第7話覚醒Ⅰ

『ウマソウナニオイガヘッタ…

クサイニオイデハナガクサリソウダ…

オマエ…ナニヲシタ…』

さっきよりも妖怪が苦しそうな感じだ。

妖怪は妖怪の匂いに弱いのか、ウルフが相手だから弱いのか?

『何をした言われても何もしてへんわ!

何がどうして俺らが変身したんかこっちが聞きたいわ』

確かに、どうして私まで耳と尻尾が出てるのか気になるところだけど。

でもさっきより、私のパワーも上がっている気がする。

ウルフの力を分けてもらったような感覚だけど、そんなことあるのかな?

まだ頭は混乱したままだし知りたいことは沢山ある。

でも、今ならこの妖怪を退治出来る気がする。逆に今じゃなきゃ退治出来ないんじゃないかと思う。

何故だかさっきよりも強く確信がもてる。

『ウルフ、今なら私もやれると思う。知りたいことは沢山あるし混乱もしてるけど、変身した今なら退治出来るって気がする』

『せやな。アイツの言うこと気にしてたら時間が勿体無いわ。

嬢ちゃんのオーラもさっきと違うしな。

それに、嬢ちゃんとのデートの時間が減るんも困るわ~』

『デートの時間?』

『イヤ、なんも。

さて、どう退治しようか嬢ちゃん?なんか策あるんか?』

あれ?退治出来るかもとは思ったけど、それ以外は何にも考えてなかった。

どうしよう…2対1で対戦した経験もないし、こんなに大きな相手と対戦した経験もないし…。

単純な方法でも引っかかりそうだけど。

『ねぇ、単純に前と後ろから挟み撃ちってどうだろう?』

『せやな。あまり動きも早くなさそうだし、前と後ろで…』

匂いが気に食わないのか、妖怪がイライラしているのがオーラから伝わってきた。

『ウルフ、危ない!』

私がとっさに叫んだ次の瞬間


ヒュンッ


妖怪が右腕をウルフ目掛けて降り下ろしてきた。さっきまでしゃべり方も動きもゆっくりだったのに、腕の振り方は異様に早かった。

その風圧で私は後退りした。


ドスンッ


『おわっ‼』

『ウルフ、大丈夫?』

妖怪の腕の振りで砂埃が舞って視界が見辛くなっている。

『ウルフ?』

砂埃が舞う中、上の方に金色の光が見えた気がした。

すんでのところで、ウルフはジャンプをして妖怪の右腕を回避していたようだ。

『ウ~…イナイ…

アイツ…イナイ…

イナイ…イナイ…』

妖怪は思いっきり右腕を振ったから右手が地面に食い込んで動けないでいた。

砂埃が晴れてきて、空高く飛んで逃げたウルフがまだ空中にいるのが見えた。

しかも妖怪の頭の後ろがわで妖怪の死角にいる。


ウルフと言葉を交わした訳でも目が合って合図を出した訳でもない。

なのに、今がチャンスなんだと体が勝手に反応した。


『うわ~‼』


私は叫びながら剣を振り上げ夢中で妖怪目掛けて走りだした。

私の声に妖怪はビックリして一瞬動きが止まったが、すぐさま左腕で私を襲おうと腕を振り上げてきた。


『ぅ~~ぁあ~~~‼』


さっきよりも大声で叫ぶ。

それに呼応でもしたのか、私の剣が光だしていた。

妖怪は剣の光の眩しさで、腕を振り上げたまま動きが止まった。

私だけに意識が集中していた妖怪はウルフの気配に気付かず、空から降りてきたウルフは爪で思いっきり背中を切りつけた。

それと同時に私は力一杯、妖怪の体の前を左上から斜め下へと切りつけた。


切りつけた瞬間、ウルフは妖怪の体を土台にしてジャンプをし、素早く私を抱えてさらにジャンプをして妖怪から遠ざかった。

『グア~~ァ~…

アァ…ァ……』

妖怪の唸り声が段々と弱く小さくなっていく。


倒せたかと思ったけど、ある違和感に気付いた。妖怪の体を切った感触はある。

でも切られた妖怪からは一滴の血も出ていない。

妖怪が弱っていくのはわかるけど、もしこの妖怪に血がないのならどうなったら倒せたとわかるのだろう。

そう考えだした途端に私の体はガタガタと震えだした…。


『エリ、大丈夫か?』

ウルフが心配そうに私の顔を覗き込み、体をギュッと抱き締めてきた。

私は思わずウルフの腕にしがみついた。

『妖怪を切った感触はあったけど、傷口から血は出てないよね?この妖怪は血がないの?』

ウルフは何故か答えるまでに間があった。

『普通の妖怪なら色は様々やけど、血はある。

血がないのだとしたら生きている妖怪ではないのか、もしかしたら…』

もしかしたら?

生きていない妖怪って何?

もしかして、死体が動いていたとか?

さらにウルフは力強く私の体を抱き締めてきた。


ジュウ~ジュ~


もの凄い煙と音を出しながら妖怪の体が泡になって溶けていく。


『オマエ…タ…チ…

マダ…コレデオワリ…ダ…トオ…モ……』


ジュウ~~……


話の途中で妖怪の体は完全に溶けて跡形もなく消えてしまった。

『妖怪、倒せたの?』

『そうみたいやな。

でも、最後のあの言葉は何を言いたかったんや?』

『あまりよく聞こえなかったけど、良くない感じだったね』


妖怪を倒せたのに、なんとなくスッキリとはしなかった。

なんだろうこのモヤモヤした感じ。

『嬢ちゃん、立てるか?怪我とかしてへんか?そろそろお姫さま達のところに行って安心させたらなな』

『大丈夫、怪我はしてないよ。2人のところに戻ろうか』

ウルフは私の手をとって立たせてくれた。

気が付いたら私もウルフも耳と尻尾がなくなっていた。

剣もいつの間にか光が消えていつもの剣に戻っている。

妖怪は倒せたのに、中途半端な気持ちを残したまま私はその場を立ち去るしかなった。






『人と妖怪…。

あの2人、もしかして俺らみたいなヤツか?

俺らだけじゃなかったのか…』

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