進めるなら人間姿の方が話し合いしやすいやろ?
しかもノエルちゃんの表情が暗くなる度に、嬢ちゃんの手に力入るしなぁ』
ウルフは話ながら手早く洋服を着て椅子に座り、冷めきった紅茶を一気に飲み干した。
『それに、こっからはもうちょい難しい内容になると思うねん。せやから人間の姿のがええな、と思ってな』ウルフは真剣な顔で言った。
確かに問題は国自体に関わることになっている。もし、王様の体が弱ってきているとしたら…。それとも魔力だけが弱まってきているのか…。
『ねぇノエル、最近王様に変わったとことか元気ないなぁとかある?いつもと違うかもとか…』
ノエルは考えることもなく即答した。
『お父様は王だけど、この国で一番剣が強いのよ。毎日、衛兵達と剣の稽古をしているの。でも稽古なのに一切手加減はしないから、当番の衛兵達は皆ボロボロにされちゃうのよね。今日もそうだったみたいだし、体も悪いところはないみたいよ』
王様に変化はなさそう。
『でもウルフと、今日会った妖怪以外は国内には現れていないのよ。それも不思議なのよね』
結界が弱まっている可能性もなさそうだけど、じゃあ何故その2体は結界内にいたのか?
『なぁ、ノエルちゃんは嬢ちゃんがこの世界の人間やないて薄々わかっとったんやろ?』
ウルフのいきなりの質問に私はビックリして鼓動が早くなった。
『……わかってるわ。この国どころかこの世界には無い物を持っていたし、服装もそうだし。ただ、まだまだ私の知らない国があるのかもしれないけれど。
でも私の知っている限り、この世界の人達とは絶対に違うところが1つあるわ』
ノエルは強く断言した。
持ち物以外でこの世界の人達と私の違うところ?
私には全く想像がつかなかったけれど『それは見た目てことか?』ウルフはなんとなく気付いたようだ。
『そうよ。たぶん自分では分からないかもしれないわ』
ノエルはちょっと言いにくそうだった。
『エリの瞳って青いでしょ?この世界には瞳が青い人はいないのよ』
『1人も…?』
ノエルは無言で頷いた。私は驚きすぎて他の言葉が出てこない。
『沢山人間おるのに、ホンマに瞳が青いのはおらんのか?』
ウルフも驚いたようだ。
『この世界に国は沢山あるけれど、実は時代を遡ったら全て同じ種族の子孫なのよ。その種族にも瞳が青い人は1人もいなかったみたいなの』
『長い年月で沢山国が出来るのはわかるんやけど、ホンマに種族は1つだけやったんか?』
そう聞かれると自信がないのか、ノエルは少し考えこんでいた。
『種族は1つだけのはずだわ。王族や貴族の人達は世界や国の成り立ちを勉強させられるのよ。言い伝えだと、その種族の人数が増えてきた頃から考え方の違いが生じてきて、離れて暮らす人達が出てきたらしいの。それが、国が沢山出来る元になったって教わったわ』
『せやから瞳の色は変わった色は無いてことなん?』
『そうだと思うわ。それと、人と妖怪は瞳の色が違うって教わっているの。妖怪の瞳の色は青や赤や緑、金・銀とか目立つ色が多いらしいわ。人に近い姿の妖怪もいるから、妖怪かどうか見分ける時は瞳の色を見なさいって…』
さっきよりもさらに重い沈黙に包まれる。
ウルフもノエルもなんと声をかけていいのか悩んでいるんだろう。しばらく部屋の中は沈黙していた。
『あのさぁ…』
私が話し出そうとしたら、先にウルフが話し出した。
『確かに嬢ちゃんの瞳の色は青や。でも嬢ちゃんの血の味は妖怪とちゃうかったで。
それに、嬢ちゃんはこの世界の人間やないんやろ?せやったら嬢ちゃんのいた世界には青い瞳の人間、普通におるんとちゃうか?』
私が今から話そうとしていたことをウルフは聞いてきた。またしてもタイミングが良く、私の気持ちを読んだの?と思う質問だった。
『私の母の出身地は瞳が青い人がほとんどよ。だから、瞳が青い人は沢山いるわ。父は母と出身地が違うから瞳の色が違ってて、私は他の人とはまたちょっと違う青だけど。私の世界は種族も沢山いるから瞳の色の数も沢山あるわよ』
ノエルは不思議そうに聞いている。
『全然違う世界があったら…ってずっと思っていたわ!でも、こういう話って誰もしてくれなくて、空想している暇があったら勉強しなさいって何回お父様に言われたかしら。
本当は、なんでもいいから話をしたかっただけなんだけどね』
ノエルはちょっと寂しそうな顔をした。
10歳の女の子である前に王女でいようとしているノエルの頑張りが伝わってくる。
『私も、ここに来なかったら違う世界があるなんて知らないままだったよ。こんな体験するなんて思いもしないし。でも、この国に来てノエルに会えて良かったって思うよ』
そう言うとノエルは嬉しそうな顔になった。
『そう言えば、王様はいつ私のことを知ったんだろう?予知能力で早くから知っていたとしたら、違う世界があるって知ってたってことじゃない?』
そこは気付いていなかったのか、ノエルもウルフも驚いた顔をしている。
『私のことが見えた時に違う世界から来るってわかってたかもしれないよね?』
ウルフがちょっと考えこんでから
『早くから知っとったとしても、いつの未来かはわからんし内緒にしとったのかもしれんな。だとしたら違う世界のこともわざわざ教えんやろ。前から興味のあった違う世界のことだけ教えても、そこばっか気になって普段の生活に影響出ても困るやろうし。
それに未来は変わることもあるかもしれんのやないか?下手に話して、向こうの都合で世界が無くなってガッカリさせたりとかさせたなかったのかもな』
王様はノエルの心配をして黙っていたのかもしれない。異世界があることを期待していたノエルには嬉しい話だけれど、親の立場からしたら何が起こるかわからない事に巻き込みたくなかったのかも。
『異世界から来るってだけで、何が起こるかまではわからなかったのかもね』
『何が起こるかわからんなら言いたないなぁ。実際に嬢ちゃんが現れても何も言ってこんねやろ?』
『そうね。客人として十分にもてなす様にとしか言われなかったわ。それにお父様が物凄く心配性なのはわかってるし』
ようやくちょっとノエルに笑顔が戻ってきた。
『実は影で物凄く溺愛してそう』
私は思わずそう呟いてしまった。
『本当は城から出したないくらい大事にしたいんちゃうか?』
ウルフはノエルの頭を優しく撫でた。
誰だって自分の子供の事は心配で堪らないだろう。きっと私の両親も…。
その後も話し合いのような話はしていたけれど、結界について完全に納得出来る情報はなく曖昧なままノエルが眠そうになってきてしまった。
『もう部屋に戻るの面倒臭いし、エリと一緒に寝る~』
急にノエルが大声で言うからビックリしたけど、隣で控えているイブに伝える為だったようだ。
コンコン
とイブから了承の合図がきた。
もうかなり眠いらしいノエルから『モフモフして寝たい』と、とんでもないリクエストが出た。
『じゃ、じゃあ私はソファで寝るからノエルはモフモフさせてもらったら?』
私は後退りながら言った。
『ダメ~!皆で一緒に寝るの!』
半分寝てそうなノエルに無理矢理腕を引っ張られベッドに連れて行かれた。
気付いたらウルフは狼姿でベッドで待ってるし…。
私は覚悟を決めてあまりウルフに触れない位置でベッドに入った。
ノエルは狼のウルフに抱き付いて気持ち良さそうに眠りに入っていった。
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