第9話休憩Ⅰ
『あ~、疲れた~』
私は例のベッドに倒れこんだ。
ご飯を食べてお風呂も入って、その後にこのベッドにダイブ。
フカフカだから疲れた体には気持ちいい~。
日本にいたら一生味わえないんだろうな、とか思ったらちょっと得した気分。
『昨日の今日なのに色々ありすぎ…』
目が覚めたら知らない世界にいて、夜中には妖怪とその場の勢いで契約しちゃったし。
『本当に契約なんかして良かったのかなぁ』
私は仰向けになってベッドの天蓋を見つめた。でもそのおかげで妖怪退治が出来た。
それに体の傷が1日でかなり良くなっている。もう殆ど痛みもないし、傷も消えかかっている。
これもウルフと関係しているのかな?
『も~明日はゆっくりしたい~』
ベッドが気持ち良くてウトウトしていたらしい。
コンコン
ドアをノックする音で目が覚めて寝ていたことに気が付いた。
『は~い…』
寝ていたからちょっと返事が遅くなってしまった。
ベッドから起き上がりドアを開けに行こうとしたら、ドアを開けてウルフが入ってきた。
『私がドアを開ける前に入ってこないでよね!』
『ん?もしかして寝てはったんか?』
『ん~、そうみたい。一気に色々ありすぎて疲れちゃってたみたい』
ウルフはベッドに寄ってきて私の隣に座った。
『今日は嬢ちゃん、ホンマに頑張ったなぁ』
言いながらウルフは優しく私の頭を撫でてきた。
『特に何もしてはいないよ…。本当に倒したのか、今だに信じられないもん』
『せやなぁ…。動きは早かったけど、考えることはしてなさそうやったし。本能で動いとるんやないかって感じやったわ』
『うん。殺気を感じて…と言うか妖気を感じてるのかって感じだったんだよね』
会話は出来てたようだけどしゃべり方はゆっくりだったし、思考能力があるような感じもしなかった。
しかも、最後もあんな風に跡形もなく消えちゃったし…。
『そういえば、妖怪以外にも気になることが…』
コンコンコン
話をしてる途中でまたドアをノックする音がした。
ウルフはここにいるし、こんな時間に誰が来るんだろう?
一気にウルフが警戒モードになったのが伝わってくる。
『俺が開けに行くから嬢ちゃんは逃げやすい態勢にしとき』
私の不安を感じとったのか万が一を考えてウルフがドアを開けに行ってくれた。
お城の中だからと絶対安全な訳ではない。
私の世界のようにセキュリティがしっかりしている訳ではなく、ドアは鍵が1つ付いているだけ。
衛兵がいても、倒されていたらどうにも出来ないし。ここでは本当に自分の身は自分で守るしかない。
私は咄嗟にベッドの横に立て掛けていた剣を握り締めた。
『こんな時間にどちらさん?』
『あれ?ウルフもいるの?ノエルです』
『ノエルちゃん?こんな時間にどうしたん?よく部屋を抜け出してこれたなぁ』
ウルフが話し掛けながらドアを開け、ノエルが入ってきた。
ノエルもお姫様らしいフリフリの可愛いパジャマに、可愛いらしいガウンを着ていた。
『こんな時間にごめんね。寝てるかなとも思ったけどまだ起きてて良かった~』
本当にホッとした表情だ。
『ノエルが平気なら私は全然かまわないけど』
私は慌ててノエルの近くに移動した。
『こんな時間にお姫様が1人で来るのは、普通に大丈夫なことやないと思うけどなぁ』
『なんで?』
私はいまいちウルフの言葉が理解出来なかった。
『いくらお城の中とはいえ夜中に1人でウロチョロしとる時に刺客がいたらどないするん?』
『あ…そっか~。絶対安全とは言い切れないよね。ウルフみたいな妖怪だったら入って来れちゃうし。実際にウルフは夜中にいきなり部屋に来たわけだしね』
刺客は人だけとは限らない。
今日みたいにいきなり町中に妖怪が現れることもあるかもしれない。
私も名ばかりとは言え護衛として考えが甘かった。
今の私のいる部屋とノエルの部屋は遠い。
何かあってもすぐに駆け付けられる場所ではない。
考え直さないといけない事が沢山あるな。
『一応、護衛としてこのお城にいるなら色々と考え直さないとね…』
意外な時に今後の課題が沢山出てきた。
『あっ!入り口でごめん。どうぞ入って』
『もちろんイブもちゃんといるわよ。さすがに夜中のお城の中は暗くて灯りがないと歩けないし。それに……』
『それに…?』
珍しくノエルが言い淀んでいるから私とウルフの言葉が重なった。
『夜中のお城の中は本当に暗くて苦手なの…。小さい時にちょっと……』
語尾が段々小さくなっていって、何か思い出したくないことでもあるような感じだ。
いつもの元気なノエルとも違うな。
『とりあえず座り』
ウルフが言いながら椅子を引いてノエルを促す。
意外にもウルフは妖怪にしては、紳士的な行動をスマートにこなすことがある。
『今、何か飲み物入れるね』
この部屋には簡単な飲み物なら作れるように、小さな台所のような場所がある。
お湯を沸かしながらノエルに聞いてみた。
『イブも来てるなら一緒に入ってきたらいいのに、イブは来ないの?』
『私がエリとウルフと3人で話したいって言ったの。イブはこの隣の小部屋にいるわ』
『え?小部屋なんてあるの?』
廊下にこの部屋のドア以外のドアなんて近くにあったかな?
まったく気が付かなかった。
ノエルがクスクスと笑いながら
『お城や貴族のお屋敷とかには、身の回りの世話をする使用人を連れて泊まったりすることがあるの。だから大体のお屋敷には客室の隣に必ず使用人用の小部屋があるのよ。使用人の部屋だからうちの場合、ドアはあまり目立たないようにしてあるわ』
『さすがお貴族様~。そんな部屋があるなんて。そんならその小部屋とご主人様の部屋は中で行き来、出来るんか?そんでこの部屋も、もしかして…?』
ウルフが目を輝かしながらノエルに質問した。
『もちろん、何かあった時すぐ駆け付けられる様に部屋は繋がってるわ』
『せやったら俺もその小部屋で十分やけどな~』
ウルフは嬉しそうにそんなことを言い出した。
『でも一応、鍵はついてるわよ。開け方は主人にしか知らされないの。それにお屋敷によってその方法が違ったりするのよ』
ノエルが笑いを堪えながら答えている。
『そうなんかぁ…』
ウルフの声は残念そう。
でも本気で聞いてたとしたらちょっと引くかも。
『紅茶出来たよ』
3人分のカップと紅茶の入ったポットと砂糖をお盆に乗せてテーブルに運んだ。
『ウルフは何がしたいのよ?』
カップに紅茶を注ぎながら聞いてみた。
『そりゃもちろん嬢ちゃんのこと、心配してるからやないか。下心あるわけないやろ~』
ウルフは横を向きながら答えたからなんだか胡散臭いけど、それ以上聞くのは止めた。
『それよりこんな時間にどうしたの?眠れないから部屋に遊びに来たって訳ではないんでしょ?』
私はノエルに話を戻した。
『うん…。今日の妖怪に出会った時のことなんだけどさ…』
さっきまで元気に話していたノエルのトーンが、また
暗くなりだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます