第4話契約Ⅱ

『おはようございます、エリ様。今日はお天気も良くて暖かい日になりそうですわ』

一気にカーテンを開けられ、陽の光の眩しさで目が覚める。

正直、夜中のことがあったから寝不足でまだ寝ていたいけど、自分の家ではないしそんなことも言っていられない。

『おはようございます、イブさん』

『イブ、で結構ですわエリ様。グッスリ眠れました?動いても大丈夫なら一緒に朝食を食べたいと姫様が仰っていますが、いかがいたしますか?ゆっくりお召し上がりになりたいのであれば、こちらに朝食を運ばせますが?』

『一緒に食べます!!』

食事の誘いが嬉しくて、そう答えながら思わずベッドから飛び起きた。

『まぁ!ウフフ。かしこまりました。

ではこちらのお召物にお着替えください』

イブに笑われてしまった…。

用意された洋服に着替えると、可愛い感じのパジャマとは真逆でカチッとしたパンツスタイルだった。

パンツは動きやすいから好きだけど、この世界で女性がパンツスタイルは珍しいのでは…?

不思議に思いながらも準備を終えてバルコニーへ。

『おはようございます、エリ様。天気が良くて気持ちのいい朝ですわね』

『おはようございます、ノエル様。朝食にお招きくださりありがとうございます。バルコニーって言っても部屋の中なんですね。

でも、普通の部屋ともなんだか違う感じですね』

想像してたバルコニーとだいぶ違ったからちょっと驚いた。

『この国は1年を通して雪が降る日が多いから屋根のないバルコニーは無理なんです。他国の屋根のないバルコニーに憧れるわ』

『そういうものなんですね。私が住んでるところは滅多に雪は降らないから、沢山積もってる雪は憧れですけど』

『人はない物に憧れを抱くものですわ。雪も沢山積もると生活に支障もでるし、家から出られない日もあるんですよ。冷めないうちに頂きましょう。一応、軽めの物にしてもらったわ』

『ありがとうございます。美味しそう。

いただきます』

見た感じは私の世界の食べ物と一緒に見える。パンにベーコンにスクランブルエッグみたい。まずはスクランブルエッグみたいな料理を一口。

美味しい~。味や食感もスクランブルエッグと同じだ。だいぶお腹が空いていたから、無言で黙々と食べ続けていた。

『美味しいみたいで良かった。何が食べられるかわからなかったから、メニューはイブにお願いしたのよ』

『もしかして、ノエル様は普段食べないような料理…?』

『食べないと言えば食べないけど、食べる時もあるわよ。体調が悪い時とかはシェフの料理じゃなくてイブにこういう感じのを作ってもらったりするわ』

病人食みたいなものかな。

でも、今の私には丁度良かった。

『ご馳走さまでした。美味しくて一気に食べちゃった』

『お口に合って良かったですわ。ノエル様は何を食べても美味しかったとか何も言ってくださらないんですよ。』

ため息混じりでイブが言うと

『いつも美味しく感謝して食べてるわよ!だから、残したことないでしょ!』

ふて腐れながらもデザートを食べているノエル様はなんだか可愛い。

私の気持ちも明るくなって自然と笑顔になっていたらしい。

『やっぱりエリは笑顔が凄く可愛いわ。不安なこともあると思うけど、 私達が一緒にいるから安心していいのよ』

『そうですわ、エリ様。私のこともお母さんとまでは思えなくても、親戚のおばさんとか近所のおばさんとか思ってくれたら嬉しいですわ』

『ありがとうございます。2人の気持ち、凄く嬉しいです。本当に出会えたのが2人で良かった』

2人の心遣いが嬉しくて涙目になっていた。

『そうだ!今日は天気もいいし、皆で街に行こうよ。エリにも見せてあげたいしいいわよね?』

『エリ様が一緒なら心強いですわね。それに一緒にいた方がノエル様も無茶は出来ないでしょうし』

『無茶なんてしたことないわよ!』

無茶をしていなければ、私はノエル様に出会ってはいなかった気がする。

イブも笑いを堪えている。

『ところで、エリの洋服なんだけどきっと驚いたでしょう?女性なのにズボンだものね。あのね、お願いがあるの』

『お願い?色々、助けて貰ってるから私で出来ることなら…』

『城の者達でもエリを連れてきた理由を知ってるのは一部だけなの』

『そりゃあ、一国のお姫様が部屋を抜け出して妖怪にやられそうになったなんて知られたら大変ですものね』

意外とイブは辛口だ。ちょっと呆れてる感じもするけど、部屋を抜け出したのは初めてではなさそうだし、だからとかなり厳しくし過ぎてる感じでもない。

『だからエリを城におく理由がなきゃ駄目なのよね。それで、エリは私の護衛として常に一緒に行動して欲しいの』

『私が護衛!?私なんてそんなに強くないわよ!!この前のことだって、たまたま運が良かっただけだと思うし…』

『別に本当に護衛が必要な場所には衛兵達が一緒に来るし、街中に行くのに衛兵は物々し過ぎるの。エリが一緒ならお父様も許してくれると思うのよ。ただ一緒にいてくれるだけでいいのよ』

『万が一、何かあった時に守りきれるかなんて自信はないけど…。私が一緒にいることで少しでも自由になれて役に立つなら』

『本当に?引き受けてくれるのね!ありがとう、エリ~』

『うわっ!』

ノエル様が嬉しさのあまり飛び付いてきて、私は椅子から落ちそうになった。

『でも、そうなるとずっとズボンになるけどいい?』

『もちろん。ズボンの方が動きやすいからいいよ』

『動きやすくなるなら、多少上の服も変えていいわよ。それはエリに任すし、衛兵とも区別出来る感じがいいわよね。

あ!あと…出来ればノエル様って呼ぶのも止めて欲しいなぁ…』

『え?でも護衛として行動するならそれはちょっと…』

『では、周りに人がいない時やお城の中だけでも違う呼び方をしていただけませんか?エリ様はノエル様にとって初めて年の近い女の子のお友達なんですよ』

『うん、わかったわ。じゃあ…ノエルって呼んでもいい?』

イブからも頼まれたので、緊張しつつ私は頑張って呼び捨てで言ってみた。

『うん。エリ、これからよろしくね』

ノエルは物凄く嬉しそう。皆の前で間違って呼び捨てにならないよう、気を付けなきゃ。

うまくやれるか自信はないけど、やるしかないから頑張るかと自分に言い聞かせながら最後のデザートも一気に食べ終えた。

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