第10話休憩Ⅱ
『あのね……』
『うん。昼間、何かあったの?』
『あのね……』
『……………』
『……………』
しばらく沈黙が続いた。
ノエルは話し出しにくそうだった。
『なんかあったんか?話しにくいんなら無理に話さんで、ゆっくりちょっとずつ話したったらええよ』
ウルフはノエルを落ち着かせるように話しかけた。
『ありがとう、ウルフ』
『気にせんでえぇよ』
『うん……』
ノエルは両手でカップを包んだまま、また黙ってしまった。
……
………
…………
なかなか話を切り出せないってよっぽどの内容なのかな?
待つのは構わないけど、静か過ぎて眠くなりそう。
紅茶を一口飲もうとカップを持ち上げようとした時、ノエルがカップを持ち上げて紅茶を一気に飲み干した。
ビックリしてカップを口元で止めたままノエルを見ていたら、ノエルは深呼吸をしてから話し出した。
『美味しかった~。紅茶をちょっと飲んでから話そうと思ったら、紅茶が思いの外熱かったのよね。だからちょっと冷めるの待ってたの』
沈黙を誤魔化すかのようにノエルはいつもより早口で話し出した。
『それで冷めるまで沈黙しとったんか?』
ウルフは苦笑いしながらノエルに聞いた。
『ちゃんと分かりやすく話したくて紅茶を飲んで落ち着こうと思ったのよ!
それにせっかく、エリが入れてくれたんだもん。絶対飲みたかったの!』
ウルフに笑われたのが悔しかったのか、ノエルはちょっとふて腐れた言い方をした。
『お姫様は猫舌なんかぁ。新しい発見や』
ウルフはノエルをからかって楽しそう。
出会ったばかりなのに、2人のやりとりは端から見ていると、年の離れた妹が可愛くてちょっかいかけてる兄と構われて嬉しいけどちょっと反抗してみるツンデレ妹みたいな感じだ。
微笑ましくていいなぁと思って見ていたのに
『なんや嬢ちゃん、ほったらかしにされて寂しいんか?』
と言いながら、不意にウルフは私の頬に手を伸ばしてきた。
『べ、別に寂しくなんてないわよ!だから私に触らなくても……』
そう答えつつも、恥ずかしさで顔は赤くなり突然のことにビックリした私はそのまま固まってしまっていた。
ウルフには私の反応が予想外だったのか、ウルフも顔を赤くしてそのまま固まってしまっていた。2人で見つめあったまましばらく動けずにいると
『イチャイチャするなら2人だけの時にしてよね~』
今度はノエルがニヤニヤしながら言った。
ノエルの言葉で我に返ったウルフは慌てて手を離して『いや~、ノエルちゃんには目の毒だったか?』ウルフがぎこちなく答えた。
なんでウルフまで照れてるのよ?
『ウルフの軽さに呆れてるんじゃないの?』
私も照れてしまった自分を誤魔化すように返事をしたらノエルは
『ウルフは軽そうに見えてたぶん一途な恋愛しかしないと思うわよ』
年下でいかにも大事に守られて育てられてきているだろう一国のお姫様が、恋愛経験豊富そうな発言をしだした。
『ノエルは、恋愛経験沢山あるの?』
と発言内容に驚いたけど私は恐る恐る聞いてみた。
一国のお姫様だと自由に恋愛出来ずに、政略結婚のイメージしかない。
それともそれは、勝手なイメージでしかないのかな?
『まだ好きな人も出来たことないけど…。それにもし好きな人が出来たとしてもその相手とは結婚出来ないんじゃないかなぁ。
他の国のお姫様でも恋愛して結婚した方はいないわ。
皆、親に決められた人と結婚しているの。
お父様は何も言わないけど、たぶん私にもどこかの国の王子様の婚約者がいると思うわ』
ノエルはなんだか悲しそうに話し出した。
聞いてて切なくなってくる。
『ウルフのことはただの勘かな。一応、この国の第一王女だから色んな国の王族とか貴族とか沢山会ってて、人を見る目はある方だってお父様に言われたわ』
今度は笑顔で嬉しそうだ。
お父さんが王様だと誉められるってあまりないのかな?
かなり嬉しそう。
『恋愛してみたいって思ったことないんか?』
私も同じことを思っていたけれど、聞いていいのか迷っていたらウルフはいとも簡単に聞いていた。
『恋愛とか結婚とか、正直まだよくわからないわ。色んな国の王子様とかに沢山会わされているけど、私自身というよりもこの国目当ての人達ばかりだし』
まだ子供なのに色々と悟っているような言い方だ。
『不思議に思っているかもしれないけど、態度があからさまなのが多いのよ。お父様が来たら明らかに態度が変わる人ばかりだもの。バカみたいだわ。子供の私でも分かるような態度の違う人とかいるのよ』
呆れているというよりちょっと怒っている?
『ノエル、そういう人達にイライラしてる?』
私はそう聞いてみた。
『国を見て結婚を考えるのが絶対ダメだとは思わないわ。でも、だからとその国にいる人達や私達のことを考えずに自分の利益だけや、お金儲けだけを考えている人はお断りよ。何の為の王族なのかしら。もしあんな王族がこの国にいたら追放してやるのに』
ノエルが段々、熱くなってきた。余程、嫌な人がいたんだろうな。
『お父様もその人を嫌っているわ。私のことも飾りにしか思ってないし隙あらばお父様の位置を狙おうとしていたの』
『随分、個性的な奴やったんやなぁ。そんでそいつをどないしたん?』
『どうもしてないわよ。何年か前に流行り病にかかって命は助かったみたいだけど、寝たきりになってもう自分で動けないらしいわ』
『そりゃ、変な欲を出した罰やろなぁ。でも毛嫌いし過ぎちゃう?』
『そんなに嫌な感じだったの?』
私も聞いてみた。
『政略結婚でも国の事も思ってくれる人ならいいわ。それと………』
『それと?』
私とウルフの声が重なった。
ノエルは熱くなり、両手でテーブルをバンッと叩いて立ち上がった。
私は驚いて体がビクッとなった。
『あまりにも年上の男性は嫌!あの人はお父様より遥かに年上だったのよ!
なんならお祖父様の方が年が近かったくらいよ!なのにあんな考え方で国を好きなようにしようとしてた上に、正妻の他に側室が5人もいるのよ!!』
『かなり年上な上に既婚者!?』
私もウルフも驚きを隠せない。
政略結婚なら年上もあるだろうとは思っていたけどまさかそんなに上とは。
『それだけじゃないのよ!』
ノエルがだいぶ体を乗り出して怒りながら続きを話し出した。
『王族でも国の繋がりの為に既婚者に嫁ぐのも普通にあることだわ。でもかなり年上で妻6人いるだけじゃなく孫が私と変わらないくらいの年齢なのよ!年上の孫もいたわよ!
この国の技術が欲しいからってよく孫より年下の子に求婚出来るわね!』
驚く話しか出てこなくて、私もウルフも何も言えなくなっていた。
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