第3話契約Ⅰ

どのくらい、話をしていたのだろう。

外はだいぶ暗くなっていた。

やっぱり、話を聞いてもあまり思い出せなかった。

なんとなく戦った記憶は残ってはいるけど、この世界にどうやって来たのかも覚えていない。剣に着いたはずの妖怪の血は、衛兵に拭いてもらったと言っていたから見事にピカピカになっている。

妖怪を切った感覚はあるような気はするけど、剣を持ってみたところで戦った記憶は戻ってはこなかった。


これから先、どうしたらいいのだろう…。

いきなり消えて、皆心配してるのかなぁ。

お母さんも凄く心配してるんだろうなぁ。

お母さんに会いたい…。

寂しくて泣きそうになった時、どこからか聞きなれた音が聞こえてきた。


ピロリ~ン♪


メールの着信音だ!

私は急いでリュックの中をあさりスマホを取り出した。


〈エリ、どこにいるの?

メール見たらすぐに連絡ちょうだい〉

お母さんからのメールだ。

この世界でもスマホが使えるんだ!

私は急いでお母さんに電話をかけようとスマホを操作した。

何も音が聞こえない…。

メールを送信してみた。


宛先を設定してください


とエラーメッセージが出た…。

メールは届いたのに、なんでこっちからは送れないの?

しかもお母さんから沢山メールが来ていた。

メールの着信時間を見ると、私がいなくなってまだ1日は経っていないようだ。

でも、ここでは私が倒れてから気がつくまでに一晩は経っているはず。

またしても頭が混乱しだして、今度は頭が痛くなってきた。

とりあえず今日は寝よう。

本当は、寂しいし辛いし思いっきり大声出して泣きたい。

でも、この状態でこれ以上考えても何もいい案は浮かんでこない。

諦めてフカフカのベッドに潜りこんだ…。



どのくらい寝ただろう。

息苦しさで目が覚めた。

『う~ん…。ん……』

目の前にぼんやりと人影が見えた。

『きゃ……』

ビックリして叫ぼうとした瞬間、誰かに口を押さえられた。

恐怖で泣きそうになっていたら

『シ~ッ。何もしないから大声はださないで』

夜中だからか、相手は小声で話しかけてきた。

『本当に何もしないから。信じられないかもしれないけど、夢でここに行かないと命ないよって言われて』

襲う気なら起きる前にやってるだろうし、そんなに強い力で押さえられてるわけでもない。

何より耳元で囁かれて、その声にちょっとドキッとしてしまったのは悔しい。

とりあえず話は聞いてあげようかと思い、相手の手首を軽く掴んで口から離した。

『何もしないって言われても普通は信用出来ないよ。とりあえずスタンドの電気を点けるわよ』

口から心臓が飛び出しそうなくらいドキドキとしているのを抑え、なんとか声を出せた。

『あぁ。でもオレの姿見ても叫んだりしないでくれる?』

何言ってるんだろう?

自分に自信がないのか、それとも顔に大怪我してるとか?

不思議に思いながら体を起こし腕を伸ばしてスタンドの紐を引っ張った。

カチッ

と音がして電気が点いた。

振り向いて相手を見た瞬間、叫びそうになったのを慌てて自分の両手で口を押さえた。

ホン…モ…ノ?

相手の頭から耳が生えててしかも尻尾まである。

もしかして妖怪?

驚きのあまり声を出せないでいると

『いきなりのことで、ビックリしたやろ?

でもオレも正直、訳分からんのや。

オレが昨日、戦った相手言うんはわかるか?』

あまりはっきりとは覚えていなかったけど、怪我の場所や声、そして何故だか匂いでそうかもしれないと思い私は頷いた。

相手はまた話し出した。

『嬢ちゃんに切られたとこ、思ったより傷が深いし出血も多くてな。危ない状態やったんよ。見掛けによらず嬢ちゃん、いい腕してるわ~。まさかこのオレに傷をつけるなんてなぁ。おっと、スマンスマン。

必死で逃げとったら丁度いい穴を見付けてそこでちょっと休憩してたんよ。気付いたら寝てしまいよってな、夢の中で誰かが話しかけてきたんよ』

話の内容より、こっちが素なのか最初の喋り方と違うのが気になった。

『話、続けてええか?

オレのことはまたおいおい話すとして、ここからは大事な話するで?』

急に真剣な顔で大事な話と言うので、私は自然と正座になっていた。

『その夢の中で、嬢ちゃんの家来になれば助けてやる言われたんよ。ただなぁ…』

急に黙って顔も耳も下を向けて、置いてきぼりにされた子犬のようになってしまった。

『ただ…何?はっきり言っていいよ?』

私は話の先を促した。

笑顔だけど、なんだかちょっと悲しそうな顔。

『嬢ちゃんの家来になるには、嬢ちゃんの血をほんの少し貰わなあかんねん。夜中にいきなりこんなヤツに押し掛けられて、本当かも分からん話聞いてくれて、嬢ちゃんは優しいなぁ。受け入れるのも断るのも嬢ちゃんの自由やさかいな』

普通に明るい感じで話してたから今まで気付かなかったけど、よく見るとまだ傷から血が滲んでいるし息苦しそう。額に汗も滲んでいる。

本当に助かるのかも分からない方法を信じて怪我も危険も押してここまで来たんだろう。

『今の話、全部信じていいのか分からない。でも受け入れてもいいよ。ただし、あんたが裏切ったら私が必ず退治するからね!』

『それでええよ。たぶん嬢ちゃんの血貰ったらそこで家来としての契約が完了するんよ。だから嬢ちゃんを裏切ることはないで?』

何故だか相手の笑顔に安心した。

でも、早くしないと意識を失いそうなくらい話すのも辛そうな感じだ。

『話はまた後で聞くから。さっさと契約しちゃおう』

『ありがとな。じゃあちょっと嬢ちゃんの血、貰うからな。腕、出してくれるか?』

私は素直に左腕を差し出した。チクッとした痛みを感じたと思ったら、血が滲み出してきた。そこに相手が口を近づけて私の血を飲み込む。

なんだか心臓がドキドキして変な気持ち。

妖怪と言えど男性にこんなことされたことないし。

1人でドキドキしていると、急に相手の体が光りだした。

眩しくて直視出来なくて思わず顔を背けた。

しばらくして光が収まってきたから相手を見ると、耳と尻尾がなくなっている!?

しかも体の傷も治っているみたい。

私の血の効力なのか?

それに耳と尻尾はどこにいったの?

『これで契約完了や。不思議と傷も治ったし耳と尻尾は出し入れ自由に出来るようやわ。これからよろしく頼みます、ご主人様』

そう言いながら深々とお辞儀をされた。

いきなりご主人様と言われて私は戸惑いと照れ臭さで変な顔になってしまった。

『じゃあ、今は一旦退散してまた日が昇ったら会いに来るからな。それまでゆっくりおやすみ、エリちゃん』

彼に頭を撫でられると急激に眠気が襲ってきて、途中からはあまり聞こえなくなっていた。

彼が私を布団に寝かしてくれると、そのまま夢の中へと落ちていった…。

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