第8話覚醒Ⅱ

『エリ達、大丈夫かな?

あんな大きな妖怪、初めて見たよ!しかも街中に出るなんておかしくない?』

私は勢い余ってイブの両腕に掴みかかった。

『ノエル様、あまり大きな声を出さないでください。妖怪に見付かったら危ないですわよ』

こんな状況でもイブは冷静で、しかも注意されてしまった。

『ごめんなさい。興奮してつい…。

でも、本当に街中に出るなんておかしくない?

それに見回りの衛兵達も見当たらなくない?』

今度はちゃんと小声で話し掛けた。

『そう言えばそうですわね。街中には妖怪が出たことはないから、そんなに人数もいないのかしら?』

『それは関係ないわよ。妖怪は出なくたって悪者が来ることがあるから、必ず衛兵は決まった人数で常駐させるのよ。

だから私も安心してしょっちゅう買い物に来てたのに…』

『ノエル様、しょっちゅうなんですか?いつの間に?後で詳しく聞かせてもらいますわね?』

イブがニッコリと微笑む。

余計なことまで話してしまった~。

この笑顔の時のイブは後が怖い…。

私は慌ててイブの腕から手を放し話題を変えた。

『そ、それよりもあの2人遅いわね。せっかくの仲間との再会だったのに、ウルフも可哀相ね。妖怪に邪魔されちゃって』

『そうですわね。でも、旅人なら当たり前なことかもしれないですわよ。旅に危険はつきものですし…』

『無事に戻ってきたら、沢山料理出してあげて。それと、ウルフも城に泊めてあげてはダメかしら?』

イブは困ったような感じで溜め息をついた。

『エリ様の旅の仲間とは言っても王様から見たら、得体の知れない男性を泊めるのは嫌でしょうね。

まぁ、今回妖怪を倒せたとしたらノエル様から説得されるのがよろしいかと思いますわよ』

『そうか。じゃあ、絶対に妖怪を倒すように祈っていよう。怪我なんかしないで戻ってきますように…』

私は目を閉じて祈った。


エリなんてまだ傷だらけ。

私はこの国の姫だと言っても何も出来やしない。

皆に守ってもらって助けてもらって生きている。

自分も戦えたらいいのに。

エリみたいに妖怪に立ち向かうような勇気があれば…。

力も勇気もない自分が悔しい。

いつかはお父様みたいに皆を守れる王になりたいのに…。

今の私には2人の無事を強く祈るくらいしか出来ない。

思いが強くなるのと一緒に段々と祈ってる手にも力が入る。

2人の無事を思う気持ちと共に、何も出来ない自分の情けない気持ちもまた、一緒に強くなっていった。


『ノエル様、大丈夫ですか?余り強く握ると血が出てしまいますわよ?』

心配するイブの声はどこか遠くの方から聞こえてくるような感じだ。

2人が戻ってきたら、笑顔で迎えてあげよう。

深呼吸をして体の力を抜きイブに返事をしようとゆっくりと目を開けた。

それと同時に遠くの方で微かにエリの声が聞こえた気がした。

次の瞬間、私の体が徐々に光だした。


『ノエル様?ノエル様⁉どうされたのですか?』

あわてふためくイブに両腕を掴まれた。

どうしたかと聞かれても私にもわからない。

でも、体が光だしても私の気持ちはさっきより落ち着いている。

さっきまでの自分に対する悔しい気持ちがなくなってやたらと冷静でいる。

体が宙に浮いているみたいにフワフワした感覚がする。

なんだろう…。

光に包まれて心は穏やかで心地いい。

今や全身が光っている。


『ノ、ノエル様⁉ど、どうしましょう…。

ノエル様が光だすなんて…』

『イブ、落ち着いて。私は大丈夫よ。光に包まれて逆に気持ちは落ち着いたから』

『本当ですか?でもこんなことって…』

『ねぇ、さっきから遠くの方でエリの声が聞こえない?エリの声が聞こえた瞬間不思議な感覚がして体が光だしたのよ』

『エリ様の声で?』

『うん。なんかエリの声に呼応するみたいに心がポカポカしてきて、体もポカポカしてきたと思ったら光だしたのよ』

光だしてから自分でも驚くくらい、心が落ち着いていて自分ではないような感じがする。

本当に初めてで不思議な感覚。

『ノエル様‼あっちの方でも光が見えますわ』

『え?光?あっちはエリ達が妖怪と戦っている方向じゃない?』

『そのようですわね。あちらでも何か光だした物があるようですわね』

妖怪と戦っているエリ達の物と私が同時期に光だしたみたいだ。


エリと初めて会った時、初めて会ったような感じがしなかった。

何か自分達が気付いていないところで、エリ達との繋がりとかあるのかな?

私が光だしたのも、意味があることだといいな。


遠くの方から物凄い煙と大きな音が聞こえてきた。

『ノエル様、あれは…』

『イブ、大丈夫よ。

あの2人ならちゃんと倒してくれるわ』

いつもどんな時も冷静なイブは、私が光だしてから冷静ではなくなっていた。

そんなイブを落ち着かせる為に、私はイブの両手を優しく包み込んだ。

『大丈夫。大丈夫よ。

あの2人なら大丈夫。

あの2人を信じてここで待っていましょう』

『ノエル様…』

イブが泣きそうな顔をしている。


しばらくそうしていると、私の体の光が弱まってきてそのうち光は消えていった。

『ノエル様、光が消えちゃいましたわね』

『あれ?本当だ~‼なんで?

なんで消えちゃったの?心地良かったのに~‼』

光が消えて残念がっている私を見ていたイブが

『ノエル様…。光が消えてしまうと途端にいつもの元気すぎるノエル様ですわね』

『どういう意味よ?』

なんとなくかなり子供扱いされた気がした。

『光ってる間のノエル様は落ち着いていて、驚くくらい大人でしたわ。

光が消えて残念ですわね。本当、さっきまでは別人でしたわ。普段もあんな感じだといいのですけれど…』

光が消えた途端、冷静になったイブにまたいつものように小言を言われる。

『悪かったわね!まだまだ子供で』

『ノエル様、本当に別人のようですわね』

イブは呆れたように溜め息をついた。

また小言を言われるのかと思ったけど、イブは私に目線を合わせるようにしゃがみこみ、私の左頬に軽く触れた。

『普段のノエル様も大好きですわよ。立場上、早く大人にならなきゃと思っていらっしゃるのは十分存じ上げておりますわ。

でも、焦らずにゆっくり大人になっていいんですよ。

ノエル様はまだ10歳なんですから。私がお側についておりますから、ノエル様の成長を見させてくださいませんか?』

『イブ…』

不意にそんなことを言われて私は思わず泣きそうになった。


『あ!ノエル様。エリ様達が来ましたわよ』

『本当?』

少し遠くの方に2人の姿が見えた。

見える範囲では大きな怪我とかはなさそうだ。

『エリ~!ウルフ~!

お疲れ様~!2人共怪我とかしてない~?』

叫びながら駆け寄っていく私を2人は笑顔で抱き止めてくれた。

『えらい待たせたみたいやなぁ。そっちは大丈夫やったか?』

言いながらウルフは頭を撫でてきた。

『妖怪は倒したし怪我もしてないから。心配させてごめんね』

『エリはまだこの前の怪我が治ってないんだし、心配するに決まってるでしょ。

でも、2人が無事に私のところに戻ってきてくれて嬉い』



今の私に出来そうなこと、見つけた。

私の代わりに妖怪と戦って

帰ってくる2人が万が一、大怪我しても安心して治療して休める場所。

安心して生活出来る場所。


それを確保しておくことが私の役目。

そして、常に2人を笑顔で迎えられるようにすること。


それを今の私が出来るよう頑張るのが目標だ!

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