第5話遭遇

朝食を食べた後、ノエルとイブと一緒に街に出た。

さすがに雪が降る日が多い国。雪が積もっていなくてもコートを着ないとちょっと寒い。

それでもこの国の人は慣れているからか、みんな笑顔だし元気だ。子供達なんかコートなしで走り回って遊んでる。

寒くても、過ごしやすい国なんだろうなっていうのを感じた。

『何か気になる物、あった?あそこは花屋さんで、あっちは小物屋さんもあるわよ。私はあの小物屋さんがお気に入りなの』

お店の中には可愛らしい小物が沢山並んでいる。

『お城からじゃわからなかったけど、本当に大きな街なんだね。全部回るとしたら歩いて見るのは無理そう』

想像してみたらとっても疲れるイメージしか浮かんでこなかった。

『この街は首都なので一番大きいですが、他の街もわりと大きいですよ。国の大部分は森や林、山だったりと自然が多いんです。それゆえ我が国では、木で物を作る仕事が主で山や森に近い場所に作業場や工場が出来て首都に並ぶくらいの大きな街が出来ました』

イブがざっと国のことを教えてくれた。

『へぇ~、そうなんだ。ここは首都だからお店の方が多いの?』

『宿場もあるしお城には他国の貴族とかも来るから、作業の音でうるさくならないようにって言うのもあるみたい。でも修理の作業場は沢山あるわ。1日中、見てても飽きないわよ』

嬉しそうに話すノエルは作業場が大好きみたい。

それにしても、色々考えて街造りされているんだ。そういうのって、考えてみたこともなかったな。

色んなお店を覗きながらさらに進むと、段々と道幅が広くなり街の広場に出た。遠目にはそんなに大きいと思わなかったけど、近くで目の当たりにすると大きさが半端なかった。

その木の大きさに圧倒され、街中なのに森の中にいるような感覚だ。

『凄いでしょ?樫の木なんだけど、大昔にこの辺で大火事があったらしいの。その時にこの木だけが無事に残ってたって話よ。樫の木がここまで大きくなるのも珍しいみたい。しかもこの木は1本じゃなく2本が絡み合っているのよ』

『えっ?2本なの!?じゃあ、街の守り神みたいな感じ?』

『そうね。昔から戦争があったり、大雪が酷かったりするとここにお祈りする人もいるわね。後は、2本が絡み合って支えていることから恋愛成就にもいいって言われているわ。

真冬になると感謝の気持ちも込めて、この木に飾り付けをするのよ。キラキラしてとっても綺麗なの。是非、エリにも見てもらいたいな』

『私も見てみた~い』

いつ元の世界に戻れるかわからないなら、この国で楽しく過ごしたい。

3人で木を眺めていると、どこからか叫び声が聞こえてきた。

『嬢ちゃ~ん、嬢ちゃ~ん。こっちや、こっち。ようやく見つけたで~』

手を振りながら走って現れたのは、昨日の妖怪だった。

まさかこんな昼日中の街中に現れるとは思わなかったから、返事も出来ずに私はそのまま固まってしまった。

『いや~、めっちゃ探したでホンマに。いきなり消えよったからえらい心配したわ~。でも、無事にまた再開出来て良かったわ~』

『え?え?』

驚きのあまり何も答えることが出来ずオロオロしてしまう。

するとノエルが私の前に立ちはだかって

『失礼だけど、あなたは誰なんですの?彼女との関係は?』

凄い剣幕で聞き出した。

『これは失礼、綺麗なお嬢さん。この国に入る前に他の国で一緒に旅をしてたんです。旅の途中ではぐれてしまって、散々探し歩いてようやく再会することが出来ました。ウルフと申します』

『旅の仲間ですって!?私もこんなイケメンと旅をしてみたいわ』

さりげなくノエルの手をとり手の甲にキスをする。相変わらず軽く感じるけど、ノエルは納得したようだ。

『急に現れてビックリしたんか?でも元気そうでホンマに良かったわ~』

私に歩み寄り満面の笑みでそう言いながら、頭を撫でてきた。

『なっ……』

目の前に現れたことにビックリしたのに、さらに頭を撫でられ驚き過ぎて体がビクッとなり声も出ない…。

『オレに話、合わせとった方が楽やと思うで』

頭を撫でたまま耳元に近付いて小声で囁いてきた。確かに、本当は妖怪で私の家来だなんて言えやしない。もしかしたら私まで妖怪扱いされてしまうかもしれないし。

『本当、久しぶり。ちょっと色々あったから挨拶する間もなく出発しちゃって…』

上手くしゃべれなく、声が小さくなっていた。

『まぁ元気な姿でまた会えたからええよ』

なんで本当に会えて嬉しそうな笑顔で話せるんだろう?妖怪だから嘘もつける?それとも家来だから…?

『久々に会って緊張でもしてるの?エリ、なんかぎこちないわよ、顔も赤いし』

ノエルが肘で私をつついてくる。

『え?そ、そんなことないよ…』

自分では普通にしてるつもりだけど、ノエルがニヤニヤしながら面白がっている。

『ノエル様も人が悪いですわね』

イブも笑っている。なんか2人して楽しんでるように見えるなぁ。

『エリが可愛くてつい。せっかくだしちょっと休憩して何か飲みましょうよ。旅の話も聞きたいわ』

ノエルは完全に楽しんでる…。いつか本当のこと、バレるんだろうな。

4人で何を飲みたいか話し合っている途中、急に辺りが暗くなってきた。

『なんか急に曇ってきたわね。早めにお店に入りましょう。私のお薦めの店でもいいかしら?』

結局、中々決まらなかったからノエルお薦めのお店に行くことにした。

さっきまで雲一つない天気だったのに、こんなにも急に変わることもあるんだ。

お店に向かおうとした時、前から突風が吹いてきた。

『きゃっ』

『うわっ…。嬢ちゃん!大丈夫か?』

風が凄くて目が開けられない。あれ…?前にも同じような体験してるような気がする…。



『グヘヘヘ…

ウマソウナニオイガスルゾ…』


近くで不気味な声と共に

ジュルっと涎を啜る音が聞こえた。

風が弱まってきたのかと思って目を開けてみたら、目の前にはウルフの背中があった。皆を自分の後ろに庇ってくれていた。

『お前、なんやねん?』

ウルフ越しに前を見ると大きな影があった。

『オマエハオイシクナサソウダ』


ピカッ


と雷が鳴り一瞬明るくなったそこに見えたのは、大きな角が2本も生えた妖怪だった…。

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