第13話告白Ⅱ

『話す前にノエルちゃん、オレが話してる最中に大声出したり叫んだりはせんようにしてほしいんねんけど守れるか?』

『話が脱線するから途中で口を挟んじゃダメってこと?』

ノエルは真剣な眼差しで聞いてきた。

『まぁそれも多少あるんやけど、ノエルちゃんの叫び声で衛兵とか来られても困るんよ』

ウルフはもしかして全部話すつもり…?

『これから何を話してくれるのかわからないけれど、要は衛兵達に邪魔されては困るわけね?』

『せやな。城から追い出されるならまだしも、万が一牢屋とか入れられても困るなぁ。そうなったら嬢ちゃんも城に居られへんくなるかもしれへんねん』

『わかったわ。どんな話だとしても、まずはウルフの話をちゃんと聞いてから考えていきましょう』

さっきまでの好奇心いっぱいでキラキラした目のノエルではなく、王女として大人達を相手に対応しているノエルがいた。

さすが王女様。場の空気を読むのが上手だし早いな。

『これから話すことは内緒にしといてくれな?イブに話すかはノエルちゃんに任すわ。まぁ常に一緒に行動するなら話した方がいいかとも思うけどな』

『私が光ったことも2人と関係ないわけじゃないと思うの。イブもそこにいたし話しても大丈夫だと思うわ。例え2人が人間じゃなかったとしても私は2人と離れないわよ。だからもし、エリが本当は妖怪だったとしても私には関係ないわ。この国にいる限り誰に何を言われようとエリと一緒にいるわよ。人間同士だって上手くいかない相手もいるのに、妖怪だからって理由だけで避けたくないし、気が合うなら妖怪でもずっと一緒にいたいわよ』

ノエルは満面の笑みで言いながら私の両手を自身の両手で優しく包み込んだ。

『ありがとう。ノエルの方が年下なのに、もう沢山ノエルに救われてる。ノエルを護衛する立場なのに、私の方が守られてる気がするよ』

ノエルの言葉が嬉しくて泣きそうになった。

『自然とそんな風に言えるノエルちゃんは凄いなぁ。見た目可愛い女の子やのに中身、めっちゃイケメンさんやわ』

『それは誉めてるの?』

『もちろんや。それに、ノエルちゃんなら全部話しても大丈夫やて確信したわ』

『私もちゃんとノエルに聞いてもらいたいなって思う』

『約束通り、大きい声とか出したらあかんで?』

ウルフはノエルの頭を撫で椅子から立ち上がり、おもむろに上着を脱いで上半身だけ裸になった。ノエルは顔と耳まで赤くして、両手で顔を隠している。

さすがに私も、上半身だけとは言っても男性の裸を見慣れているわけではないからなんだか恥ずかしくて凝視は出来ない。

『ノエルちゃん、しっかり見てて欲しいねん』

そう言うとウルフの姿がどんどん変わっていった。私も変身するところは見たことなかったかも。

ノエルは指の隙間からただ黙ってウルフを見ていた。ウルフの体がみるみる毛むくじゃらになっていく。体の大きさも人間の姿の時より大きくなってきた。


ウルフは半獣ではなく、完全な狼の姿になっていた。でも、最初にウルフと対峙した時とは違う狼の姿だ。

人間の姿の時よりは大きいけれど、あの時の姿よりは少し小さいサイズだ。

『これが完全なオレの姿や。どや?狼なってもイケメンやろ?』

めっちゃドヤ顔で自分の姿の自慢をしている。やっぱり完全に狼の姿になっても性格は変わらないんだなぁ。

なんか変なところに関心してしまった。

『毛はフサフサで気持ちええんやで?』

ウルフはノエルに近づいて撫でろと催促している。狼と言うより大きな犬のようだ。

ノエルは恐る恐る手を伸ばしてウルフの首あたりを撫で始めた。

『うわっ!すっごいフサフサ!見た目ゴワゴワしてる感じなのに、どうやって手入れしたらこんな毛並みになるの?』

さっきまで顔を赤くしていたノエルの感想はそこ!?

『普通にお風呂入って洗ってるだけやねんけどな』

『なんか妖怪って感じも狼って感じもしないね。私も撫でていい?』

人間の姿のウルフだと触られるにもちょっと抵抗あるけれど、狼姿なら平気な気がしてきた。

『もちろんいいに決まってるやろ?ご主人様』

そう言ってウルフは私の前に移動してきて、大人しく私に撫でられている。

『本当にフサフサだ…』

ウルフも気持ち良さそうだし、私も撫でていると気持ちが落ち着いてくる。

こうなるともう、ただ大型犬を撫でている飼い主と撫でられて喜んでいる飼い犬でしかないなぁ。ウルフは目を閉じて、めちゃくちゃ尻尾を振っている。そのうち、お腹を出して寝転ぶんじゃないかと思うくらいだ。

『なんか気になる言葉があったし、ウルフはエリに撫でられてすっごく嬉しそうにしか見えないけど?』

ノエルはまたしても好奇心いっぱいな顔をしている。ウルフは私に撫でられたまま話を再開し始めた。

『オレは嬢ちゃんの血を貰って嬢ちゃんの家来になったんや。血を貰われへんかったら、オレはこんな風に生きてはいられへんかったやろな。嬢ちゃんの家来になったから、自由に人間の姿になったり狼の姿になったりも出来るようになったんや。家来になる前は性格も姿ももっと妖怪ぽくて荒んでた気ぃするわ~』

狼になっても話し方は軽いけど、少しだけ雰囲気はしんみりとしてきた。

『じゃあエリに会う前は悪さとかしてたの?姿ももっと怖かった?』

さっきとは違ってノエルの顔がちょっと強ばっている。

『この際やから正直に話すな。それからこの先も一緒にいるか、考えてもらってええよ。さっきのノエルちゃんの言葉はオレもめっちゃ嬉しかったで』

ノエルは泣き出しそうな顔になってきている。ウルフが何を話すのか不安に思ったんだろう。

ウルフが何を話すのか私にもわからない。口を挟むことも出来ず、ただただウルフを撫でているしか出来なかった…。

『オレは街中でノエルちゃん達に会う少し前にも、実はノエルちゃんに会っとるんやで。どこで会っとるか想像つくか?』

『街中で会う前?』


………。


…………。


しばらくノエルは考え込んでいた。

『エリやウルフに会う前は、お父様の結界で本当に国内には妖怪は出なくなっていたわ。妖怪に会ったのは、エリと初めて出会ったあの日しか思い当たらない…』

暫くの間、沈黙が流れる。


『もしかして、エリと出会った時にエリが退治してくれた妖怪…?』

ノエルは涙目でウルフを見つめている。

ウルフの目も潤んでいるように見えた。




そうだと思いたくなかったけど、やっぱりあの妖怪とウルフは同じ妖怪なの?


何故だかわからないけれど、あの妖怪とウルフが同じ妖怪であってほしくないと強く願う自分がいた。


だってあの時の妖怪は本当に私に殺気を発していたから…。

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